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放置された花嫁は、ただ平穏に旅がしたい  作者: 吉高 花 (Hana)
第三部

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過去の記憶

 

 ――魔力の無い者に、生きる権利は無いというのか。

 絶望した若者。


 その存在に悪魔が気付いた時が、全ての始まりだったのかもしれない。

 その若者に近付いて、悪魔が囁く。


「ならば、この国から魔力を無くしてしまえばいい」


 出来るのかと問われた悪魔は、私なら。そう答えたのだった。全ては自分の野望のために。全てを見返して復讐するために。


 程なくして若者は快進撃を始める。

 人気を集め、権力者を蹴落とし、権力の階段を駆け登ってゆく。


 魔力の無い若者は、巧みな話術と豊富な常識外の知識を武器に、瞬く間に魔力を頼りに生きていた人々を手中におさめていった。


 誰の魔術も触れられず、魔術の罠にも嵌まらない。魔術の効かない人間は、この世界の人々にとって、あり得ない存在だった。魔術でしか戦い方を知らない人たち。魔術以外での戦い方を知らない人たち。全てを魔術でまかなっていた世界の人たちに、この魔術が効かない若者は脅威だった。


 やがて若者は全てを手に入れて王を名乗る。

「私が新しい王だ!」


 その宣言は、突如姿を消したアトラの王の耳には届かず、そして代理の王が敗北したことを意味していた。


 煌めく金の髪、魔術の効かない、つまりは誰にも操られない体を持つ新しい王は、その未知の知識と行動力で魔術の王国を新しい国に作り変えていった。


 常に寄り添う魔術師の存在は、かつての人々には当たり前すぎて気にもとめられなかったか。


 当時誰にも見抜けなかった。


 魔力の無い若者の出世物語が、誰よりも魔力のある一人の魔術師によって作られていたことを。

 目立つ特異な若者の影に隠れた、悪魔の存在を誰も気に止めなかった。


 悪魔の高笑いが聞こえる。


 ――ざまをみろ! 私は勝った。とうとう勝ったのだ!


 エヴィルに!


 もうお前の帰る場所は何処にもない。全てを失って嘆くがいい。運命を呪い、嘆きの闇に沈め――




「月の王」が読み取った残留思念は、それが三百年前のものとは思えないくらいに鮮明な記憶だった。



「なんだこれは」

 カイロスのおっさんが思わずという感じでこぼした。

 師匠は固まったままだ。


 私もびっくりして言葉が浮かばない。


 旦那さまがチャンネルを通して見せてくれたのは、この国にかけられた魔力流出の魔術に残っていた、かけた魔術師の残留思念だった。魔術師の記憶。魔術をかけた時の気持ち。


 私はそこまで視えなかった。いや、探らなかったと言うべきか。大規模すぎて、全体を把握するだけでいっぱいいっぱいだったし、予想もしていなかった。


「いつか私に読ませるために、仕掛けられていたのだと思う。私がこれらの魔術を視る度に浮かび上がるから」


 眉間にシワを刻んで語る彼の気持ちは完璧に閉ざされていて、私にも読み取れない。


 しかしあの魔術を視る度に、こんなものを感知していたとは。


「……こんな魔術師の存在は、どの記録にもありません。確かに権力者に専属の魔術師がいることは珍しくない、むしろ当然だとしても、今の王家にそんな昔から専属の魔術師がいたとは全く聞いたことがありません。王立図書館にだって、どこにもそんな記述はありませんでしたよ」


 カイル師匠が信じられないといった顔で言う。


「隠されていたんだろうよ。王とこの魔術師二人で隠したんだろう。よほど上手いことやったな、今まで誰も疑わなかったのなら。しかしなんでこんなに恨んでるんだ? 」


「彼は、私とアトラの王位を争った魔術師だ。魔術に覚えがある。ちょうどカイロスの叔父どのと同じような立場だね」


 思わずあの、派手な格好で仰々しい態度のおっさんの叔父さんが脳裏に浮かんだ。


「強力な魔術師で、ずっと王になると思われていたのに龍がつかなかったから即位できなかった人だ。たしか王が不在の期間に代わりに政務をとっていたはず。私は幼かったからよく覚えていないが。そして結局、私に龍がついてしまったので、しばらくはどちらが王になるかで一族が揉めたんだ」


 それ、旦那さまが随分若いときに龍がついたってことかな。


「結局私の魔力の方が上だと認められて私が王になることになって、彼は政務から退いたんだ。だが別に彼のやり方に悪いところがあったわけではないから、無念だったのかもしれない」


 魔力の多少で王になるかが決まる世界か。経験も手腕も吹き飛ばすほどの魔力至上主義というのも、こうなるとちょっと理不尽かもしれないね……。


「お前が形だけ王になって、政治は彼に丸投げすればよかったんじゃねえか? お前もその方が喜びそうな気がするんだが」


「実はそういう話も出たんだけどね、彼が承諾しなかったんだよ。私は王になるとは思っていなかったから、知識も経験も足りなくて最初は本当に困ったよね。私もてっきりそのうち彼に龍がつくだろうと思っていたんだ」


 うーん、旦那さまの下につくのを良しとしなかったということなのかな。でもまあ仮に旦那さまを傀儡にしたとしても、そのうち自分で王をやりたいと言い出したら魔力で対決することになって、そして勝てないのがわかっている状態か。最初から勝負の結果がわかっている。


 わあ、魔力基準の世界って、残酷……。


「それでも私が王位についていた間は、彼には何も不満そうな素振りはなかったからここまで恨まれているとは思っていなかったな」


「で、お前が消えたとたんに動き出したってことか、そいつ」

 おっさんが忌々しいと言いたげな顔だ。


「そうみたいだね。私もうっかりしてしまったようだ」

 旦那さまが珍しく悔しそうな顔になっている。


「結局国から魔力を追い出して、自分だけ魔力をその「黒の魔術師の家」で補充していたってことでいいのか? で、傀儡の王を好きなように操っていたと。でもそんなこと出来るのか?」


「たとえば魔術のきかない体、というのも単に彼が全ての魔術を弾けばいいだけだ。彼より強力な魔術師がいなかったら、簡単に出来る。彼の魔力だったら、無敵の人間を作るのは簡単だ。そして周りの人間の心も読めるから情報を教えれば快進撃も演出できるな。罠を張るのも操るのも彼ならば誰にも邪魔されない。彼には目立って、そして突き進んでくれる人形さえ居ればいい」


 旦那さまが苦々しい顔で言った。

「私が寝ている間に、随分国民に迷惑をかけてしまった」


 最近ずっと難しい顔をしていたのは、そういう気持ちだったからですか。

 でも、もとはといえば私が病んで死のうとしたから、とは言わないんだね。


「で、どうすんだ、この状態」


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