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おっさんの魔術

 次の日は快晴だった。朝食をとる宿の食堂の雰囲気も浮かれた明るさで、久しぶりの青空をみんなが歓迎していた。


 いやあ、清々しいね。昨日頑張ったかいがあったというもの。

 とりあえずこれ以上、湿気で病気になったりカビがはびこったりを止められたのではないかと。よしよし。


 なんて達成感で美味しく朝食をいただいているのに、この目の前のおっさんがジトーっとした目でこっちを見てくるのは何故かしら? もぐもぐ。


「おっさん食べないの? せっかくの新鮮な朝ごはんなのに。美味しいよ?」


 シャドウさんはお部屋待機だからね。せっかく向かい合ってご飯を食べてるのに、辛気くさい顔なんて見たくないんだけど。


「お前さあ……。よくそんなバクバク食えるな」


 ええ!? なんで? 爽やかな朝だよ!?


「お前さん魔術が見えるっての、ウソだったのかよ。見えるんなら昨日のあれも見えただろ? すげー派手に吹っ飛んでたじゃねーかよーこの町の守護魔術! オレでさえハッキリクッキリ感じたぜ?」


 はい? 守護魔術? え、「守護」!?


 思わず固まる私。吹っ飛んだって……アレだよね? あのダム? 守護ってなにさ!?


「あれ、感じなかった? この町全体に魔術がかかっていたろ? ほうぅ? わからなかったんだあ? なんだお前実は大したことねぇな?」


 おっさんが得意気にニヤニヤし始めた。


 くっそう悔しいな。でも確かにシャドウさんにダムを見せられるまで魔術関連には気付いて無かったよ。

 振り返ってみるに、ちょっと大きな町なのに浮かれて、ついつい興奮してお店とか冷やかすのに夢中になっていたからか?


「守護って、なに? 他の魔術とは違うの?」

 なんか大切なものを壊していたらどうしよう。

 でもアレ壊さなきゃ雨止まなかったよ? 壊すよね?

 え、いいよね!?


「オレも詳しくはわからねえけどさ、この町に入った時に古ーい魔術を感じたんだよ。町全体にかかっていたな、ありゃ。そういうのは大抵その町を守るために昔の魔術師がかけた魔術だから、守護魔術って呼ばれてんの。そんで、そういう魔術はその町の魔術師たちが定期的にメンテナンスして強化もしてるから、すっげえしっかりガッツリ固まってるもんなんだよ、普通は。だから一晩で消し飛ぶなんてあり得ないの。で、も」


 おっさんが意味深な視線を寄越す。


「昨日の夜。厳重に部屋に結界張って、お宅のシャドウさんナニシテタノカナ~?」


「え、シラナ~イ。ソンナコトアッタノ?」


 はははははー

 うふふふふー

 白々しい空気が寒いよーえーん。


「お前さん見てたんじゃねーのかよー。俺たちが来たとたん守護魔術が消し飛んだんだぞ? 他の誰に出来るってんだよそんなこと。絶対に偶然じゃねえだろ!何守ってたのかは知らねえけど、どうなっても知らねーぞーもー」


「えー、私すぐ寝ちゃったカラナー。なんか疲れていたみたい? キヅカナカッタナーあはは……」


「ホントかよ? ……まあアイツの力だったらお前さんを眠らすのも簡単そうだがよ。でもアレだぜ? 町全体が揺れたんだぜ? 本っ当ーに何も感じなかったのか? お前……さすがに鈍感過ぎるだろ」


 揺 れ た の !?


 私が心からびっくりしている事におっさんも驚き、そしてまた疑わしそうにジトーっと見てきた。


 いや、びっくりするでしょ。ひっそりとダムを壊しただけのつもりだったのに、そんなに大きな影響があったなんて。

 こわ……。

 そんな大事だったとは……はは……。


 まあほら、見回してもみんな太陽と青空の話しかしていないしね!些細な地震なんて、みんな気付いていないんじゃあないかな? もしくはとっくに忘れてるとか。

 あ、もしかしたら、魔力持ちの人しか感知しないのかもしれないよ!きっとこのおっさんが敏感なんだよ!


 大丈夫大丈夫! 多分ね……。


「それよりさぁ、お前さんを眠らせて、まさかアイツけしからん事なんかし…… いてえ! くっそう! 条件厳しくなってないかコレ!」


 おっさん、相変わらず懲りないなー。

 ーーーーーーーーーーーーーーー


 そんなスリリングな朝食のあと。


「ちょっと時計台に行くけど、お前も来るか? 中に入れるぞー」

 というおっさんの誘いに乗って、一緒に着いて行くことにした。


「なんで影まで来るんだよ。オレが誘ったのはシエルだけだっつうの。しかもそこ!手を離せ!」

 とかブツブツ言っていたけれど、結局仲良く3人で時計台に向かった。


 ちなみに歩いている間、おっさんが昨日の夜に何をしていたのかシャドウさんにしつこく聞いていたけれど、シャドウさんは安定のスルーでしたね。眉間にシワは寄っていたけどね。




 時計台に着くと、黒いローブを着た人が一人と、作業着らしきものを着た人三人ほどに出迎えられた。


「いらっしゃいませ。この度のお力添え感謝します。私では風しか送れませんでしたから、大変助かります」

 と、ローブの人が言う。


 なんだろう? と首を捻っていたら、ローブの人を先頭にして時計台の中に案内された。


 時計台は時計の機能と、あとこの町では三時間ごとに鐘を鳴らしていたらしいけれど、どうやら最近の長雨で木部が湿気って作動しなくなっていたらしい。


「金属部分は磨けば錆びも取れるので何とかメンテナンス出来ていたのですが、木部の湿気がどうしてもとれませんで。なにしろ機械の保護の為に作った構造で、風通しが悪くなっておりまして」


「で、普通に火なんて焚いて乾かそうにも煤が出るのは機械によくねぇだろ。だからちょっと協力しようかって話をしたんだよー。魔力で出す火は煤も出ねぇし、加減も自由自在だから、ちょうどいい具合に乾かしてやるぜえってな」


 また有料で仕事を取ってきたんだな、このおっさん。ほんと抜け目がないなー。

 まあ、お陰でこんな珍しいものが見れるんだけど。


 時計台の心臓部、機械室に着いた私達は、おっさんもといカイロスさんから少し離れて見守った。

 思ったより機械室と仕掛けが大きくてちょっと驚いた。人が小人のようだー。


 機械部分は上の方に有るので、下にあたる床はホールのように広々としていた。


 その真ん中に立ったおっさんいやカイロスさんは、すうっと息を吸って何やらブツブツ言ったあと、突然燃え上がった。


 おおっ!? なにごと? 凄い! 派手!


 服や髪は燃えていないのに、体の周りを火が包んでいる。ちょっと離れた所にいる私の所にも熱が伝わってくる。

 こんな大きな火が出せたんだね、カイロスさん。ちょっと見直したよ。そりゃあ王都に呼ばれる心配もするよね。


 作業着姿の三人がどよめく中、黒いローブを着ていた人が詠唱を始めた。

 するとローブの周りを風が吹き始める。


 そしてローブの周りを回ったあとにカイロスさんの作った熱を乗せ、機械室の中をぐるぐるまわって熱を全体に伝え始めた。


 おおー見事な連携作業! 魔術って凄い。


 たっぷり湿気を含んだ空気が、機械室の上に開けられていた小さな窓から勢いよく抜けて行くのが感じられた。


 窓を抜けて空へ上がって行く。鳥よりも高く。

 どんどん上がって上空を流れる気流に乗って……。


 と、そこでシャドウさんに目を塞がれたのだった。


 あれ、また私やってました?

 チラッとシャドウさんを確認すると、また、めっ、という顔をされてしまった。

 うん、ごめんなさい……昨日の今日でやるなよって話ですね、はい。


 カイロスさんとローブの魔術師さんの連携のお陰か、30分もしないで機械室の中が最低限は乾いたらしかった。


 あとは調整すれば、今日の昼頃には何とか時計を動かせるだろうということになり、カイロスさんはとても感謝されていた。

 確かにあの小さな窓だけで自然に任せていたら、乾くのに何日もかかっただろうと思う。時計は生活に必要なものだから、早く直って良かったね。


 その後カイロスのおっさんは、ローブと作業着の人たちからしっかり報酬を受け取って、そしてくれぐれもこの事は内密に、と念を押してからお別れしていた。




 帰り道、

「あの人たちが黙っていなくて、王都に報告するかもとは考えなくていいの?」

 バレたくなかったんだよね? と聞くと、


「ああ、大丈夫だろー。時計台の保守が仕事なのに動かなくなっちまったなんて、報告するのは勇気がいるだろ。ましてや外部の人間に助けてもらいましたーとか出来るだけ知られたくねえだろうよ。それに報告したくても、オレ偽名使ったからな、どうせオレだとはわかんねえさ。あいつらよっぽど困ってたらしくて、言い値で払ってくれたんだぜ。へっへっへ」


 って、相変わらずですね、おっさん。たくましいわー。


「それよりオレ、凄いでしょ? かっこよかった? 惚れちゃう?」


 ああ……うん、凄かったけど、それ言っちゃったら台無しじゃないの? やれやれ。


 なんて、思っていたら。

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