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一服盛られました

 

 とりあえず私は宿屋のロビー? 食堂? に降りてみた。

 情報収集の第一歩だ。

 ちなみにシャドウさんはお部屋待機。この人やることが無くなるとすぐ寝ちゃうのよね。なのでそっとしておこう。


 ロビーで寛ぐ荒くれ者だの、旅の人だの、そこそこ人がいたけれど、その全員から注目を浴びてしまった。


 まあそうだよね、私は今、"末裔"と一緒にいた女。

 そして今1人で行動している。普通は危ないよねえ。


 剣を持っている人がチラホラいるし、それなりに物騒そうだよね。


 まあ、真っ昼間な上に人が沢山居ればなんとかなるでしょう。虎穴に入らずんば虎子を得ずってね。


 なんて思いながら、まずは宿屋の主人と話してみようとカウンターに行ってみたら、さっき映像で見た荒くれさんが早速近づいて話しかけて来ましたよ。


 本当に興味津々だなこの人。

 では初コミュニケーション、レッツトライ。


 私は記憶喪失の迫真の演技もとい事実そのままで、気がついたら旅してたんですけどぉ。ここはどこ? 一緒のあの人やたら白いんだけど、え? "末裔"? それってどんな人なの? と聞いてみた結果。


 ここがトゥールカとかいう王国で、今いるのはそのほぼ最北端だった。


 で、"末裔"っていうのは、どうやら昔の王様の末裔を意味しているらしい。


 なにやら不思議な力があって、色素が白くて、昔は絶大な権力があったけれど、350年くらい前に最後の王様が死んでしまったと。


 で、たまーに色素の白い人がいると、その王様の子孫なのではないかと噂されるのだそうだ。で、昔の王様に不思議な力があったから、"末裔"も特別な力があるのではないかと密かに人気があるらしい。密かに。


 なぜ密かにかというと、今の王室は違う一族なので、大っぴらに人気が出ると反逆心を疑われて過去には逮捕者も出ているらしい。


「あんたんとこの"末裔"さあ、何が出来るのかな!お前さんの記憶を取り戻したりできないのかねぇ。オレは最近膝が痛くてよう、これ治してくんないかなー。ちょっと頼んでみてくんない?」


 なにそれ何て言う神様? 便利だなー「不思議な力」っていうイメージ。


 まあでも言われてみれば、千里眼? 透視? みたいなことはやっていたよね。


 でもそれを言うと面倒な騒ぎになりそうなので、今回はお口にチャック。「さあ…」ととぼけておく。


 だいたいこの国の人たち、300年以上も前に滅んだ人の末端の子孫にそんな能力があると信じているのかい。

 さすがにそれは夢を見すぎでは?


「まあ最後の王様は独身のまま死んだらしいし、子供いても隠し子だなっ!げっへっへ。まあこんな話が出来るのも国の隅っこのここだからだぞう? みーんな知ってる話を人に聞いたりしちゃダメだぞー。王都だったら即逮捕されてめんどくさいことになるぜぇきっと。何故だか王室が目の敵にしてるからなぁ」


 なるほど了解。


 じゃあシャドウさんと一緒に王都なんかには行かない方が良さそうか。華やかそうだからちょっと興味があったんだけどなー、おしい。


 というかそう考えると「だんなさま」、あの人も"末裔"と言われちゃう人種なのかな?


 見えない尻尾をブンブン振ってるご機嫌な人を思い出して、ちょっとほっこりしてみたり。

 今は一人寂しく寝ているのがかわいそうだなー…


 まあ彼が寝ているせいで私は放置されているわけですがね。


 新婚早々放置プレイ。なんでだ。



 そんなことを考えていたら、荒くれさんが飲み物をくれた。


「まあお近づきのしるしに一杯おごってやるよ! ここの酒はうまいからな! そんで"末裔"サマにもよろしく言っといてー、できたらオレの膝治してくれってお願いしてくれよー」って、

 買収目的なら随分安くないか?


 まあ酒が出てくるってことは、成人女性に見えているんだな。よし、私は成人。立派なおとな!


 ありがたく初めてのお酒をいただこうかとジョッキを口元に運んでみたが、あれ?


 ちらっと荒くれさんが飲んでいるお酒と見比べてみる。一見同じお酒に見えるんだけど、なんだこれ、私のお酒だけなんかモヤモヤしているんだけど…


「結構キツいんですねこれ」とか言いながら周りの人の持っている酒も観察。


 やっぱり私のだけモヤってる!? よーっくみると紫っぽいモヤモヤがうっすら見えるんですけど!?


 怪しいよね絶対……

 宿の主人を探すと何処かに消えている。おーい。逃げた?


「さあさあグイっと! 一緒に飲もうぜ仲良しの印だー! カンパーイ!」

 とか言われても、無理だろ。薬か毒でも入ってそうな雰囲気がマンマンだぜ。


 さてどうしよう。

「ちょっと多いから、お部屋で"末裔"さんと飲もうかなーあはは」と苦し紛れに言ってみた。

 が、「なんだよー俺の酒が飲めないってのかよ!」とまあ想像通りの反応だよね。これはますます怪しいだろう。


 本当にさてどうしよう。


 とりあえずこのモヤモヤが嫌な感じだから、ちょっと手で煽って吹きとばす感じに……パタパタ……お? 紫のモヤモヤが少し散ったぞ? これ湯気だったのか? だったらフーフーしたらもっと減るかな?


 なんてフーフーしていたら、しばらく漂っていた紫のモヤがほとんど見えなくなった。なんだ良かった。まあ周りの人たちはおかしな人を見る目で見ていたけどね。


 まあほとんどモヤも飛んだっぽいので、一口だけ飲んでみる。飲まないと解放されなさそうだし。


「ゲホッ!ゴホッ!なにこれニガーイ!」と騒ぎ立てればもう飲まなくても文句は言われないと期待して。


 おごり主の荒くれさんは「もっと飲めば旨さがわかる!」とか言っていたけれど、誰が飲むかよ! と、ここぞとばかりにイヤーンまずーいと騒いで周りを味方につける戦法だ。一口で十分。

 作戦通り「可哀想だろー無理強いするな」いただきましたー。


 で、やっぱり何か入っていたね。

 一口しか飲んでないのに凄い勢いで酔ってきたよ。おかしいよ絶対。あのモヤモヤを飛ばさずに飲んでいたら、もっとマズかったんじゃないかな。

 下手すると動けなくなっていたんじゃ?


 若い女が一人だとやっぱりこういうことになるんだね。


「おーいダイショウブカ? チョットヤスムカ?」

 って、棒読みのセリフが白々しいんだよおっさん。周りもあーあって感じで見てるし。


 これモロに飲んで意識が無くなったら本当に危険なやつじゃん。もー。


「なんか気持ち悪いから帰りますー」と立ち上がったら、荒くれさんがギョッとした。立てると思わなかったんだね。大丈夫、普通に酔っている程度だから、まだ歩けるよ。


 あのモヤ飛ばしといて本当に良かった!


 それでもおっさんは

「いやいやふらついてるよ~? ちょっとヤスメバ~?」

 としつこく食い下がってきたけれど、思ってもいないセリフは棒読みなんだよ、分かりやすすぎなんだよ、もうちょっと上手く演じろよ!拒否!


 と歩き出したら、ちょうどその時"末裔"もといシャドウさんが現れた。


 まあ、千里眼できるからね、この人。きっと見てるだろうと思っていたけど、やっぱり見てたね、ナイスタイミング。


 まあ正直その方が助かるわ。女の身としては。


 さすがに旅の同行者の男が現れたらマズイと思ったのか、さっきまでしつこく絡んできていたおっさんも引いた。


 というか、これは引くわ。


 シャドウさんの周りに、見えないブリザードが吹き荒れている。目付きだけで「メチャクチャ怒ってます」を表現出来るってすごいな。


 これでおっさんの膝は治らないことが確定しました。残念だったね。はい、さようなら。


 ええ、この時は本当にそう思っていましたとも。


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