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火の鳥

 次の日の朝、私とおっさんは二人でタルクの町を出た。おっさんと二人で牧歌的な田舎道を歩きながら、それでも思い出すのは今朝のシャドウさんである。


 シャドウさんは今朝も私をギューギュー抱き締めて別れを惜しんでくれた。愛されてるなあ私……。

 別れといっても1日か長くても2日くらいなのにね。


 それでも何が不安だったのか、シャドウさんは映像で今も北の山奥で眠る「だんなさま」の様子を見せてきた。


 相変わらずよく寝ていらっしゃる……あ、でも前に見たときよりはなんか顔色が良くなっている……かな?


 うん、すやすやだねえ。銀髪が麗しいわあ。シャドウさんを見慣れてきたので、ほぼ同じ顔の「だんなさま」の顔が妙に親近感あるわー。ふふっ。


 なんて微笑ましく見ていたら、あれ? 今まで気づかなかったけれど、なんかある。


 よくよく見てみると、それは、細い……糸のようなもの。

「だんなさま」と私の間に渡っているらしかった。こんなもの今まであったっけ?


 映像の中でその糸に触ってみると、うん、糸だね。白い白い、半透明の糸だった。


 ちょっと引っ張ってみると、その動きが「だんなさま」に伝わって、そして「だんなさま」がうっすらと目を開けた。空中から見下ろす形の私と目が合って、ニッコリ微笑む。え!? 見えてる? そして起こしちゃった!?


 その笑顔は最近シャドウさんが見せるデレデレの笑顔とほぼ同じでちょっとこっちが照れる……。


 でもつまりこの糸、イメージではなくて本当に繋がっているということか。


 ごめんね、起こしちゃって。寝てていていいよ。元気になって自然に起きるまでゆっくりしていて。私は楽しくやっているから。


 そんな気持ちを糸を通して送ってみたら、どうやら伝わったらしかった。

 またニッコリしてから「だんなさま」はお眠りになったのだった。


 シャドウさん、この糸を私に見せたかったのかな。繋がっているよってこと? え、ある意味怖くない? 何か伝わって行っちゃうのかな!? ナニが伝わっちゃうのかな!? 私のさっきのメッセージは伝わっていたっぽいよね!?


 ………………ま、まあいいか。深くは考えまい。大丈夫大丈夫! きっと……。


 ちょっと狼狽えていたのがシャドウさんに伝わったのか、シャドウさんが苦笑して、映像で、どうやら「伝えようと意識して送らないと伝わらないよ」的なことを教えてくれた。

 お、おう。良かった……。

 なんでもダダモレはちょっとキツい。


 だけどその後に、「思考の範囲の制限の仕方」みたいな事も教えてくれた。

 なるほど何でもオープンにしないのは大事かもね。ある種の結界みたいな感じかな。ここから先は見せないよ、的な。うん、練習しておこう。


 こんな感じかな……? 出来てる? お、上手?

 シャドウさんがニコニコウンウンしてくれた。頭もナデナデしてくれる。


 そんなこんなで、端から見たらただイチャイチャしているようにしか見えない私たちは「いい加減にしろよ!」とおっさんに怒られたのだった。


 って、おっさん、何でそこにいるの! 勝手にドアを開けないで!

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お前さあ、あの影の見かけに騙されているよな? 影を実体化させる実力のあるやつなんざ、この国に10人もいないの知らないだろ。

 みーんなもれなくヨボヨボの爺だぞ? んで大抵腹が真っ黒だぞ? 色男だからってフラフラよろめいてんじゃねーよ、危ねえなあ。

 その魔術師を使っているもっと後ろのやつなんざ怖すぎて考えたくもねえよ。大丈夫なのかお前!」


 へえ、そうなんだー。ふーん。えー大丈夫じゃないの~?


「おいー。俺は心配してるんだよ! 絶対この先何かに巻き込まれるか、既に巻き込まれてんだぞ?

 そしてそれは絶対にやっかいな事だろ! どう見ても! 隠れてる奴が大物過ぎる!」


 おっさんは必死に言ってくれるけれど、そんな心配をしてもこの先何が変わるわけでもないしねえ多分。


 乗り掛かった船ではあるけれど、既に降りられなくなっているのは感じるから、もうしょうがないよねえ。

 とりあえずシャドウさんはいい人だし、私は今の状態でそれなりに楽しいから良いんじゃないのかなー。


「だから! 今は良くてもこの先だって言ってんだろ!」

 めずらしくイライラしているおっさん。


 うん、ありがとねー心配してくれて。まーでも悩んでも仕方ないでしょ。出たとこ勝負するしかないさー。

 なんてヘラヘラ笑っていたんだけれど。


 カイロスのおっさんは深ーい溜め息をついたのだった。


 やだなー折角だからご機嫌で行こうよーと思いつつ、あの常に煩いカイロスさんがずっと黙っているのもまあ、静かでいいかーなんてほてほて歩いていたら。


 途中の人通りが途絶えたあたりでカイロスのおっさんが、

「ちょっとこっち来い」

 と、脇道を指し示した。

 えー何? 誘拐? なわけないか。


 思わず「だんなさま」との見えない糸を意識の裏で確認した私はきっと悪くない。


 大丈夫。繋がっている。何かあったら「だんなさま」を起こしてでもシャドウさんに来てもらおう。あの人は守ってくれる。何故か信じられる。


 まあそもそも超なついている子犬の信頼を疑える人がいるだろうか。


 否!


 うろんな眼差しを向けている私に向かっておっさんが溜め息をついて呆れながら


「何にも悪いことはしねえよ。オレはこれでもお前さんを結構気に入ってるんだから。あ! 信じてねえなその顔! じゃねえと心配とか言わねえよ! オレ、どうでもいい人には結構冷たいよ?」

 へー?


「……ちょっと見せたいもんがあるんだよ。他人の目とか、特にあの影がいるとちょっと困るやつだから、どうしようか迷ってたけど、今ならあの影もいねえし、今見せることにしただけ。そんだけだよ」

 と、言ってくる。


 ほうほう、見せたいもの? なんでしょね?


 ちょっと興味を引かれたので、この話に乗ってみようかな?


 命綱ならぬ見えない糸を握りしめ、一緒に脇道を進む。


 進んだ先はちょっと視界の悪い森の中だった。

 田舎ってちょっと外れるとすぐ森とか林とかになっちゃうよね。きっと夜は怖いやつ。


 少しだけ地面が開けている所でおっさんが立ち止まったので警戒しながら一緒に立ち止まった。


「なんだよーオレ信用ないなー。それなのにこんなの見せちゃうオレってお人好しすぎだろ」

 とかいいながら、手のひらを差し出した。


 はい?手のひら?


 けげんな私を見て、おっさんがふーんという顔をした後に言った。

「これが見えるか?」


 え? 何にも見えないよ? ……あ、待って?

 そういえば、何かあるかも? おっさんの手のひらの上で何か……ふよふよしている。


 んん? と目を凝らしてみたら、うーん、これは、火の玉?


「火の玉みたいなのがある。なにこれ?」

 せっかく伝えたのにおっさんは黙ったままだ。


 一回見えると興味が湧いてよくよく観察しちゃうよね。


 その火の玉は静かに燃えて揺らいでいた。そして…………脈打っている?

 それはまるで心臓のように、規則正しく鼓動していた。


「なにこれ心臓?生きているみたい」

 そう言うとカイロスのおっさんがまた、ふーんと言う顔をする。


「心臓ではないが、似たようなもんだな。イカロス!」

 そのとたんにカイロスのおっさんの手のひらの上の炎が激しく燃え上がり、その中から火の鳥が現れた。


「わあ! 手乗り火の鳥! かわいい! 何これ!?」

 美しい鳥だった。赤々と燃える鳥。つぶらな瞳がこちらを見ている。


「何だと思う?」謎かけかな?

「なになに? こっそり飼っているペット?」


 おっさんが、ガックリしながら言う。

「お前、適当に何でも思い付いたまま言やあいいってもんじゃねえだろ! 悪い癖だぞ! とにかくよく見てみろ! それから思ったことを言え!」


 えー、なんか、怒られてる?


 うーん、綺麗だねぇ。あとは……なんか、気位が高そう? 手を近づけるとボッと燃え上がって嫌がっている。あっつうー。あ、今手に魔力を感じたよ? なんだろ、全体から発しているのかな?


 よくよく目を凝らしていると、火の鳥を包む魔力が見えてきた。多分魔力だと思う。目に見える火とは別に、黄色い何か、光? が、鳥を包みこんでいる。結構強い。


 これ珍しい部類のやつだよね、きっと。そりゃあ他人に見せたくないだろうね。こんなの見たら、みんな欲しくなっちゃうよ。まさしく争いの火種になっちゃうね!


 正直に伝えて感心していたら、またガックリされた気がするけれど、ほんとに失礼なおっさんだな。言えって言うから正直に伝えているだけなのにー。


「まあ、大体合ってる。なるほど。しかしお前、残念だなーもう……」


 なにさー残念って! 失礼な!


「お前、良い目を持っているのに頭が残念なんだよ!少しは考えろよ! イカロス、戻れ」


 ああー、火の鳥仕舞われちゃった……。


「無邪気に残念そうにしてんじゃねーよ。コレ見てカワイイーなんて喜んだヤツ初めて見たわ。普通はビックリして腰抜かすか怖がって逃げるかパニックになって固まるかなんだよ。魔獣だぞ! 自然さえも変える魔力の持ち主だぞ! 魔力感じたんだろ? 怖くないのかよ! 人間だったら本能で怖いやつだろ!」

 何故か最近よく見るジト目になるおっさん。


「え?あー結構強い黄色い光だったね。黄色って、何だろう? 黒が呪いってこと位しか知らないんだよねえ。で、魔獣? 魔獣ってなに?」

 あれ、おっさん、顎が外れたのかな? 口開きっぱなしよ?


 まあ、呆れているのはビシバシ感じているよ。でもさ、しょうがないでしょう。知らないんだから。そして怖くはないよ、何故か。私の本能どうした。


「はあ……そうかそうか黄色か。そう見えるのね。ホント目は良いものを持っているんだよなあ。お前……ほんっとーに残念過ぎるな」


 ちょ、泣き真似までする事ないでしょー!


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