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後始末の予感

 

「はい、こんにちはー」

 こんにちは……。


「私はシエルです。よろしくねー」

 はい、よろしくお願いします……。


 カイロスさんの張った結界の中で。


 おっさんの腕にとまっている実体化した火の鳥イカロスに、話しかけさせられているのは、なにを隠そう私です……。


 隠してないね。モロワカリだね。はは……。


 ちなみにイカロスはつーんとそっぽを向いて無視を決め込んでいる。


 うん、知ってたよ、あんた気位高いもんね。こんな小娘の相手なんてしたくないんだろうね。うん。


「えっと、聞こえてないみたいよ? 通じないんだよー。きっと、さっきのは勘違いなんだよ。ね?」


 そういうことに、しよう? ね? ね?



「イカロス、聞こえてはいるんだろう?」

 おっさんは冷静に問いただすだけだ。


 イカロスが羽をバッサバッサさせながら叫んだ。


『な、ん、で、この私がこんな小娘の相手をしなくちゃいけないのよ! お話なんてする気はないわっ! ビクビクして話しかけられても、返事なんてしないわよっ! 不愉快! ふ! ゆ! か! いー!』


 おお、おっさんが話しかけると雄弁だな。

 こんなキャラだったんだね、火の鳥。おもしろー。

 はいはいゴメンナサイネ~。


「で、やっぱりお前、聞こえてんじゃねーか。内容が見えてんの丸分かりだぞ。普通は怒るところじゃねーのか? 何喜んでんだよ。相変わらずオツムがめでたいな」

 ジトー。


 あっ! 失敗!

 ここは何言ってんのかな? っていう演技をするところだったのか! うっかりした……。

 つい目が泳ぐ。


「今頃誤魔化そうとしてもおせーんだよ。大抵のヤツが得意になって言いふらすのに、何隠そうとしてんだよ。お前、目だけじゃなくて耳も良かったんだな……」


 しみじみ顔を見ないでほしい……。

 そんな良いもんじゃないですよー……。


「ふうん? 他に、ナニが見えたり聞こえたりシテルノカナー?」

「ええ~? ナンニモ~?」


 やだよー、怖いよ~!



 私は! 楽しく! 旅がしたいだけなんです!



 観光したりさー、温泉入ったりさー、美味しいもの食べたりさー、したいだけなのよー。


 面倒は御免だ。注目なんていらない。

 面倒は全力で避けるべし! 逃げても可!


「イカロス、こいつどう思う? お前を扱えるようになりそうか?」


『はあ? 何言ってんのよ! 全力で御免だわよ! たとえ魔力が凄くても、私が気に入らないわ!』


「魔力は凄いのか?」


 聞き返されて、火の鳥なのにシオシオとなった。

 やだ可愛い~。


『実はよくわからないのよ。この小娘の魔力はよく見えないの。なんかモヤモヤしているのよう……』


 カイロスさんが眉間にシワを寄せて考え込んでいる。

 シャドウさんの癖がうつってない?


「瞬時に相手の魔力を判断できるのがお前たち魔獣の特徴だろうがよ。それが見えないって、そんなことあるのか?」


 あっ! おっさん勝手に私の魔力を測ろうとしたな!?

 酷くない!?

 抗議だ抗議!

 プライバシーの侵害だ!


『こんな事初めてよう。でもこの小娘、火魔術ぜんぜんダメじゃないの。だったらどうせ私は従わないわよう?』

 だから関係ないわとばかりにそっぽを向いてしまった。


 おお~かわいいー。

 小さい子って、なんでこんなに何をしても可愛いんだろうね!


「シエル、お前も大概おかしいぞ。普通はこいつの周りからは死に物狂いで逃げるもんだぞ。お前には畏怖ってえ感情がないのかよ」


 いやそんな溜息をつかれても。

 良いじゃん可愛いものは可愛いって言ってもさー。

 そのうろんな目ヤメテ。


「はあしょーがねーなー。イカロス、お前、しばらく姿を消してこいつの周りを飛んでれば? そしたら何か分かるかもしれねえぞ」


 ちょっと! そんなセンサーでスキャンするみたいな事やめてよ!

 私のプライバシーどこ行った!?

 絶対反対!やめろったらヤメロ。


『え~まあ飛ぶのはいいけどー。でも今はよした方が良いわね。もうすぐ着く町、今、水不足で超乾燥しているから!私が飛んでいて火事にでもなったら困るでしょ?』


 あ、上手いこと逃げた! えらい! 賢い子!


「はあ? 水不足? ここら辺でそんなの聞いたことねーぞ?」


 おっさんは首を傾げていた。

 ということは。


 私は、なんとなーく嫌な予感がしないでもない。

 まさか……


 まさかね?


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夕方にはその町、タカルカスに私達は入った。


 確かに町の周りを囲む畑という畑が明らかに水不足で壊滅寸前といった感じだった。

 食料にダメージあるのはつらい。


 町の中も何となく不安げな雰囲気だ。


 しかしシャドウさんの居ない今、私は学んだ。

 慎重になるのだ。


 魔力を広げて様子を見ていいのは、お部屋で一人の時だけ!

 瞳が銀色になっちゃうからね!


 と、いうことで、宿屋に入ってすぐに、町の情報を集めに行くおっさんを送り出し、わたしはそそくさと自分のお部屋に籠った。


 しかし考えてみれば、おっさんも行く町行く町でやたらと情報を仕入れてるな。

 何だろう、趣味なのかな?

 それとも仕事のネタでも探してる?


 まあいいや。


 今!私がやりたいのは、ズバリ!


 この日照りが、あの『龍の巣亭』で抜いたトゲのせいかどうかを調べることです。

 しくしくしくしく。


 もうやだよー。ホンの出来心だったんですう。


 でも、自分のせいで関係のない人達が苦しむのも嫌なんですよ。

 しかも苦しむだけでなく。

 下手すると町ごと滅んじゃうやつじゃん! 水の問題って!


 深ーく溜息をついてから、シャドウさんがやっていたのを思い出して、見よう見まねで結界を張った。


 見えないように。聞こえないように。全てを漏らさないように。

 部屋全体に鍵を掛ける。


 カチリ。

 と頭の中に音がした。

 おっ、私、やれば出来る子~。よしよし。


 では。


 部屋の真ん中に立って、意識を上へ向けて行く。

 屋根を抜け、雲を抜けて。上空から地上を見下ろす。


 シャドウさんが居ないから、気をつけて。

 本来の自分の周りにもうすーく意識を留まらせておく。

 長い黒髪が、体の周りを巡る風に吹かれて乱れ飛んでいる。

 大丈夫、大丈夫。髪がまだ黒い。


 上空から『龍の巣亭』を探す。

 結構遠くに来たなあ。随分向こうにある。

 綺麗に細くエネルギーが吹き上がっている。


 その流れを追ってこちら側まで辿って見る。


 うーん、淀みやおかしな渦なんかは見当たらないなー。

 いたって正常に、見える。

 良かった。私のせいじゃない!


 その時、

「おーい、飯行くぞー」

 とおっさんがドアをノックする音がした。


 急いで意識を戻す。

 良かった、意識を残しておいて!


 私は返事をした後、いそいそと夕食に行った。



「町の様子はどうだった?」

 もはや新しい町に着いた最初の行動となった、おっさんの情報収集の成果を聞く。


「あ? ああ、やっぱり水不足が深刻だな。随分雨が降って無いらしい。昔は水が不足しやすい土地だったらしいが、どうやらここ100年位は雨が降るようになっていたから、町も大きくなって活気も出ていたんだが。なのに今年、というか最近になって、どうも突然昔みたいな状態に戻ったみたいだな」


 へ、へえ~?


 100年とか言う言葉にちょっと嫌な予感がしないでもないけど、どうなんだろう?


 目を泳がす私をジトーっと見ながら、おっさんが追撃をしてきた。


「どうも、雨が目に見えて降らなくなり始めた時期が、俺たちがタルクの町を出た辺りなんだよなあ?」


 へ、へええー?


 おっさんが意味深な目を向けてくる。

「お前、あの旦那の影呼べねえの?奴なら何とか出来るんじゃねえか? てか、元はと言えばあいつが原因なんだろ?」


 やっぱりそう思うよね!?

 つまり、 私 が 原因なんですね!?


 そんな気がしてたよー。

 しくしくしくしく。


「シャドウさんもだんなさまも、もう、気配もないよ。呼ぶとか、無理」


 がっくり。



 多分あれだな、あのトゲのせいかダムのせいかで、エネルギーの流れがこっちに変わっていたんだね。

 なのに、その流れが元に戻ったから、もとの水の少ない状態に戻ったんだろう。


 すごいね、自然って。全部が繋がって影響しあっているんだね。

 いじっちゃダメって事だよ。もー。


 とりあえず、明日はカイロスさんが町を案内してもらう約束を取り付けたらしいので、私もくっついて行くことにした。

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