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出来ない事も当然あるよね

 

 自然豊かな山道を歩きながら、珍しく寡黙だったカイロスさんが意を決したように口を開いた山越え3日目。


「お前さん、トラブルは嫌がりそうだから黙っていたけどさあ……。『セシルの再来』の話が、ちょーっと広まってきているんだよな」


 え、なにそれ、とっても迷惑……。


「で、興味を持った輩がお前を探し始めているらしい」


 え! なにそれ! いらない! 迷惑!

 またアレヤレコレヤレ言われそう……。


「まあ、『海の女神』だからなあ。『月の王』ほどじゃあないが、それなりに人気あるんだよ。セシルの場合はその能力にひかれる人間と、『月の王』とのロマンスにひかれる人間と両方いるからな。 まあ今回はそのどっちが興味を持ったのかはわからねえが、一応気を付けるに越したことはねえのよ」


 ん? ロマンスって何ですか?


「あれ? 知らねえのか。『海の女神』のセシルは、『月の王』の恋人だったんだよ」


 はい? 初耳です。へえー。


「ほんとにお前、何にも知らねえな。まあ、ロマンスの方は悲恋だからな、妙にそういう話にのめり込む人間がいてな? だいたい女のファンはそっちだな。まあ、害はないだろうけど、『海の女神』復活となりゃ、恋人に会うためによみがえったとか言い出しそうだな。煩いかもしれないが、まあそれだけだ」


 ほうほう、悲恋とな。ロミジュリみたいなもんかな。『月の王』なんて人気者とだったら、そりゃあ乙女心を刺激されるってもんよね。私だってちょっと詳しく聞きたいぞ?


 あれ?

 でも、水龍のセレンが言うには、何故だか知らないけど、私がそのセシルっぽいことを言っていたよ?


 ん?


 セレンの言っていたイロイロって、まさかの恋愛トラブル!? 私ってそんなに情熱的だったの? ていうか、それ本当に私? やっぱり人違いなんじゃないのかな……。時間的にも辻褄合わないんだし。

 はっ! 水龍のセレン、もしかしてボケているのでは!? おじいちゃんぽかったもんね? なるほど!?


「ただ、もう一方のファンだな、問題なのは。こっちはまあ、簡単に言うとあの腹黒町長みたいな感じだ。こっちは厄介だろうな」


 うわぁ、迷惑ー。しかも不愉快。

「ところでそのセシル、一体何が出来たのかしらん?」

 そういう輩に捕まったら、何させられそうになるのよ? この前は人殺ししろって言われたんだよ? どうやって? って話だよ。


「まあ、『海の女神』の名前どおり、水を操れたらしいな。ちょっとの水じゃあねえぞ、それこそ海の水も自由自在。あとは、風も呼んだそうだ。そうなると、嵐とか作れそうだな。で、それだけでも破格なのに、そこに水龍がついていたから、水に関してはもう、出来ることが神レベル。と、言われている。何しろ例に漏れず全ての記録は国が潰しているからあくまでも言い伝えな?」


 ああ……セレン……。

 本当に仲が良かったんだねえ……。


「で、そんな奴らを巻くためも兼ねた山越えって訳だ」


 なるほど! ありがとうおっさん!

 ちゃんと考えてくれたんだね。嬉しいよ。


「なーのーに、お前ときたら! 夜中にホイホイ出歩きやがって! しばらく帰ってこないから心配したんだぞ! お陰でオレ、今日は寝不足よ? あーツライワー」


 あ、はい。すみませんでした。

 そんなことになっていようとは全然知らなくて。

 ちょっと水龍と遊んでました……。てへ。


「お前の魔術はスゲェんだけど、どれも攻撃魔術じゃないんだよな。だから、いざ襲われたりしたら勝ち目ないぞ」


 うっ。そうかも。どうしよう? 「だんなさま」の防御魔術だけではダメな時も、きっとあるよね……。


「で、だ。やっぱりちょっとお勉強してみようか? 攻撃魔術。ちょうどここは人目もないし、練習にちょうどいい大木が山ほどあるしな?」


 こうして「自分で身を守れるようにしよう講習会」がスタートしたのだった。




 自分の身は自分で守れるようにしないとね!

 なんて、意気込んではみたものの。



 そうだった。

 出来ないこともあるんだった。ゼエゼエ。


 たとえばおっさんからどんなに教わっても出来なかった「火を出す」魔術とか。


「火も出せない、雷も出せない、地面が動かせる訳でもない、そして練習しても上達しない、か。八方塞がりだなこりゃ。あとの手段は、なんだろうな? 水だったら何か出来るか? 鉄砲水とか?」

 そんな何もないところから水出せとか無茶言わないで。


「うーん、風で吹き飛ばす?」

 と言いながら、魔力を動かしてみる。風よ~吹け~!




 そよ……。


 …………………………。



 そこ! 笑わない! おっさん! 失礼でしょ!



「やり方はわかるんだよ~。こうやれば良いっていうのはあるんだよ。だけど、魔力が反応しないのよ。なんつうの? 歩き方はわかるのに足が動かない的な」


 私は頭をかかえた。ギブ。ギブです。なぜ動かない、私の魔力。あんなに力強く呪いを締め上げていたくせに。


「くっくっく……。そよ風がせいぜいとか、『セシルの再来』の名が泣くな? やり方がわかれば出来るはずなんだがなあ。まあ、性格的にも向いてないのかもな。他の手段を考えようか」

 おっさんも匙を投げましたーしくしくしく。


 ま、まあ、人間出来ないこともあるよね。しょうがない。次行こう。次。


「お、なんだかあっさりしているな。悔しくないのかよ。お前さんが頑張るんだったら、もう少し付き合ってやってもいいぞ?」


「いや……他の手を考えた方が早いと思う。出来ないものを無理矢理やろうとしても、きっとたいしたことは出来ないよ。攻撃魔術は、一旦諦めようと思う」


 そう。無理してもしょうがない。

 セレンも言っていた。自然に任せれば良いって。そう、自然に任せよう。無理して何でもやらなくていいよ。きっと他にも活路はある。多分……。


 自然に任せる。

 いやーいい言葉だな、これ。


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