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髪飾り

 私はその後、幾つかの魔道具を作らせてもらったあと一旦宿に戻った。もちろん、シオシオとうなだれたカイロスさんと一緒に。


「結局、隠密の石と、攻撃を弾く防御の石をいくつか作ってみたんだけど、売れるかな? 売れたら何割か利益を私にもくれるらしいよ? 売れるといいなあ~」

 なんて話しかけてみたんだけど、おっさんは力のない目でジロリとこちらを見てくるのだった。

「……売れるに決まってるだろ。そんな魔道具あったら大金はたいてでも欲しい奴なんて山程いるんだよ。あとはどの金持ちに売るかだけだ。隠密だの攻撃無効だの、作れる魔術師なんてお前くらいだろ。なんなの嫌み?」


 うわーやさぐれてる……くわばらくわばら。

 こりゃダメだね、今は何を言ってもひねくれて受け止めそう。

 とりあえずとっとと宿に帰って寝てもらおう。

「晩御飯なに食べようねえ~」

 などとできるだけ無難な会話だけしておこう。そうしよう。


「……なあ、お前が離婚したいって言ったらさすがにあの旦那も契約を解消すると思うんだけど、どう?」


 どう? じゃねーよ。

 このおっさんには耳が無いのか?

 せっかく人が無難な会話をしようと思っているところに、何を言い出してるんだよもうー。

「お断りだって言ってるでしょーが。何度聞いても同じです」


 これ、チラとでも肯定的な返事をしようものなら言質をとったと言って押し進められそうなので、私はできるだけ関わりたくないです。寝言でも言っちゃダメだ、きっと。


「まあ、これから変えさせればいいか……」


 だから! 人の! 話を! 聞け!


 もう、早く宿につかないかな……なんだその意味不明な使命感。迷惑……。

 なんなの?「じいちゃん」の呪い?


 これが私を好きだって言うならまだわかるけど、この人、ただ私の魔力が欲しいだけだと公言しているからな。変わるわけないじゃないか。「だんなさま」の爪の垢でももらえ。愛は基本なんだよ。


 その晩、私は厳重に結界を張って寝たのだった。

 膝の呪い、手動で発動出来ればいいのに……。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 次の日の朝。私はもはや恒例となった、街の教会に向かった。

 今日こそは。今日こそは『再来』の糾弾はありませんように。なむ。



「……神は言いました。ありのままを受け止めなさい……」


 なんとお説教しているのは、昨日、聖魔術師と紹介されたはずのカイルさんだった。

 え? なんで?

 カイルさんと目が合う。にっこり。

 うん、人違いではなさそうだ。あの人神父さまでもあったの!?


 疑問はほどなく解消した。

 カイルさんはお説教の時間が終わると私を神父の部屋に呼んでくれた。


「たまに神父の代理をするんですよ。今この街の神父は出張中でね。一応資格はあるので、最低限の仕事をね?」

 なるほど? たしかに冠婚葬祭は、とくに葬は待ってくれないもんね?

 でも、聖ホニャララと神父さまと両方するって、いいの? と、一応危なそうな単語は伏せ字で聞いてみると。

「まあ、それぞれ別の資格ですからねえ。しかももう一つのホニャララは普段は何もすることはありませんし」

 と別段問題なさそうだ。でも世界観が全然違って混乱しないのかしら? もはや私の中ではその二つは敵と味方くらい違うんですが……。

 カイルさん、器用だな。


「でも両方兼ねていると便利なこともあるんですよ? 例えば『再来』の情報とか、一番最初に入りますし」

 ああー……。


「今流行りですよねえ。何か目新しい話はありますか?」

「そうですね、昨日もまた二人ほど名乗りを上げたそうですが、どちらも髪の長さが違ったのですぐに偽物と判別したそうです」


 髪の? 長さ!?

 そんなことも知られているの!?


「ちょうどあなたくらいの長さなんですよ、本当は。あ、これは極秘情報ですので内緒ですよ? でも教会は『再来』の目撃証言を集めて、かなり詳しい似顔絵を作っていますから、髪を切ってもわかりますけどね」


 ひぃーーー!


「大変ですねえ、あなたも」


 うん。まあ昨日の様子からして多分わかっているとは思っていたから驚かないよ。しれっと高度な魔術も要求してきたしね。しかしモンタージュも見てたとは。


 もしかして、思ってた以上に私、窮地に立っている?

 こっそり見せてもらったその似顔絵は、前に見たブロマイドよりもずっと現実的に私だった。

 これはやばい……。のこのこ教会に偵察に行っている場合ではなかった。


「お困りですか?」

 商売人のカイルさんが声をかけてきた。


「大変困ってます」

 正直にゲロった。




「おーい、こっちにシエル来てるか?」

 と、カイロスのおっさんがカイルさんの店に来たときは、私は真剣に魔道具選びの真っ最中だった。


「要は、一番目立つその黒髪を変えればいいのではないですか?」

 というカイルさんの言葉に私は希望を見いだした。

 なんと髪の色を変える魔道具があるという。

 素敵! それを早く知りたかった!


 何色にするかとか、デザインはどれにするかとか、久しぶりに私は真剣にアクセサリーを選んでいる。常に着けているなら気に入ったものがいいよね! 幸いカイルさんのお店には、素敵なデザインの髪飾りがいろいろあった。うふふ、迷う~。あ、これ素敵~~。


「なんだそれ、髪飾りか? ……なるほどな。髪の色を変えちまうのか。でもお前、自分で出来るだろ、どうせ」

「カイロス、余計な事は言わないでください。商売の邪魔ですよ」

 あ、カイルさんが、すっごく嫌そうな顔をしている。

 え? 考えたこともなかったよ。自分で?


 ふむ?

 ちょっとやってみる?


 目を閉じて、自分の体を意識する。

 全ての体毛の色、変われ。

「カチリ」


 お? なにかかかったよ?

「ほおー?」と、カイロスさん。

「…………」と、無言のカイルさん。


「出来るじゃねーか、流石だな。でも金髪はだめだ、金髪は。今度は教会だけじゃなくて王族から直接追っ手が来るぞ?」


 あれ? 金髪になってたのか。え、王族?


「金髪は王族の証だ。黒髪より危険な色だな」

 へえ、王族は金髪なのね。こわっ。解除解除ー。

「カチャ」


 そして私はこの国で一番多いという地味ーな茶色に変え直してみた。ふむ。慣れないけど馴染んではいるかな?


「……簡単にやってくれますねえ。それでは私はあなたに何を売ればいいんでしょうね?」

 とカイルさんに恨みがましく言われてしまった。


 うーん。でも何かの拍子にこの魔術が解かれてしまうと困るしね? なにしろ初めての魔術なのだ。効果の程なんて知らないよ。それにせっかくちょうど気に入った髪飾りもあったしね?

 自分の魔術を今一つ信用出来ない私は、髪の色をツヤツヤのハニーブラウンに変える色替えの髪飾りを一つ買った。私の作った茶色よりずっとすてき。カイルさんセンスあるわぁ。


「これを着けていれば、私が気を失っても、びっくりしたりして全部結界を解除するようなことになっても魔術は効いたままなんですよね?」

「そうです。髪から外れない限り」

「お前の結界をうっかり解除するより、うっかり髪飾りが外れる方が有りそうじゃねえか?」


 うるさいなー。素敵なアクセサリーを買うのに理屈はいらないの!


「では、初回お買い上げ特典として、この髪飾りに『瞳の色を青くする』の魔術もかけておきましょう」

 と言ってカイルさんは髪飾りに手をかざして詠唱を始めた。

 まあ! 素敵!


「え、どうせお前それも自分で」

「「うるさい」」


 カイルさんと私、見事にハモりましたー。



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