ここ掘れワンワン(後始末2)
タカルカスという町は、主に農作物の輸出と装飾品の細工ものが特産の、それなりに大きな町だった。
キラキラしたお店が沢山あって歩いていて楽しい。
でも、行き交う人たちの表情は暗かった。
「水不足に悩まされていた昔は、井戸と溜め池を作って水不足の対策をしていたのですがハイ、この100年で枯れてしまった井戸も多くてですねハイ。今まではそれでも雨が降っていたので問題は無かったのですが、いやはやあまりにも突然でして今回、ハイ」
汗を拭き拭き案内をしてくれているのは、どんな伝を使ったのか、町長さんだった。
何でこんなトップが出てきているんだ?
おっさん、まさか裏で脅したりしてないよね!?
「あー、いざ水不足になってみたら、使える井戸が足りなかったのか。闇雲に掘っても、今んとこ成果無いみたいだしなぁ」
おっさんが真面目に町長さんと話し合っている。
なんで対等?
魔術師って、そんなに社会的地位が高いのかしらん?
あ、でもおっさんは、王都の魔術師団に入れる位っていつか自慢していたっけ。それかな?
まあ、着いては来たけれど、政治的な事はさっぱりなので、私はこの土地を眺めるしかやることが無い。
何か出来ればいいんだけどね。
でも、これが自然としては正常な状態なのに、それを魔術でねじ曲げる事はしたくない。
あのトゲは醜かった。
ダムも異質で異様だった。
そしてその影響は限りなく広がって、たくさんの人々の生活を歪めてしまう。
それはやってはいけないことなのだと思うのだ。
水ねぇ……。
しょうがないので何となく地面を見ていたら。
ん? なんか微かな流れを感じるよ?
じっと見てみる。
地面の奥。ずっと下。
みっしりと詰まっている土の下で、流れがある。
細い。
これは、水か。地下水。
痛てっ。両目にぺちっと手のひらで叩かれたような衝撃があった。
おっと?
あ、また瞳が変わりそうになってたのかな?
びっくりしたー。
これ、「だんなさま」がかけた魔術の1つかな。
面倒見いいな、だんなさま。ありがたい。
危ない危ない。
ちょっとどうするか考えて、あ、そうか。
眼を瞑れば瞳が見られる事はないわね。
改めて眼を瞑ってから、集中して今見た地下水の流れを追ってみた。上流へ、そして下流へ。
太い流れを探す。
地上は水不足でも、地下にはそれなりに水が流れていた。
ある程度太い、そして浅い所にある流れはどこだ。
この近くでは……
「あそこ」
距離を測って指をさしながら、意識を戻して目を開ける。
「なんだ、どうしたシエル」
おっさんがこっちに気付いた。
「あそこに……」
言いかけて詰まる。何て言えばいい?
水脈のことなんて言い出したら、この能力がバレるよ!?
おっさんも町長さんもお付きの役人さんたちも、みんなこっちを見てる。
どうする!?わたし!?
私は凍り付いた。
面倒は御免だ!という声と。
井戸が有れば助かる人がたくさんいる、という声と。
どちらも正直な気持ち。
どうする?どうする!
私は…………
私は…………………………………
私は!!
通りすがりの旅人!
ちょっと水脈が見える、ただの名も無き旅人です!
そういうことで!!
そして、半泣きになりながら言った。
「あそこに井戸を掘ったら水が出ます」
半信半疑なカイロスさんと町長さんと、あと何人かの役所の人らしい人たちを連れて、見つけたポイントに立った。
目を瞑ってもう一度確認する。あ、ちょっとズレてた。
修正。
うん。ここ。
「ここ、掘ると水が出ます。井戸におすすめです」
みんなポカーンとしている。
あれ、突然過ぎた!?
うん。そうだよね! わかる!
嘘つき呼ばわりされたらどうしよう!?
突然怖くなって、本格的に泣きそうになったとき、カイロスさんが助けてくれた。
「シエルが言うなら、掘ってみよう」
町長が滝汗かいてるよ、大丈夫かな!?
「誰かシエルが立っている所に印を付けろ。そんで、真っ先に井戸を掘る準備をしよう。なあ、町長?」
「そ、そうですね。闇雲に掘るよりは可能性が少しでもあるところにしたほうが……」
町長に同行していたお役人が、私の足元に印をつけ始めた。
「シエル、他にも探せるか?」
は? え? 信じてくれるの!?
「お前、目が良いからな」
やだおっさん、カッコイイ!
その後、おっさんと役人さんを数人連れて、町中と、その周りの農地で井戸に良いポイントを探し回ることになったのだった。
ゼエゼエ。
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数日後、無事に掘った井戸の全てから水が出たとの報告が来た。
井戸掘るの早いな!
さすが昔掘りまくっていた歴史があると違う!
まあ今回は町中の人を動員したらしいけど。
いやあ良かったよー!
別に出ないとは思って無かったけど、他の人たちはそうは思っていないからね。
周りの怪しい奴を見る目がそれはそれは辛かったよ……。
ちょっと最後はお部屋に引きこもっちゃった位辛かったよ。
はあーやれやれ。
これでおっさんの顔も潰さずにすんだ。
なんか、怒濤のこの数日のおかげで、最初の葛藤が何だったのかと思え……
「さて、シエル。ちょっと話をしようか。オレの部屋がいいか? それともお前の部屋にするか?」
ないですー!
どうしよう怖いー!
誤魔化せる気が全くしないよーえーん!
「はい、すみません、見えました。水脈がね、こう、流れていたんです」
数分後、正直に、ゲロっている私がいましたとさ。
しくしくしくしく。





