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放置された花嫁は、ただ平穏に旅がしたい  作者: 吉高 花 (Hana)
第一部

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茶番

 カイロスさんと打てる手を考える。

 作戦会議だ。

 目的は、市長を抑え、神父を黙らせる。

 そして素早く逃走。


 正直気が進まない内容だけど、特に神父さまを敵に回すとこれから時間稼ぎが難しくなるかもとのことなのでしょうがない。



 私はまず、教会に向かった。

 神父さまのお説教を目立つ服を来て拝聴する。

 そしてそのあとご挨拶だ。


「神父さま、とても素晴らしいお話でした! 私、この街に来て初めて教会というものに来たのですけれど、こんなありがたいお話を毎日拝聴できるこの街の人たちが羨ましいです! 今まではあまり考えたことがありませんでしたが、これからは神様を感じて、感謝しながら旅をしたいと思いますう~」


 と、すっかり心酔した、という感じに渾身の演技を披露してみました。まあ私の演技力はお察しなので、ボロがでないことを心から祈る。

 頑張れ私! バレそうだったら自分に暗示もかける所存!


「おや、今までは神様を身近に感じる機会があなたには無かったのですね。それは不幸なことです。このような大きな街だけでなく、本当はもっと小さな街にも教会があるべきだと私は常々思っているのですよ」

「まったくその通りだと私も思います! 私も何かお力になれればいいんですけれど……」

 としょんぼりしてみせる。


「私の主がこの街を出立しようと考えておりますので、もうこの教会に来れないのが残念です……。でもこれからは教会のある街に行ったときには、必ず教会に行って、神様に感謝を捧げたいと思いました~」


「そうですか。それは残念ですね。しばらく滞在なさるなら、私もたくさんお話したいことがありましたのに。ちなみに今後はどちらに向かわれるご予定ですか?」

「はい、私の親戚が南におりますので、南に向かいます」

 東だけどな!


「そうですか、あなたの旅に神の御加護がありますように」

「ありがとうございます!」

 にっこり。ついでに勢い余って神父さまの手を握る!

「あっ! すみません! つい……慣れ慣れしくしてはいけないですよね……」


 さすがに顔を赤らめるなんていう芸当はできないが、一見私も若い娘、流石に嫌がられることはないと信じたい。

 目的は、私と触れ合ったという記憶を残すため。

 たぶん『再来』には「さわれない魔術がかかっている」という噂も広まるだろうから念のため、というカイロスさんの作戦だ。

 私からは(さわ)れることは何故か話題に上がらないので逆手にとるのだ。

 私は『再来』ではないのよ~~。


 頑張れ私! 女優になるんだ!


「いえいえ大丈夫ですよ。道中お気を付けて」

「はい! 神父さまもお元気で……!」


 ふう~~。ミッション1、終了です。

 慣れない慣れない。でも頑張る。逮捕されて魔女裁判にかけられることに比べれば耐えられる。




 さて宿でおっさんと待っていると、火の鳥イカロスが帰ってきた。

『逃がしてきたよ~。さすがプロの盗賊たちだね! ボヤ騒ぎを起こしただけで、すごい手際で脱獄してたわよ~』


 いいのかこれ……。

 イカロスは、昨夜市長が捕まえたと言っていた盗賊たちを逃がしてきたのだ。


 ちょっとまだ納得いっていないんだけど、でも。

「おっしゃ、じゃあ行くか!」

 とカイロスのおっさんはやる気満々だ。

 いいのかなあ、これ、犯罪じゃないの? ま、いっか。逮捕以下略。


「監査官さま、よくいらしてくださいました、ただ、ちょっと今とりこんでおりまして……」

「おやあ? どうされました? そういえば外が騒がしいですねえ。何があったのですか?」

 などと白々しく市長を問い詰める。

 監査官に隠し事もまずいのか、市長が渋々盗賊たちの脱獄を報告している。うん、ごめんね……。下手に隠すと疑われる立場だよね……。


「それは大変ですね! 私もお手伝いしましょう! おい、行くぞっ!」

 対しておっさんは明るく元気満々だ!


 イカロスが姿を隠したまま盗賊たちを追う。そして私とおっさんがそのイカロスの気配を追う。

「この方向だと、山だな。俺たちが降りてきた方か。まあ、そこで一旦落ち合ってから逃げるんだろうな」

 おっさんニヤニヤしているよ。

 そうだね、森だったら暴れやすいもんねえ。


 この街は山に抱かれているような地形なので、三方が山だ。一度入ってしまうと探すのが大変になる。普通はね。実際、市長の出した追っては見つけられていない。団体さんになると、どうしても動きが遅くなるしね。


 イカロスのお陰で私たちはすぐに盗賊たちに追い付いた。メンバーが揃うまで留まっているらしい。仲間思いだこと。

 盗賊たちが全員揃ったのを確認する。


「じゃあ行くか!」

 はいはい行きましょー。


「おーい、お前ら、脱獄なんてダメだろ~?」

 どの口が言ってんだ……。


「大人しく捕まれよ~」

「なんだコイツ!」

 いきり立つ盗賊たち。


 まあ、そうだよねえ。普通そうだよねえ?

 うん、ごめんね?


 ぜんぜん動けないよ

「カチリ」


 結界のせいで体が動かせなくなって、顔に?マークを盛大に浮かべている盗賊たちに、おっさんが形ばかりの派手な攻撃を加えて転がしていく。そして持参した縄でちゃっちゃと捕縛。

 うん、おっさん楽しそうだね……。


 結界を解かれた盗賊たちは、縄に繋がれたままカイロスさんに市長のところまで連行されたのでした。


 なんだこの茶番。



「ありがとうございました。こんなことになって、いやはやお恥ずかしい」

 そうだね、取り逃がした上に他所で暴れられたら自分の評価駄々下がりだもんね? しかも逮捕してすぐ逃げられて尚更だよね。


「いやあ、向こうもプロの盗賊団ですからねえ、ショウガナイデスヨ。お役に立ててヨカッタデス」

 大丈夫ですよ~報告には入れませんから~わかってマスヨネ~? いやまあウッカリは誰にでもアルケドォ~? と、ごりごり恩? を売るおっさん。怖い。


 え? 私? 怖かったですう。でもカイロスさんが心配でついていったら、バッタバッタと盗賊たちを倒していて凄かったですう。

 はあ……。やれやれ。



 最後に仕上げ。

「神父様、私たちはもう出立します。でも私、神様の素晴らしさを教えてくださったこの教会のために何かしたいと思ったのですが、全然良い考えが浮かばなくて。でも気持ちがそれでは収まらないので、これを受け取ってください!」

 と言って、小切手を手渡した。

 最後は金で殴る。


 結構、いや、すごい大金よ? これ。

 金額は十分に賄賂になって、でも身元が「とても裕福な家の娘」にだったら、頑張ればもしかしたら出せるかもしれない金額だ。カイロスさん本当に物知りだな。


「これはこれは、素晴らしいお心ざしをありがとうございます。神もあなたの行いを褒めてくださることでしょう。お嬢さんに神様の祝福がありますように。南への道中気を付けて」


 しずしずと退場。



 さあ! 逃げるぞ!

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