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初対面で結婚しました

 

 私を呼ぶ声がする……気がする


 ふと見るとそこは海の底……なのかな


 目の前を自分の髪が漂い、ゆったりとした水の流れが体を撫でる

 ほの暗い底に座る私は周りを見回して……



 どこ?


 私を呼んでいるのはどこから?

 ……そこから?


 何か引かれるものを感じて立ちあがり、私はふらふらと歩き出した。


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 着いた先は大きな部屋だった。

 何もない広々とした空間に台座が一つ。


 そしてその上には……


 銀の髪が豊かに流れる真っ白い男の人が眠っていた。


 近づいて見てみる。


 銀の髪、銀のまつげ…

 そのまつげが震えると、静かに開いた。


 銀の瞳


 その瞳が私を捕らえると、それはそれは嬉しそうに微笑んだ。


 静かに起き上がる。

 そして薄い唇が美しい低音を紡いだ。


「会いたかった、セシル。私の花嫁」


 ハイ?


「ようやく会えて私は嬉しいよ。長い間待っていたんだ。でももう、待てない。だから」


 私の目を見て、彼は流れるように言った。



「私と式を挙げてしまいましょう。今すぐ」



 はい?

 なにごと?

 式って、何?

 ああ、花嫁とか……え? じゃあ結婚式!?

 今すぐ!?



 しかし目の前の銀の君は、ものすごい期待の目でこちらを見ていた。


 なにやら見えない尻尾が力一杯フリフリしている。

 え、ちょっとカワイイ……


 じゃなくて!


 初対面だよ!?

 はじめましてだよね!?


 おかしいだろう!



 でも……


 何故だかこの人、しっくり来るのよね。

 なんだか……ちょっと良いなと思ってしまう自分がいるのよ。


 おかしいな。断る気に、何故かなれない。

 むしろ、ずっと一緒にいたいと思ってしまうくらいには、何故か惹かれるものを感じてしまう。

 ああ、なぜだろう、それは正しい気がしてしまうのよ。


 だから。


 そうね、いいんじゃない?


 そう言うと、その銀の君は「ありがとう」と言った。

 それはそれは嬉しそうに、幸せそうに。



 すぐに彼は私の手をとると、宣誓を始めた。


 簡潔で力強い……なぜか音楽のように響く不思議な声。


「我、エヴィル・ローはこの者セシルを妻にし、生涯愛し、多くのものを共有し、そして守ることをここに誓う」


 そして私の左手の甲と薬指に口づける。


 私を見つめる銀の瞳。

 何かを待っているように……ああ……私の番なのね。


 何を言えばいいのかわからないので誓うだけでもいいのかな。


「はい、誓います」


 その刹那、彼が口づけた私の左手の甲に魔方陣が浮き出して光り始め、どんどん光が膨張して辺りを真っ白に染め、そして消えた。



「ああ、これで貴女は正式に私の妻となった。私は力を取り戻すためにもう少し眠らないといけないけれど、これで安心して眠れるよ。ありがとう。貴女は、そうだね、その間、のんびり旅でもすればいい。きっと楽しいだろう」


 あれ、まばゆい笑顔で私を放り出そうとしている人がいるよ?


 いやでもちょっとまって。

 私、何も知らないよ? 旅と行っても、まずここはどこ!? お金は!?


 それよりなにより、私はセシルっていうの?


 いろいろな疑問が渦巻いて混乱している私を見て、銀の彼がクスリと笑った。


「ああ、貴女はまだ慣れてはいないのだね。ではシャドウをつけよう。連れて歩けばいい」


 彼の目線を追って振り向くと、そこには半透明な白い人が立っていた。あ、シャドウって、影か……彼とそっくりだから、彼の影? ってこと? え、独立してるの?


 ちょっとそろそろ頭が追い付かないよ。


「あと、名前は人には言わない方がいい。普段はセシル以外の名前を名乗りなさい」


 てことは私の名前はセシルなのね。


「そうだね、シエルなんてどうだろう?」

 はあもうそれでいいです。シエルねしえる。はいおっけー。


 だんだん投げやりになってきた。


「では貴方はどうお呼びすれば?」


 さっき宣誓にあった名前は言わない方がいいのなら、そっちも聞いておかないと。


 と何気なく聞いたら、銀の君、突然デレデレに嬉しそうな表情をしたあとに答えた。


「だんなさま、で!」


 語尾にハートがついていそうな様子に引いた私は、もうそれ以上突っ込んで聞く気力を、なくした。


 そしてそうこうしているうちに、「だんなさま」はまた倒れるように眠りについてしまったのだった。


 あらー?

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