不吉なプレゼント
「ほーう? 今回初めて水脈が見えたんデスカソウデスカヘー」
うんうんうん。
「それにしてはやたら正確だったのはナゼナノカナー?」
わかりません!
というか、正確なのはおかしいんですか先生!
すっかり不信感丸出しのカイロスさんには、どうやったら信じてもらえるのでしょうか?
私は正直に話しました!
「普通、覚醒したての魔術なんざ不安定なもんだろう。だいたい教わらないで覚醒なんて、そう滅多にあるもんじゃねーぞ!ダレに教えてモラッタノカナー? あのお前の旦那の影か?」
だーかーら、お水の事を考えながら地面を見ていたら、なんか見えちゃったんだってば!
私もびっくりして、思わず黙ってようかと思ったくらいです!
「まあ最初涙目になっていたもんなあ、お前さん……」
今もちょっと涙目ですよ。
そして騒がれたくはないので、もう早くこの町を出たいです。
注目いらない。ノーサンキュー。
のんびり食べ歩きも出来やしない。
「あー、それは2、3日待ってもらうことなるな。なんか町長が今回のお礼に食事に招待したいそうだぞ」
えー、面倒……。
「おい、オレの顔を潰すなよー。今お前、セシルの再来って言われてるんだぞ」
は? なに?
なんか今聞き覚えのある名前が……
「なんですか、その『セシルの再来』って?」
「この町の最初の井戸を作った、むかーし昔の人だよ。『海の女神』。なに、セシル知らないの?」
え、その人は知らない。
有名人が同名さんなんて光栄です。
よくある名前なのかしら? 私の本名って。
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「はるか昔はセシルがですね、今回のように何処からともなくやって来て、この町最初の井戸を掘る場所を教えてくださったのですよ、ハイ。今のこの町があるのも全てはセシルのお陰。それは間違いありません。ですが!」
汗を拭き拭き町長が、大袈裟な身ぶりで演説している。
この人役者だなー。なに考えているのかちょっとわからない感じの人だ。
「今日この時から!シエルさんの功績も一緒に語り継がれるものと私は確信しております!貴女を第2の『海の女神』とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
いや、遠慮します。
とも言えないので、しょうがないから微笑んでおこう。
ああ頑張れ私の表情筋!
「まさにこれからは! いにしえのセシルと現代のシエルさん、わが町はこの二人の女神に愛された町となるのです!ハイ」
今回の井戸堀の功績者として、只今町長夫妻主宰の晩餐会にお呼ばれしております。
町のお偉いさん十数人と町長夫妻、そしてカイロスさんと私。
目の前のご馳走も、自分に突き刺さるいくつもの視線が痛くて全く楽しめそうにありません!
「この感謝の気持ちを表すために、私はぜひこの品を彼女に贈りたいと思いますハイ」
パチパチパチパチ
「シエルさん、どうぞこちらへ!」
有無を言わさず呼びつけられる私。はあ。
「これは私の家に代々伝わるブローチです。非常に珍しい大粒のルビーと金を、わが町最高の技術で加工した一品でございます、ハイ。ぜひ貴女の人生を、このブローチが少しでも飾ることが出来ましたら幸せです!」
「ありがとうございます……」
パチパチパチパチ
って、これ、受け取らなきゃダメなやつよね?
空気読まなきゃ駄目なやつよね?
ルビーの赤が霞むほど、もうもうと黒い煙が上がっているんですけど!
何の呪い!これ!
心からいらない!!
でも。
ああ……視線が痛いーしくしくしくしく。
渋々受け取って席に戻ろうとしたら。
「私が今お付けしましょう。きっとお似合いです!」
と町長が寄ってきた。
「あ、いえ、そんなもったいないので、結構です……」
「いえそんなことはありません!もうこれは貴女のものなのですから!どうぞ遠慮なさらず。さあさ」
「いえいえ、そんな。本当に今は……」
「まあ、わたくしぜひそのブローチを付けたところが見たいですわ! きっと素敵です! あなた、ぜひ付けて差し上げて?」
ちょ、町長夫人!?
余計な事を言わないで!
ああ! この流れ! 付けざるを得ない感じーしくしくしく。
呪いが発動したくてウズウズしている雰囲気が満々なんだよー。着けたら絶対何か起こるよー。
どうすればいい!?
「あ、では自分で……。そんな町長さんのお手を煩わすのは申し訳ありませんから!」
取り敢えず着けながらどうにかするしかない!
もう必死だよ!
「何をおっしゃいます。遠慮なんていいんですよ?」
と、町長さんの手がブローチを取ろうとして私の手に触れた、とたん。
バチッ!!
と火花があがった。
町長さんが衝撃で後ろに吹っ飛ぶ。
え? えっ!?
その時、カイロスさんが爆笑した。
「だはははは! 町長、そういえばシエルには誰も触れないように魔術がかかっていたんだったわ! 俺も今まで忘れてたが、確かに言ってたわ! 気を付けろー」
あ、「だんなさま」の魔術か!
って、おっさん! 言葉使いどうにかして!
そして私は
「あ、大丈夫ですか? お怪我は?」
とか言いつつ、さりげなくブローチを握りしめ、力一杯! 強力に! ブローチに結界を張ったのだった。
『ぜえっったいに!ココカラ出るな!』
「カチリ」
よし!
だんなさまの防御魔術? のおかげで、その後は町長に絡まれることなく、比較的穏やかに過ごせました。
やれやれ。
これ、捨てちゃ駄目かな?