表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/119

自分で蒔いた種は(後始末1)

 まあね、元々仲良しだったわけではないんですよ。私達。特におっさんはね。


 だけど私としては確かにこのカイロスのおっさんは何かと物知りで本人が言うように便利だからまあいいか、って最近はなっているし、そのカイロスのおっさんも男の約束なんてのは建前で、たぶん"末裔"という存在に興味があって着いてきているんだと思うのよ。最初っから興味津々な態度を欠片も隠してないからね。


 お互い様なわけよ。利害の一致。


 でもさ。

 せっかくなんだから、表面上だけでも仲良くしようよー。


 なぜか『龍の巣亭』を出てからというもの、シャドウさんが前にも増して私にベッタリ貼り付いていて、おっさんが近寄ると膝の呪いを強制発動させるのはどうしたことか。


 おかげで常に喋っている感の強いおっさんはその勢いそのままに、内容が全部愚痴になっていてうるさいうるさい。


「おいーシャーさんそりゃねえだろうよー俺が何したってんだよーいっつもオレちゃんと紳士的にしてるじゃねーか! なんでお前ばっかりイチャイチャしてるんだよ! オレにもさせろ!なに手とか繋いじゃってんの!? そうそう手を離してだな、って! 腰を抱くんじゃねえよ!なにやってんだよ昼間っから! お前影のくせに!実態隠したまんまでズルいだろ! スケベ! イケメンの影で惑わすんじゃねえ!」


 煽るシャドウさんと騒ぐおっさん。


 自由に行動出来ないストレスが相当堪えているみたいです。はい。


「お前もお前だ!そいつ相当力がある魔術師だって言ってんだろ! そんな力が若いうちに着くわきゃねえんだから、影の見かけがイケメンでも、その後ろにいるやつはヨボヨボのシワシワなジジイだぞ! おい! 聞いてんのかよ!」


 1メートル範囲の見えない檻の周りでキャンキャン吠える犬みたいになってます。


 いやいや、実物もイケメンですし? むしろもっと美しいですし? 絶対言わないけど「だんなさま」ですし?


 そして何よりフードからチラッと見える表情は、本物の「だんなさま」と同じようにやにさがってそれはそれは嬉しそうですから。見えない尻尾もブンブン振りまくりですから。


 そんなに嬉しそうにしてくれちゃうと、まあ私もほだされてしまうわけですよ。だんなさま、いいわこの人……。ずっと見ていたい。


 なのでうるさい駄犬は放っておいて、ラブラブ手繋ぎして歩いていたら。


「へえー、面白いグループだね。こんにちはー」なんて、珍しく旅人らしいグループに声をかけられた。


「こんにちはー。あっちの町から来たんですか? 私達今から行くんですけど、大きい所みたいですねえ。宿とかどこが良かったですかー?」

 なんて世間話ついでにニッコリと愛想をふってみる。なにしろ私は今ご機嫌です。


 でも旅人さんたちはちょっと気まずそうに

「あー……、あの町、今ちょっと大変みたいなんだよね。なんか天候がずっと悪いみたいでさ……あんまり長居はしない方が良いかもね。オレたちも早めに出てきたんだ」

 なんてゴニョゴニョ言っている。

 なんだなんだ?


 結局夕方にその町タルクに入った私達は、小綺麗な宿屋を見つけてそこに宿をとった。不穏な話はあったけれど、宿があるのに野宿は嫌です。


 入って感じたけれど、確かに活気がない? かな?


 原因は宿の食堂でおっさんが聞きまわってくれたので、まとめると「長雨で農作物やら建物やらに被害が出ていて病気も流行りはじめている」ということらしかった。


 そう言えばさっきも小雨が降っていた。降りが弱くなったのも久しぶりらしい。

 ああー、確かに湿気は良くないよねえ。


「なんか町の時計台なんかも湿気で機械が動かないみたいだし、相当だな。医者でも洗濯しても乾かないから清潔な布が無くなって困っているらしい。消毒するにも限度があるし、流行り病とかもそろそろ対策しないと増えるぞこりゃ……」


 珍しくおっさんも真面目に考え込んでいる。


 雨かあ……。降らないのも困るけど、降りすぎもねえ。

 私は肉を咀嚼しながら意識を空へ向けてみた。


 頭上を雨雲が分厚く覆っている。

 どこまで広がっているかというと……あんまり広範囲ではないけれど、この町はすっぽり入っているのねえ。


 と、思ったとき、肩をポンと叩かれた。

 びっくりして振り向くとシャドウさんが立っている。

 あれ、部屋で寝てたんじゃないの!? 影なせいか、この人はご飯は普段は食べなくても良いみたいなので最近はお部屋で待機する人だったのに。


「おわっ!? いつの間に来たんだよ! びっくりした!」と、おっさんも目が点になっている。


 シャドウさんはジェスチャーで「食べろ」と言った後、私が食べ終わって部屋に戻るまで付き添っていた。

 なぜ突然過保護になったの!? おっさんがまた警戒していたよ?



 部屋に戻って私が寝支度をしていたら、シャドウさんは私を呼んで、そして手を繋いで映像を送ってきた。


 宿の、この町の上に広がる雨雲。さっき私が見たやつだ。と、思ったら、そこからもっと視点が上昇して、ぐんぐん町から離れて……あ、『龍の巣亭』がある。そこから吹き出したエネルギーが上空まで上がっているのが見えた。


 キラキラしながら噴水のように上がっていくエネルギーはとてもキレイだなーなんて見ていたら、あれ、その流れが淀んで溜まっている所がいくつかあった。


 ……いち、にい、さん……3箇所。

 そのうちの一つがこの町の上だった。

 エネルギーが淀んで雨雲を抱え込んでいる。そしてその雨雲が……増えている?


 え、じゃあこの長雨、『龍の巣亭』から出たエネルギーが溜まっているから降ってるの? え?


 じゃあ、つまりは元は私のせい!?


 さあっと血の気が引く。


 思わず我に帰ったとたんにシャドウさんの顔が目に入った。あれ? 瞳がいつものグレーから銀色になっている!? ……と、思ったら徐々にまたグレーに変わった。


 目をパチクリしていたら、シャドウさんはちょっと困った顔をしたあと、また別の映像を見せてくれた。


 さっきの食堂の場面だ。私がご飯を食べながら宙を見つめていると、なんと私の瞳が銀色に変わった。

 え!? こんなんなったの!? さっき?


 たぶん、上空の雲を見ていた時だろう。そしてシャドウさんに肩を叩かれた後に黒に戻っていった。


 もしかして、シャドウさんは銀色になった私の瞳を隠すために来てくれたのかな。


 さっきはどうやらカイロスのおっさんはご飯を食べていて気付かなかったみたいだけれど、これ、見られていたらおっさんに大騒ぎされていたかもしれない。

 うわー危なかった!


 と、いうことは軽々しく人前でああいうことはしない方が良いのね? と目でシャドウさんに聞くと、シャドウさんは厳かに頷いた。


 なるほど。だから部屋で見せてくれたのか。


 だけど、見えたからといって、この、元はと言えば私のせいなこの事態、どうすれば良いのかしら……と、思ったら。


 シャドウさんがニッコリしてまた映像を、って、なんで私の考えていることが分かったのかしら!? あ! 手を繋いでいるから!? えっ!?


 あたふた焦っているのに、ガッチリ捕まれた両手からシャドウさん発の映像は強制的に流れてくる。


『龍の巣亭』から流れたエネルギーの溜まっている場所が見える。なんでエネルギーが溜まっているかというと……何か魔術らしきものが塞き止めている。


 これは、きっとあれだな。

 百年前にエネルギーの流れが変わって、この場所に流れてくるエネルギーが不足したんだな。で、多分、それを補う為に当時の魔術師が、ここにエネルギーを塞き止めるダムを作った。

 おかげでこの町は衰退しなくて済んだのだろう。


 当時の魔術師の思念が薄く残っている。

 うっすらと読めるのは……渇水?

 エネルギーが不足して水が足りなくなったのかな。


 で、今またエネルギーの流れがダムの必要の無かった昔の状態に戻ったから、エネルギーが溜まり過ぎてしまっているのか。


 どうやら3ヶ所全て同じ事情らしい。じゃあどうすれば良いかは、自明だね。


 でも、ダムだよー。硬い壁なんだよー。大きいんだよー……。


 チラッとシャドウさんを見てみるけれど、彼はしれっと微笑んでいるだけで、手を貸す素振りはない。私にやれと?


 ニッコリ。


 はい、やれってことですね。


 諦めて頑張りますか。これは今晩徹夜かな? 徹夜しても出来るのかな? でも逃げられる雰囲気じゃあないよね、コレ。ええい、ままよ。


 覚悟を決めたとき、シャドウさんが、やり方だけは映像で教えてくれた。わかってるならやってくれてもいいのにーブツブツ。


 カチリカチリと部屋の結界が重ね掛けされる音がした。


 シャドウさんはそっち担当ですかそうですか。

 で、私が実行部隊なのね。働けと。はい。

 自分で蒔いた種は自分で刈り取らせていただきますよ全力でっ。




 教えてもらったとおり、意識をぐんぐん上昇させた。

 町がみえる。雲が見える。『龍の巣亭』から流れて溜まった淀みが見える。それでももっともっと意識を広げていく。


 握られた手からシャドウさんの視界が伝わってくるけれど、そんなことはお構い無く最大限に意識を広げると、この国の上空をエネルギーが縦横無尽に流れているのが見えた。


 広い。そして、力強い!


 気持ち良くなってそのままそこに溶け込もうとしたその時、突然「だんなさま」のキラキラしいお姿が目の前に立ちはだかって我に帰った。


 おっとー。

 シャドウさんが怖い顔をして首を横に振っている。


 やり過ぎたか……。ついつい気持ちよくてどこまでも行こうとしてたわー。


 我に帰ったと同時に思い出すのは送られて来ていたシャドウさんの視界。


 普段の私の黒い目と黒い髪が銀色に変化して、凄い勢いで周りを風が吹いていた。


 目を見開いたまま空を見つめて、「だんなさま」本体と同じ銀色で全体が発光している自分、ちょっと異様だ。


 なにこれ。こんなんなってたの!? 全く自覚なかったよ!


 びっくりして目をパチクリしていたら、シャドウさんから上昇するのはここまで! とでも言いたげな映像が来た。

 ちょっと、めっ! ていう感じのニュアンスが込められている。そんなニュアンスも伝えられるんだね。器用だね、シャドウさん。




 さて、怒られてしまったので、今度はおとなしく指示された高さまで慎重に意識を上昇させた。この町を含む淀みを見下ろす。ダムは……あそこか。


 ちょっと手で押してみたけれどもびくともしない。しょうがないのでちょっと考えて、もう少し意識を大きくしてみる。相対的にダムが小さくなった。


 よいしょ。押す。おっ、ちょっとぐらついた。

 よし、このまま力ずくで押す! あっちから、こっちから、時には揺すって。


 いろいろ奮闘していると、少しずつ緩んできたダムの壁が、ある時突然崩壊して、そしてシュンっと消えた。淀みが流れ出す。おおー、やったー。


 だけど、結構大変だったよ!? これあと2回やるの!?と、うんざりしていたら、またシャドウさんから指導が入った。

 次のやり方は、あのおっさんの最初の膝の呪いを消した時と同じやり方だった。

 おお、忘れてたよアレ。


 私は次の淀みの上空まで意識を伸ばすと、今度は押すのではなく、手のひらからダムに向かってエネルギーを送りこんだ。


 温かなエネルギーのイメージを頭に描いて、手のひらからダムの壁に押し付ける。

 するとエネルギーはダムの壁に吸い込まれ、一杯になって、しばらくはパンパンになりながらも耐えていたけれど、最後にはパンッと壁が弾けて消え失せた。


 なるほどなるほど。さっきよりは効率がいいね。


 これなら3つ目も行けそう。


 そしてすぐさま3つ目に取り掛かった。

 一度やったからちょっと慣れた。

 よし。エネルギー注入の速度を上げちゃおう。

 調子に乗るのは私の良い所なのか悪い所なのか。


 こちらも程なくして私の入れたエネルギーに耐えきれずに消滅したのだった。これでこの近辺の淀みは無くなったかな? これで私の所業は無かったことになるかしら。


 お願いなって。お願いだから!


 はあ、ちょっと疲れた。おやすみなさいー。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このお話はBKブックスさんから書籍化されました!

「放置された花嫁は、ただ平穏に旅がしたい 」

放置された花嫁は、ただ平穏に旅がしたい 表紙
紙の書籍は一巻のみですが、電子書籍として最後の三巻まで出ています!(完結)
読み放題にも入っているので、ぜひお気軽にお読みください!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ