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それでも旅は続く

「で、結局、誰なんだよあいつ」


 ですよねー。思いますよネー。

 私もです!


 シャドウさんの姿の「だんなさま」が消えたあとのおっさんの部屋。


 しばし二人で呆然としていたけれど、流石にそのうちどちらともなく正気に戻った。


「私もって、おいー。どうなってるんだ」


「いやあ、そのまんまですよ。式あげようって言われて、うんって言ったら誓わされて、そのまま放り出されたの」


「なんだそれ」




 カイロスのおっさんは、もう驚き疲れたのか妙に冷静だった。


「いいのかお前、それで」


「んー? 今のところいいと思ってる。なんだかんだ大事にしてくれているし」


「さっき言っていた愛だの何だのはいいのかよ!?」


「うん。それが私、どうもあの人が好きみたいでさー。会ったときから妙になんていうか、うーん、まあ、好きなんだよね。不思議だけど」


「いいのかよ…」


 カイロスさんは複雑そうな顔をしていた。


 まあそうだよね。おっさんの申し出には即拒否っちゃったもんね。自分でもびっくりしたわ。



「まさかあの影のベタベタな態度がそのまんまだったとはなぁ…ちょっと意外だったわ。てっきりお前をたらし込もうとしているんだとばっかり思ってたよ」


 そんな風に思ってたんかい。


「で、結局あいつが誰かも未だ知らねえんだな?」


 こくこくこく。


「名前は?」


 ぶんぶんぶん。


「まじかよ!? よくそれで誓えたな!? じゃあなんて呼んでるんだよ!」


「え、だんなさまって呼べって言ってたから、だんなさま」


「なんだそれ」


 おっさん目が虚ろだけど、大丈夫かな?



 だから言えなかったんだよー。なんにも説明出来ないんだもん。



「あいつ、半透明の影のくせにやたらと存在感あったぞ。あれは相当年いってるぜ。ぜったいオレより年上だろ。年の差気にしていた昨日までのオレってなんだったんだよ。なのにあの見かけの若さ!どれだけの魔力持ってやがるんだ!くっそ羨ましい」


 頭をガシガシ掻き回しながら悔しがるおっさん。


 え、年? なに?


「お前はどうせ知らないだろうけどよ。魔術師って、持っている魔力に応じて寿命が長いんだよ。オレだってとっくに70は過ぎてるんだぜ。でも見かけはもっと若かろう?」

 ニヤリ。


 ええ?そうだったんだ。てっきり40くらいかと。


「そうだろうそうだろう。でも言っておくがさっきのお前の旦那、絶対にそのオレより年上だからな? まあそういう意味では、お前さんも魔力を持っているからな、お前の正確な年齢もわからねえが。でもそのお気楽具合が若そうだなって」


 悪うございましたね。お気楽で。


「まあ怒るなよ。お前、とんでもねえ奴と結婚しちまったんだぞ、多分。オレの部屋に張った結界、全然奴に効いてなかったじゃねえかよ。丸聞こえだったじゃねえか! くそ! しかもなんだあれ、お前にやたらめったら掛けてた魔術。なんだあの早さ! そして種類!」


 なるほど?


「あいつ…本物のいわゆる“末裔”なんじゃないか? ずっと伝説だと思ってたから、実は影だと知って成る程やっぱり作りもんか、とか思ってたのに。まあ伝説の元になった奴がいてもおかしくはねえよな。本物もあの姿だったんだろう?お前驚いてなかったもんな」


 こくこくこく。

 色が若干違うけど、誤差かな。だまっとこう。


「それでお前、なんであんなに なつかれちゃってんの?」


「……さあ?」


 むしろこっちが知りたいよねー。



「まあ、あんだけ熱心に守護の魔術をかけられていたら当面は安心だろうからよかったな。 で、一緒に予定通りシュターフに行くんでいいな? 『シャドウさん』居なくなっちまったみたいだけど。あっちには力のある魔術師や他の知り合いも多いから、お前の旦那の情報も何かわかるんじゃねえかな」


 うん、それがいいかなー。おっさんと一緒の方が要らぬトラブルも避けられそうだしね。都会に憧れもあるし。


「まあ、来ないって言っても説得するけどな」


「あの旦那、なにしろあの魔力だぜ? がぜん興味あるし! あんなの見てハイそうですか、ってサヨナラ出来るわけねえよ。お前さんと一緒にいたらそのうち実物に会えるってんなら、もちろん一緒にいるに決まってるぜ」


「もちろん奴が執着するお前にも興味あるしな? シュターフ行くよな? もちろん。いやあ、これからもよろしくな! シエルちゃん!」


 あ、うん。そういう人だよね、この人。知ってたー。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 後日、しっかり「タルクの町で"末裔"が現れて、何やら凄い魔術を使ったらしい」という噂がまことしやかに聞こえてきた。


 歩いていた だけ で本当にそんなんなったの!? 凄いな噂って。なんなのその"末裔"の存在感……。それとも「だんなさま」、あの町で何かしたのかしらん?


 まあ、何はともあれこれで私が逮捕される可能性は無くなったよね! 万歳! はーやれやれ。



 私はおっさんとの二人旅にもすぐに慣れた。


 もともとシャドウさんは、私が旅の細かな流れや作法がわかって来るとともに、だんだん居眠りするようになっていたしね。


 北から西回りで王都に近いシュターフなる所に向かう。

 ちなみに王都は国の少し南辺りにあるらしい。


 今はまだ辺境と言える北の端から、普通の田舎といった所に出てきたところだけど、少しずつ人が多くなって町も大きいところが多くなった。


 私たちはあちこちを観光しながらもノンビリ旅を続けている。



「あんなレベルの魔術師が『君は万能ではない』って言っていたのが気になるんだよなあ。随分買ってるよな。てことはお前さんの目の方が本来の能力なんだろう。でも何で他とのバランスがこんなに悪いんだろうなー」


 とかたまに言い出す位で、おっさんは他はいたって今までと変わらない態度だった。正直助かる。


 あと、折に触れてカイロスさんは自分の火の魔術を教えてくれているのだけど、今のところ一向に成果は出ていない。

 まあ、これは適正がないって事なのでは?



 そんな話をしながらも、テクテク旅路を進んでいたある日、火の鳥のイカロスが何処からか帰ってきた。

 姿は見えなくて、今は黄色い光の玉っぽいけれど。


 私も気配でイカロスと判るようになったよ。成長したね!


 ギューンと光の玉が飛んできたかと思うと、直前で減速して、フワリとおっさんの腕に乗る。


 実はおっさん、今までもこの状態のイカロスはちょくちょく出していたらしい。


 実体化していないから、魔力の無い人、つまりほとんどの人には見えないから便利だそうで。


 はい、私も以前は全く気付いてなかったです。


 イカロスはおっさんの腕に止まると、報告を始めた。



『報告~。該当者なし。伝言~。そんなヤツいるのかよ! 俺も見てみたいわ! 本当に存在するならな!』


 おっさんがイカロスにご褒美の火を食べさせながら、気まずい顔でこっちを見た。


「あー…お前さんの旦那なんだがな、」

「あ、うん。聞いてた」

「はっ?」

「えっ?」


 え、なに?


 該当者なしって、どうせ「だんなさま」の身元を探ってわからなかったってことでしょ? 違うの?

 なんだか、おっさんと仲が良さそうなコメントが微笑ましいなー、なんてほのぼのまでしていたんだけど。え?


 えっ? なんでそんなに目が吊り上がってるの!?



「お前、何でイカロスの言葉がわかるんだよ! 普通は鳴き声にしか聞こえねえだろ!」


 へ?

 いや、喋っていたよね?


「魔獣の言葉がわかるっていうことは、魔獣を扱う能力があるってことなんだが? で、そんな能力、うちの一族以外に聞いたことねえんだが?」


 え、そうなの?


「……おいお前、ハッタリじゃーねーだろーな!?」


 あれ? 私またやっちゃった?

 そんなに驚くことだったの!?


 ええ!?


 えーと、…どうしよう?


「ええと、カイロスさんの一族って、凄いんだねぇ! あはははは~…」


 えーん、おっさんの視線が痛いよー。

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