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旅に出ました

 「だんなさま」はまた眠ってしまった。目が点になるとはまさにこのこと。いやもう何度かなっていたけど。

 うん、お疲れなんだね。


 私はシャドウさん? と二人で取り残された。

 いやあここで「何か」と一緒というのは心強かったです。もう「誰か」じゃなくてもいいです。半透明でも本当に嬉しかったです。一人ぼっちだったら、多分泣いてた。


 とりあえず「よろしくお願いします」と挨拶してみたら、シャドウさんはニッコリ微笑んでから歩き出した。着いて行きます! 置いてかないで! 



 こうして私の旅は始まった。


 強制的に。否応なく。結果的に。


 だけどシャドウさんは優秀だった。

 衣食住をさくさく用意してくれて、私はなに不自由のない旅を始めることが出来たのだ。

 この人が居なかったら今ごろ野垂れ死にしていてもおかしくはなかったです。はい。

 ありがとうシャドウさん。


 お金の心配もなく旅が出来るって、とっても楽しい。

 着たい服が着れて寒くもなく暑くもなく、お腹一杯食べられて。夜は清潔な宿で寝れるのよ。しかもシャドウさんがいるから、女一人だったらあったであろう不埒な輩も近づいてこない。

 最高じゃない?



 私は決めた。

 この旅を楽しもう。



「だんなさま」が起きるまで、私は楽しく過ごします。

 ありがとう、「だんなさま」!

 私、めいいっぱい楽しむからね!



 自分の名前と偽名以外、何にもわからなくても、きっと何とかなるでしょう。しかし偽名ってなんだ。まあ使うけど。こういうのは訳もわからず逆らうと、痛い目にあうのは多分、自分。

 面倒はごめんだ。


 ちなみに元は半透明だったシャドウさんは、今は実体化している。

 私たちは最初どうやら山の中の建物らしき中に居たみたいなんだけど、その建物を出たら実体化したのだ。

 ただし、真っ白な人として。白くて長い髪、白い肌、グレーの目。実体化しても人間味が薄いのはなぜだろう。そして銀色どこいった。まあ、そこらへんは生活に支障はないので考えないことにする。


 ちなみに私は黒い髪に黒い瞳だった。お顔は平凡。むしろ地味。なんであんなキラキラしい人が私を花嫁にと言い出したのかはまったく謎だ。


 そしてシャドウさんは喋らない。

 まあ、元々人間かどうかも怪しいので、そこは気にしない。コミュニケーションも、なんとイメージで送られてくるから困らない。なにこれ便利だな。百聞は一見にしかずを地で行く感じ。

 ただし、どうも接触しないといけないみたいで最初は抱きついて来ていた。けれど、そこはお願いして手を繋ぐだけにしてもらっている。見えない耳が垂れていたけど、負けちゃだめだ! 人目が気になるのよ。人目がね。




 まあそんなこんなで、なかなか順調な滑り出しを見せていたある日。


 お部屋でシャドウさんがハグしてきた。だーかーらー。

 まあ、部屋だからいいか。


 なんて思っていたら。

 なんと映像が送られて来た。動画も出来るんだね、シャドウさん。知らなかったよ。



「さっきのあれ"末裔"だろ? すげえなオレ初めて見たよ! 本当に真っ白なんだな! あんな目立つナリなのに普段は全然見つからないって、どんな所にいるんだよってえ話だよなあ!」


 なんか陽気な荒くれ者といった風貌のおっさんが、興奮気味に、あれは……この宿の主人か、昨日見たな、な人に話しかけていた。

 真っ白って……シャドウさんのことだよね?


「ちょっと……やめてくださいよ。私はとばっちりはゴメンですよ。営業停止なんかになったらシャレにならないんですって」

「えー大丈夫だよ。こんな田舎じゃわかんないって! それよりどうなの、なんか知らない? なんか昨日は他に女もいたじゃねえ? なんだろう、恋人? それともただのお付きの人かな? 女連れなんて初めて聞いたぜ。ところであの“末裔”サン、オレの膝なおせねーかなー、どう思う?」


 なんか興味津々だなこの人。

 "末裔"ってなんだろう?

 この下のロビー? 食堂? の風景らしい。


 すごいな、離れたところの風景も覗けるのか。何だっけこれ、たしか「千里眼」?

 シャドウさん有能過ぎて驚くよ。


 そういえば、今まで自分の生活で手一杯であまり気にしていなかったけど、たまに聞こえてきたな。"末裔"って。

 さすがにシャドウさんのイメージ図だけでは細かなところはわからないんだよね。改めて噂されているのを聞いちゃうと、うーん、気になる。


 今まであんまり他の人とは話した事がなかったけど、そろそろ他の人ともコミュニケーションを通して情報を仕入れることを、考えても良いのかもしれない。


 あの荒くれさん、近づいたらお話してくれるかな?


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