自覚した気持ち
「何だよ! 何で即答? 普通驚いたり悩んだりするもんだろ! オレだって散々考えた末に意を決して言ってるんだよ! 一大決心だったんだよ! おい? なんだこの仕打ち!」
ごめん、確かに!
涙目にさせてごめん……。
「まあ、確かに年の差はあるがなあ。でもよ? どっかの腹黒権力爺よりはオレの方がマシだと思えねえか? このままだと本当にそんな事になりかねないの、わかってるか?」
すかさず気を取り直したのは年の功ですか、それとも経験値のおかげですか? 強いなおっさん。よかった。
「権力爺と別に結婚しなくても、拷問でよくない? 言うこと聞かせるだけなら」
「お前……。少しは考えろよ。いいか? お前さんを拉致して拷問して、言うことを聞かせたとする。だが、横からお前を別の奴が誘拐しておんなじように言うことを聞かせたら、前のやつは堂々とはお前を取り返せない。だがな?」
なんなの、人を物のように。いやわかるけど。
「夫だったら返せと言えるわけ」
なるほど!
「だから、オレと結婚しておけば、誰に拐われそうになっても堂々と守ってやれるし、実際にさらわれてもオレが返せって言って助けに行けるんだよ。オレが強いの知ってるだろ? ただの旅の供だったら、あらーシエルちゃんいなくなっちゃった、で終わっちゃうわけ。そしてそんな事になったらオレもさすがに寝覚めが悪いわけ!」
なるほど。
でも寝覚めが悪いから結婚とか、飛躍し過ぎでは?
「ああ、まあ、それにはオレにも事情があってだな……」
はい出た。やっぱりね。このおっさんがタダの人助けでそんなこと言い出すわけが無いと思ったんだ!
「オレ、じいちゃんの遺言で魔力持ちの女としか結婚できないんだよね」
はい? なんだそれ。じいちゃん横暴では?
「でもホラ、お前は夫が出来て他人から手出しが出来なくなって、腹黒権力者や野心家な奴から逃げられるし、オレは条件にあったそこそこ気に入った女を妻に出来る。ウィンウィンだろ?」
だろ? じゃないよー軽いなーあいかわらず。そこそこってなんだ。そこそこって!
「だから、結婚しようぜ」
「え、いや」
「えーーーー」
えーじゃないつうの。そこに愛は有るのか!?
まあ、結婚はもうしているから出来ないんですけどね!
てへ。
まあ言わないけど。
だってそれを言って「相手は誰だ?」って聞かれて「わからない」って答えるのか? 顔しか知らないと。でもそれ以外になんて答えれば?
あ、いっそシャドウさんの本体と結婚してると言えば……ダメだ、結局「誰だ」「わからん」には変わりないよ。
信じてもらえる気がしない。
「あ! お前まさか、あの影と結婚の約束しているとかじゃ無いだろうな? あんなの見かけだけだぞ! 一時期の感情で目が曇ってるのか!?」
って、失礼な。
……とも言い切れないか。
そういえばあの結婚もキラキラに目が眩んでいるうちに誓ってしまった感がないでもない……いやいや、でもあの銀色の人が妙にかわいくてね?妙に……なんというか……うん。
まあ今になって考えるに、一目惚れ? な、感じ?
おう……照れる。だって、なんか好きだったんだもん……。
「おい!なに赤くなってるんだよ。オレの言うこと聞いてるか? 影の う し ろ は ジジイだぞ!?」
「ああ、ごめん、ちょっと考え事していて…。大丈夫だよ。シャドウさんとはそんな話はしていないから」
「じゃあなんで断るんだよ。いい話だろうが」
「えー、愛? 愛がないとねえ?」
「は? そんなこと言っている場合じゃあないって、ほんっとーにわかってる!? 明日にはどうせまたあの影の監視下に入るんだぞお前。あの影に突然連れ去られることも有り得るんだぞ?」
「うーん、心配してくれてありがとう。気持ちはとっても嬉しいんだよ。でも、そんな理由では結婚できないし、おっさんを巻き込めないよね。おっさんはおっさんが好きになった人と結婚するべきだと思うよ?いつか出会うかもしれないじゃない?」
もちろんこれも本心です。
結婚って、一生なんだよ。条件で結婚しても、いつか心がついていけなくなったら、つらいじゃない?
だから少しも気持ちが無いなら、しちゃダメだと思うんだ。
まあお前がいうなって話だけどさ。
私もよくあそこで決心したな。
まあ後悔は全然していないけど。
こうしてみると私、あの「だんなさま」をやっぱり随分好きなんだな。うん。
今まで全然気付いていなかったけど。
「ったくよー。気持ちよーく良い返事が出来るように魔力でワザワザ火を出して見せたり、イカロス出して見せたりしてオレのイメージアップ作戦頑張っていたのに、効果なしかよー!くそー」
そういうところだぞ、おっさん。