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市長

 

 監査官という立場は、どうやら随分偉いらしい。


 教会で神父さまとお話した次の日には、私たちはレンティアの市長さんの館に招かれた。

 市長ですよ!? 町長より大物だよ!?


 そそうが有っては怖いのでお留守番しようと思ったんだけど、カイロスのおっさんに強制連行されました。

 どうもカイロスさん、あの「セシルの再来」の噂を気にしているようで、あんまり一人でフラフラするのは止めろとのことですよ。

 まあ、そこらへんの事情への対処なんて私は全くわからないので、そう言われてしまうと従う他ありません。


 と、いうことで、連行です。しかも印象を変えるために、私、髪を後ろに1つに結んでいます。なんならだて眼鏡もしましょうか?

 どうやら私の肩書きは、カイロスさんの助手です。でも何にも出来ること無いけどね!



「よくいらっしゃいました! いかがですかレンティアは。今は交易も順調ですし、先日には前から悩まされていた盗賊団も逮捕できましてね……」


 まあ、政治の話はよくわからないので、私は目の前に並んでいるご馳走をひたすらいただきます。

 最初はちょっと会議とか、ただの話し合いとか、何か出るにしてもお茶くらいだろうと思っていたけれど、これ、市長さん夫妻との、がっつり晩餐です。いやあびっくり。


 とりあえずは和やかに進む話をなんとなく聞きながら黙々と食べていたら、また例の話題が出たので驚いた。


「そういえば最近『再来』と呼ぶ話はご存知ですかな? そう、その、えー、ゴホン、「セシルの再来」です。どうやらことごとく水脈を言い当てたとか。おおさすが、監査官どのはご存じでしたか。あれはどういったことなんでしょうね? そんなものがわかる人間なんて、本当にいると思いますか? かつてセシルが水脈を教えたと言われている地で、またもや同じ事が起こるなんて、出来すぎとも言えませんかね?」


 ちょ、なんでそんなに有名になってんだ、私!

 やめてー! 本当にもう許して……。


「どうやら各地で探し始めているようですね? 特に教会が危険視しているようで。もしレンティアに来たら詐欺罪で即刻逮捕すべしと、うちの市の教会連中ももう煩くてしょうがありません。でもわかっているのは若い女で、黒髪だということだけ。それだけでは到底見つけられる訳がないと思うのですが、貴方はどうお考えです? 見つかりますかね? 監査官と一緒にいたと言う話もあるそうですが?」



 はい? また!? また、私、逮捕の危機なの!?


 ちょっと待って? 私が何をしたというの? 井戸掘っただけだよ?

 井戸掘らなかったら、今ごろ本当に死者が出ていたかもしれないんだよ?



 なのに! どうして!? 詐欺ってなに!



 驚愕を顔に出さなかった私えらい。驚きすぎて反応出来なかったとも言うけど。


「いやあ、監査官は他にもたくさんいますからねぇ、私も噂だけでして」

 などとカイロスさんがのらりくらりとかわしているのを私は死んだ目で眺める他なかった。


 なんてこと!


 教会怖い。昨日の神父さまも本気だったけど、権力集団の本気って、半端なく怖い。市長をせっつくとか、なにしてくれてんの?


 なんで良かったねーで終わらせてくれないんだろう?

 何にも悪いことしていないのに。……していないよね?


 決めつけ怖い。権力こわい……。なんて、怖いんだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 宿に戻った私は魂を手放していた。

 真っ白よ? 私は真っ白よ。


 何にも考えられないよ。


 私が何をしたというの?

 なんで犯罪者になってるの?

 しかも問答無用だよ? 絶対話なんて聞いてくれなさそうじゃないか!


 井戸は掘ったけど。でも、それは良いことよね? あそこで見捨てていたら、今ごろは違う意味で苦しかったに違いないよ?


 どこで間違えたんだろう? 水が出る前に逃げればよかったのか? でも、それでも噂はどのみち出る。じゃあ、どこで……?


 あれか? 「龍の巣亭」でトゲを抜いた時か?

 でも、トゲが刺さっていたら、抜きたくなるよね? スポッといきたくなるよね!? それで最後に逮捕って、誰が予想できる?


 ガックリしている私を、カイロスさんが慰めてくれる。

「まあ、まだお前とはバレてはいないんだから、大丈夫だよ。まだしばらくはな」


 ……それ、慰めになってる?


「でも、そのうち細かい情報が伝わったらヤバいかもな」


 ひぃ~~。


 私の楽しい旅を返して……。

 私は無害な人間なんです。お願いだから放っておいて……。


「……まあ、無害かどうかはおいといて」

 カイロスさん、遠い目やめよう? そこは突っ込まないで。行間を読もう。ね?


「こりゃあ、しばらく仕事は隠密にした方が良さそうだな。教会が相手だとさすがに分が悪い。後ろに国王がいる。今日連れていったのは失敗だったか……。オレもここまでになっているとは思ってなかったからなぁ。顔を覚えられていたら厄介だなちょっと」


 やさぐれていた私はつい言ってしまった。

「忘れてもらう?」

 あの暗示のやつで、忘れろって言えばきっと。


「……お前、たまにびっくりすること言うよな。つい今しがた無害とか言ってなかったか? 誰かさんは」

 えー、そこ、呆れるとこ?


 だって、他にどうすれば……。


 うーん、痕跡残っちゃうかな……?

 下手に足掻くと墓穴を掘ることになるだろうか?

 今まで様々な物事を収めようとしてきたのに、なんか、綺麗に収まったためしが無い気がしてきたよ。


 何故なんだ……。


「なんか巻き込んでごめんね? もしも煩わしかったら、別行動でもいいよ? お仕事続けて?」

 と、言ってみたが。

「はあ? 何言ってんだよ。今さら見捨てるわけねぇだろ。今回のことはオレにも責任があるしな。井戸掘れって言ったのも、他にも探せって言ったのもオレだ。気にすんな」


 やだ、おっさんカッコいい……。



「出来るだけ早くシュターフに行った方がいいな……。シュターフに着いてしまえばいろいろやりようはある」

 カイロスさんが呟いた。


 私は疲れ果てていた。ちょっとショックで何も考えられない。


 ……とりあえず寝るわ。今警察が押し掛けて来ることは……ないよね?

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