いろいろバレていたみたいです
「私は殺せと言ったんだ!何やっているんだ!」
バアン! ああ、机さん……。
って、出来ないっていったじゃーん。理不尽!
「すみません」
「……まあしょうがない。仕事は出来なくなったみたいだからな。このままずっと休んでそのうち辞めてもらえばいい。お前も全く使えないわけではないな」
そう言って立ち上がると私の前に来た。
そしてニヤリと笑う。
あれ、なんだか本能的にイヤーな感じがするよ?
「他にも役にたってもらおうか。お前には誰も触れない魔術がかかっているらしいが、自分では消せないのか?」
「はい」
「でも自分からは触れるんだろう? ……じゃあ、私にキスしてもらおうか」
はいい!?
町長がニヤーーッと笑う。
いーーやーーーーー!
絶対! 嫌!
「せっかく女に生まれたんだから、かわいがってやらないとなあ? でも私からは触れられないなら、全部自分でやってもらわないと」
無理! 限界!!
ゲームオーバー!
セクハラは無理です!
おっさん、悪い!
私は降りる! これは無理!
「ふざけんなこの……」
その時。
ガチャ
「ハイそこまでー」
と言って、カイロスのおっさんが入ってきた。
うわあ! いいところで来た!
でももうちょっと早かったらもっと良かったよ!
おっさんは何やら紐らしきものを持って町長に近付く。
「はいはい、全部聞いていたからねー。もう逃げられないよ~。町長、やりすぎたな。全部報告するから今のうちに荷物でもまとめておけば?」
町長、唖然と固まっている。
「ちなみにこの家から出ないでねー。コレ命令だからね。はいこれ発信器。自分じゃあとれないよ? だから逃げても無駄だからね。逃げると罪が重くなるのはわかるよね? そのうち上からお達しがくるから、それまでここで待ってろよ?」
「はっ!? いや……そんな! か、彼女からやらせてくれって言って来たんだ! 私じゃない! 私じゃ……。シエル! コイツの記憶を消せ!」
町長が唖然から立ち直ったらしい。が。
「だから、全部聞いていたって、聞いてるか? 録音もしてあるからね~」
おっさんは抵抗する町長を軽々と押さえ込んだ後、テキパキ手早く発信器らしき紐を町長の首に着けると、こっちを向いた。
「じゃあ帰るぞ、シエル」
「じゃあ、じゃないでしょー。はーやれやれ」
長かったよー。
たった一日なのに。
ストレスなんて大嫌いだ。
そんな私を町長が目を剥いて見つめていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いやー思ったより早くやらかしてくれたからさあ、ちょっと焦ったよね。発信器が間に合わないかと思ったわ。こりゃこれから一個は持ち歩いた方がいいかなー」
そ、ん、な、理由で私は翻弄されていたんですかね!?
酷くないですか!? 酷いよね!?
「いやでもお陰で罪も増えたし、これで完全にあいつ終わったな。めでたしめでたし。さすがに最後はキモかったな、あの狸」
がははじゃないでしょー。
泣くよ? 泣いちゃうよ?
「もうこういうことは嫌です! ライフがゴリゴリ削られたよ。こんな事がまだこれからも有るんだったら、今後は別行動にさせてもらいます。さよなら! お元気で! じゃあ私荷造りするから」
と言っておっさんの部屋を出ようとしたんだが。
「おっと、待て待て。機嫌なおせって。夜デザートおごってやるからよ」
「……今日だけじゃなくて、これから一ヶ月は奢ってもらわないと」
「ええ?強欲だな……わかったわかった、しょうがない、一ヶ月奢ってやるよ」
……不本意ながら商談成立したので、考え直すか考えよう。
でも次は! ぜっったいに断る! 絶対にだ!
ああ、ゆるせん……。
「気持ち悪いから今日のお風呂も奢って」
「なんだよー強欲過ぎだろー?」
「じゃあおっさんが町長にキスすれば?」
ギロリ。
「……しょーがねーなーもー。人妻のくせに潔癖なんだから……」
「さよなら。お元気で」
「おーい、待て! 悪かったよ! はいはい、お風呂ね」
ちゃんと頼んでやるから、と約束したので、とりあえずはこの件は保留だ。
だが許しはしない!
「まあまあ、座れよ。ちょっと聞きたいことがあるんだよ。夕飯までにはまだ時間があるからさ」
は?私にはもう話すことはないよ。全部聞いていたんでしょ?
「聞いてはいたが、見てはいないからな。いいか? 質問は二つだ。1、雨はお前が降らせたんだな? 2、副町長はどうやって家に帰したんだ?」
「エ!? グウゼンジャアナイカナー」
「ンナワケナイダロー?」
あれー?
ジトー……
…………
「……もう今さらオレも驚かねーよ。あの旦那が執着しているのもわかる気がしてきたぞ。前から出来るのか?」
すごいジト目で溜め息をつかれたよー……。
「……はいすみません、今日初めてできました」
なんかもう、このおっさんに隠すのに疲れた私がいるよ……。
もうその後はどうにもこうにも。にっちもさっちも。
いえ、誰に教わったとかじゃなくて、はい、なんとなーく、こうかなーなんてやってみたら、出来ちゃったんです。はい。嘘じゃないですってー。自分でもびっくりしています。はい。
副町長? 彼は、3日たてば治ることになっていて……はい、そうですね、今なおします。
ゲロゲロ吐きますよ、もう。
おっさんの目が怖いよー! えーん。
目を瞑って副町長に繋がっていた糸をたどる。そして糸を通して「全て終わり」と送った。
途端に暗示の手応えがなくなって、糸も消滅。これで治ったはず。終了ー。
「お前……詠唱もなしかよ。気軽にやってくれちゃって」
おっさんがまた溜め息をついたけど、もう放っておこう。むしろ詠唱しろなんて言われても何言うのか知らないし。
「詠唱の仕方とか、知らないしねえ。無理じゃない? まあ、なんとなく出来ちゃったものに、そんな目くじらたてなくてもー」
なんてブツブツ言っていたら。
「はああ!? なに言ってんのお前。 詠唱してでも出来たらそれだけで大騒ぎになるような魔術使ってんのに、なに言っちゃってんの? なんとなく!? そんで誰でも雨降らせたり人を操ったり出来るわけねーだろが!」
「えっそうなの!? 雲を持ってきただけだよ? こう……掬ってね?」
「できるかっ!」
あれ?
そうかー、これもかー。
「ちなみに、そのブローチだがな」
あっ忘れてたこれ。外しておこう……。
「よっぽど複雑に強化されているみたいだぞ。オレも一応頑張って視てみたが、二重三重に保護されていて、呪いが見えないようになってやがる。オレが触っても見えねえんだよ。そんなことが出来るのはよっぽど高位の魔術師のはずなんだがな」
あー、あの見えたおじさん、やっかいな人なんだな。うへえ……。
「そんな呪いに結界張って事実上封印なんて、呪いを掛けた魔術師よりもっと力が上じゃないと出来ないんだぞ? それをなに? お前、準備もなしに、詠唱もなしに一瞬でやりました?」
あらー……?
「人を操るのもさ、最高級の魔術師が、普通は準備とか、道具とか揃えて、本人に一服盛ってからやるようなことを、そういう過程をすっ飛ばして 遠 隔 操 作 だと? これが初対面だったら、絶対にお前をホラ吹きに認定する自信あるぞ」
はあーー。
って、また溜め息をつかれてしまった……。
「オレが昨日の夜から、どれだけの驚きを体験したかわかんねえだろうなあ」
うん。ごめんね? 全然知らなかったよ。
「お前、これからもオレが知らんぷりしていたら、どれだけのモノを見せてくれるんだろうな?」
ニヤリ。
え、やめて、そういう騙すようなことは。
あ、でもその方が表面上は楽しく平穏に旅ができるのか?
ええ、どっちが楽なんだろう……?





