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無理矢理な火消し

「なんかさあ、あの守護魔術をぶっ壊したの、どうやらオレじゃないかって疑われてんだけど……」


 と、おっさんが暗い顔で言い出したのは、復活したお昼の鐘が鳴ってちょっと経った頃だった。


 どうやら時計台が直ったとたんに、あのダム破壊の犯人探しが始まったようだ。


 神妙な顔で部屋を訪ねて来るから何事かと思ったら。


 どうやらあの黒いローブの人はこの町の魔術師で、朝に見たおっさんの魔力が思いの外強かったから疑いを持ったらしい。どうりで別れ際に連絡先を聞いていた訳だ。

 さもありなん。派手で勢いがあったからなー。


「いや無理だから! そんなこと出来るわけねーだろ! オレ火は出せるけど壊したりは出来ねえから! 他人の魔術は、燃やせないし! どーしよーしょっぴかれたら」

 よよよ、とオーバーリアクション。


 え、ヤバそう……? よくわからないけれど、逃げる? でも逃げ切れるのかな?


「一応器物破損で損害賠償なんて前例もあったよなあ確か……」


 え!? 犯罪になるの? 逮捕!? 賠償!? やば……ますます私がやりましたなんて言えない事態。怖い!


 私は平和に生きられればそれでいいのよー。


 悪気はなかったんです。つい出来心で! むしろ親切心だったんです~!


 シャドウさーん……はい、寝てるね。ホントに部屋ではよく寝ているよね。いくら結界を張っているからって、気が緩みすぎなんじゃないの?


「えーと、証拠不十分で不起訴を狙う?」誰も見ていなかったよね? よね?


「いやあ、さすがに昨日のは魔術の痕跡が残っているだろうから、オレのじゃないってわかるだろーと思ってたんだけどよお。何だかあの野郎、俺が一生懸命火をおこしている時に、その痕跡と同じような魔術を感じたとか言い出してよお……」チラッ。


 ぎくーん。


「えーソウナノ? ソンナコトアルンダネー」

 はははははー。


「そ、こ、の、シエルさんよお、確か魔術が見えるって言ってマセンデシタかねえー?」ジトー。


「えー、集中シナイト見えないミタイヨー? カイロスさんの魔術ばかりが目についちゃってーははは」


 今日は朝からこんな会話ばっかりじゃない? まだ昼だよ!? もうやだー。


 しばらくジト目のおっさんに見つめられるも、必死の「無邪気な笑顔」の演技を崩さない私! 私はナンニモシラナイヨー。


 結局おっさんは最後にため息をついて、

「……まあ、オレも面倒なことは御免だからな。とりあえず、あの魔術師がまた夕方話を聞きに来るらしいから、いいか? お前たちは厳っ重にここを封印して、絶対出てくるんじゃねえぞ。とにかく魔力は欠片も漏らすなよ? どうやら同んなじことが他でもあったみたいだから、ちょっとでも疑いが残るとしつけえぞ多分」


 こくこくこくこく。


「まあアッチは魔力の痕跡がやたら残ってんのに、ココはほとんど無いらしいから、なんとか切り抜けられるだろ。出来るだけ上手く誤魔化すからじっとしてろよ! もし出てきたらオレぁ責任持たないからな!」


「わかった! もちろん! シャドウさんにもよーく言っておくね! 頑張って!」

 後はよろしく! という一言は飲み込んだ。


 そーかー、あの力ずくの物理で破壊だと、痕跡が少ないのね。で、エネルギー注入方式だと痕跡が残る、と。

 まあそうだよね。大量の魔力で文字通り吹き飛ばした感じだもんね。あの魔力? エネルギー? 残るのか。なるほど。


 ていうか、カイロスのおっさん、シャドウさんがすっかり黒だと思っているね、これ。まああまり間違ってもいないけれども。


 そして本当に夕方、あの黒いローブの人がカイロスのおっさんの部屋に来ていた。

 部屋の外の廊下には護衛? 警察? みたいな人が数人待機しているような気配がする。


 一緒に行動するようになってからは部屋は隣同士にしているので、私は壁にぴったりと耳をつけて古典的に盗み聞きを試みたのだった。


 シャドウさんの千里眼は、万が一察知されたら後が怖いから、私からお断りしましたよ。そして厳重に結界も張ってもらいましたとも。逮捕こわい。

 結界も極力察知されないように偽装済みですとも。


 何とか壁越しに聞こえて来たのを総合すると、結局は決め手が出なくて放免になった、かな?


 ぼそぼそ話す黒ローブに対するおっさんの

「証拠」とか「オレの魔力」とか「他にも」とか「沢山」とかの言葉が聞こえてきた。いやあ立て板に水ってこのことか。おっさんすごいな。黒ローブすっかり押されている。


 でも、君子危うきに近寄らず。これはきっとボロが出る前にさっさと逃げた方がよさそうだ。よね?


 そしてそのうち「せっかく」「人の好意を」「仇で」「名誉毀損」と聞こえだした頃には、もう今すぐこの町を出たくなったのだった。

 おっさんちょっとやり過ぎじゃあないですかね!?



 結局それはそれは震え上がった私の希望で、次の日には私とおっさんがタルクの町を出る事になった。


 私のビビり具合に同情したのか、おっさんの提案で、まずは私とおっさんが町を出て、その後シャドウさんがフード無しで歩いて町を出ることになった。


 そうすれば、目立つシャドウさんに注目が集まって、そのうち"末裔"がやったんじゃないかとなるだろうという作戦だ。

 "末裔"がやったのなら何か理由が有るのだろう仕方がないと思われて、それでこの件はうやむやになるだろうというのがカイロスのおっさんの考えだ。


「ま、実際本当の事だしな?」と意味深な視線を寄越して来たけど、もちろんそこはスルーで。面倒はキライ。


 しかし"末裔"って本当に凄く良いイメージなのね。なんなのその信頼。


 そして念には念を入れて、シャドウさんとは出発の日を1日ずらすことになった。最初おっさんは3日くらい、と言い出してシャドウさんに却下されていた。

 でもすぐ合流しているのを見られても良くないから、二つ先の町で落ち合おうとカイロスさん主導で話が決まって行く。


 まあ言われてみればその通りなんだけど、シャドウさんと離れるのが初めてでちょっと心細い。それにシャドウさんの眉間にもシワがくっきりだ。


 でも。まあ、シャドウさんは千里眼があるからなんだかんだ監視はあるだろうし、おっさんには膝の呪いもあるから大丈夫かな?

 少なくとも私一人で出発するよりはおっさんがいた方が遥かに心強いのは確かだし。


 特に計画自体には問題も無いようなので、私もシャドウさんも渋々了承したのだった。


 そしてその夜、シャドウさんは私をギューギュー抱きしめたあと、なにやら魔術をかけまくり、もう一度ハグして見えない幻の耳をうなだれさせていた。


 なにこれ、かわいい……。最高か……。

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