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「教会はそりゃあもううるせえぞ。この前も魔術は何か規制するべきだーって言ってきやがった。ま、余計なお世話だっつって追い返したけどな!」
うん、おっさんも相変わらずそうでなにより。なんか領主らしくなって来た感じ?
「お? そうか? オレも立派になっか? 惚れちゃう?」ニヤリ。
あ、そこまでは言ってない。はいはいすごいすごいー。
シュターフ領主館にて。
どうやらあのトゲ抜きのあとの混乱はそれなりに大変だったらしく。おっさんも若干痩せた? と思ったら、痩せたのではなくて、訓練する暇がなくて筋肉が減っただけらしいです。なんだ、心配して損した。
でも話を聞くと激動だったみたいですね。
育つ作物分布が変わり、収穫量も変わり、気候が変わったところは家から家畜から何から何まで改善だの対策だのやらないといけないからね。そしてそれらの変化に伴って、当然ながら人の移動も発生する。人が移動すれば産業も変わる。そして税収も変わり、でも長としてはそれらを把握しないといけないし、何もしていないのにそんな苦労を背負ってしまった人たちからは、不満や文句も言われるだろう。
それでも「龍が復活して暴れたのだからしょうがない」と随分おっさんに向かう不満は抑えられてはいるらしいけれど。
いやあ、龍たち、ありがとう?
単に癇癪を起こして八つ当たりして喧嘩になっただけな気がするけれど、うん、結果オーライ……だよね?
「まああの後も火龍には協力してもらっているぞ? 土地の開拓なんかは一回火龍に焼き払ってもらっているしな。ああ、そうそう、人が住まなくなった地域は他の龍の好きにしていいぞ。特に緑龍なんかには好きに暴れてもらってかまわないからな? 森になったら木材の供給源にして、新築ラッシュに対応できる。もう道があるから万々歳だ」
って、都合よく龍を使おうとしているな?
たくましいな、相変わらず。私も少しは見習うべきなのかもしれない。
緑龍も『あら、いいわね』って、喜ぶんだ?
あ、早速下見に行った気配がするぞ。なに、そういうのが好きな子なの?
と思ったら。
「命を増やすのが好きなんだよね、彼女。緑が増えて動物たちが喜ぶのも好きだねえ」
とのことです。
でも木を伐採とか言っているけど。それはいいのか?
「喜ぶ動物たちに人間も入っているからね。龍にとっては人間も他の動物たちもみんな同じみたいだねえ」
と言われました。あらまあ、納得。たしかに少なくともおっさんは喜んでいるよ。
「ただ突然魔術に目覚める人間が出てきて、それが元で混乱が起きることもあってな、そこはちょっと考えないといけないんだよ。なにしろ今までの記録には昔はどうやっていたかっていう話は何にも残っていないからな。誰もが初めてのことで上手く対応できていないんだよなあ」
おっさんはチラッと旦那さまに視線を投げた。
「で、だ。もちろん協力してくれるよな? 『月の王』だもんな? 魔術あふれるアトラ時代を知っている唯一の人間だもんな? ちょーっとイロイロ教えて欲しいことがあるんだよねえ~?」
と、下がり眉になった旦那さまの肩をポンポンしてます。あら旦那さま、そんなすがるような目をしなくても。ついでに国の現状も説明すればいいんじゃないかな。ちょうどいいじゃないか。でも二人もいらないよね~よろしく~。
ということで、その間は私は久しぶりの街歩きに。
大丈夫よー侍女のエレナさんと行くからね~。
最近はちゃんと防御魔術のレベルを上げれば、人の感情が駄々漏れで流れ込んで来るというわけではないのでだんだん慣れてきましたよ。まあ、あれだ。慣れてしまえばこれ、普通に空気を読んで表情を読むのとあんまり変わらない情報量だ。何か問題でも起こらない限りはそれでいいよね。人にはプライバシーがあるべき。
と、いうことで超久しぶりにショッピングとお茶ですよ。食べ歩きもあり! たまには遊ばないと息が詰まる。いやあ、こういうときは都会って良いですね! 護衛つきではあるけれど、髪を黒に変えた私は地味顔のお陰もあってのびのび楽しみました。この世界に写真が無くてよかったわ~。もれなく美化著しいブロマイド万歳!?
エレナさんが聞いたところによると、最近シュターフ領主館の使用人さんたちの中にも、魔術に目覚める人が出てきているようです。
魔術の内容は様々だけれど、目覚めた人たちは概ね大喜びして魔術を大盤振る舞いし、目覚めていない人たちの羨望を集めているらしい。
ノリとしては
「いいだろ~」
「いいな~」
的な感じ?
他にもこの領の中では回復魔術や治癒魔術に目覚めた人が旅人や病人を癒していたり、魔術を使って罠を仕掛けたりして狩りをしたり、農業においても動物避けとか成長促進で魔術が使われたり、ちょこちょこと魔術を使える人がそれを生業にし始めているらしい。
嫉妬とかはないのかな。と思ったら、やっぱりたまに怒る人もいるらしく。こじれると争いになったりもするんだろうな。だからおっさんが旦那さまに話を聞いているんだろう。
昔はどうやってそういう問題に対応していたのかは私も記憶がないし、もし記憶が戻ってもたぶん、見聞きしてはいないだろうから力になれなくて申し訳ないな。過去の私、相当箱入りで育っていたからな、多分。
さて、夜。召集がかかりました。
旦那さまからイロイロ聞いたら、まあそうなるよね。
夜、ひさびさの四人でのだんまり会談です。お茶請けは私の今日のお買い物のお土産から最近流行りのスイーツですが、誰も目もくれないよ……まあわかるけどさ。
「国の魔力が隣国に流れているというのは本当なんだな?」
おっさんの顔色は悪かった。
反対に師匠の顔がほんのり赤い。この目付きは……怒っているな。
本当ですよ。たとえばこのシュターフに流れてきている量と同じくらいが、常に王都のあの「黒の魔術師の家」から飛んでいっています。
「国全体ではそれ以上が流れている。隣国と接しているところでも大量に流れ出しているのを確認したから」
そう。旦那さまの素晴らしく良い目を通したら、地続きでもそれはそれは大量の魔力が流出しているのが見えました。ほんと私より断然高性能だよね。羨ましい。
「それはつまり、他の国にも送られているということですか?」
ええ、その通りです。合計すると気の遠くなる量です。国の周辺に等間隔で魔術が埋め込まれていて、せっせと魔術を外に送っていました。東西南北とその間の八ヶ所。
「結果、国の魔力のほとんどが流れ出しているのではないかと思う」
「月の王」がそう言えば、それを疑うものはここには居ない。
それは憶測の形をとった単なる事実の報告だ。
そして私が驚いたのは、その報告にまだ続きがあったことだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
今まで書きためつつ投稿していましたが、書きための方、完結いたしました。
あと約十話程で終わります。
ここからは少々ダラダラと会話が続く場面が多くなりますし展開も遅いかもしれませんが、出来ましたら最後までお付き合いいただけると嬉しいです。





