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放置された花嫁は、ただ平穏に旅がしたい  作者: 吉高 花 (Hana)
第三部

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シュターフの今

 

 まあでもようこそ我が家へ。居心地はいかが?


『ふん、まあまあ居心地がいいんじゃないの? 四龍もいると水の臭いが薄まるからかしら! でも好きで来たんじゃないからね! もうカイロスが拗ねちゃって困ってるのよ。カイルも王都に行っちゃって、除け者にされたってうるさくて。で、私が寄越されたってわけ。なので、伝言。オマエラ、ちょっと帰ってきて何やってるのかオシエロ。すぐにだ! 以上』


 あらー、おっさん、拗ねてるの?


「うーん、でも火の王も知っておいた方が良さそうだからねえ。一回会って話した方がいいね」

 と旦那さま。


 そうだねえ、一回帰るか。ん? 帰る? 行く? まあどっちでもいいか。


『とにかく早くしてよね! 私が迷惑だから!』

 とイカロスがバビューンと帰っていったあと。


「じゃあ馬車を買ってくるね」

 と気楽に言って旦那さまが出ていったんですが。

 え? なにそれ、気楽にポンって買うものじゃあないよね!? 確かすっごく高いやつ!

 やっぱりこの人金銭感覚がおかしいわ。


 でもちょっと待って! せっかく買うなら一緒に行って私も選びたい!

 どうせ主にソレ使うの私じゃないか!


 かくして私は上機嫌でお気に入りの馬車に乗ってシュターフに乗り入れたのでした。えへへこの馬車は上品でお気に入りですよ。ちなみに私がこれを選ばなかったら、旦那さまは目についた一番高いゴテゴテした馬車をなんにも考えずに買おうとしていたんですよ? 信じられます!? 高けりゃいいってものじゃあないでしょう。デザインは大事だから!


 ちなみに馬は買わないで旦那さまの魔術で走っています。見かけで驚かれないように幻の馬が引いていますが。そしてその魔術に興味津々なカイル師匠が御者台に陣取ってます。たぶん解析しまくっているな。幻の馬は初めてだったとわかる食いつきっぷりです。さすがです、師匠。


 シュターフを離れてからそんなに時間が経っていないと思うんだけれど、久しぶりにみるシュターフはなんだか活気に満ちていた。

 そしてなんだか……街がちょっとカラフル。

 魔術がチラホラと見える。


 遠見してみて、何故だかはすぐにわかった。

 ここは魔力に満ちている。


 私たちが抜いたあの巨大なトゲが塞き止めていた魔力の一部が、今はこのシュターフ領の首都シュターフのど真ん中を貫いて、堂々とした太い魔力の柱のようになってゆったりと天に向かって吹き上がっていた。キラキラキラキラ。

 しかし、やたら大きくないか?

 もともとここが魔力の吹き上がる土地だったとしても、これは。


 これ、「黒の魔術師」の家を貫いている魔力と同じくらいの量があるんじゃない?

「黒の魔術師」の家の方はもっと細くて勢いがあって、シュターフは太くゆったりしている違いはあるけれど、でも出ている量は、どちらも膨大だ。

 これが本来のシュターフに流れる魔力だったの?

 と思ったら。


「なんだか昔より出ているねえ……」

 と旦那さまもちょっと驚いている。やっぱり?

 アトラスの魔力より随分多いよね?


「うーん、ルシュカに行っている魔力とのバランスも関係あるのかな」

 ああ、昔はあの流れは無かったんだもんね。


 こちらの魔力は街の広場を中心に広い範囲で湧き出しているから、魔力で人がおかしくはならなさそうだけど……でもずっとこの近くに留まっていたら、それなりに魔力が強化されそうだね。


 現に街のいたるところにちょこちょこ魔術が使われている。事故防止だったり、客寄せのキラキラな魅了の魔術だったり、子供の脱走防止だったり。

 ちょっとルシュカの街っぽいね。


 耳を澄ますと、

「お前のところだけ便利な魔術を使いやがって」

「あー、これうちのかみさんがやったんだよ。なんだか突然できるようになったってさ。お前のところもやるか?」

「お、そうか? じゃあ頼む。しっかし俺の魔力はさっぱり目覚めてくれねえんだよなあ」

「ああ、おいらもさ。でも突然目覚めるらしいからな。おいらは何の魔力が目覚めるかなあ?」

「なんにも目覚めないかもしれねえぞ? そんなやつ山ほどいるじゃねえか」

「そういやかみさんの親戚が呪いの魔術が使えるようになったらしい」

「なんだって? お前のかみさんの一族すげえな」


 なんていう会話が風にのってちらほら聞こえてくるよ。

 今まで魔術が使えなかった人たちが、使えるようになってきているんだね。


 その現象は、どうもこの街の人たちの雰囲気から、歓迎されているようだった。

 なんだろう、喜んでいる? ワクワクしている? 伸び伸びしている?


 そこはかとなく解放された喜びを感じる街になっていた。

 私に魔力が見える能力があるからそう感じるのかな……。


 アトラスのように魔力の湧き出る土地になって、ここシュターフにも魔術に惹かれる人たちが集まって来ているのかもしれないけれど。


 実は私もここに来てからとっても気持ちがいい。温かくて、包まれている感じ。なんだろう、体が魔力を欲していて、それが満たされる感じがする。体が冷えているときに入るお風呂のような。気持ちいいね。


 ふと見たら、旦那さまも幸せそうだ。

 そして師匠からもチャンネルを通して興奮した声が届いた。

「前に見たときよりも随分活気が出ていますね。街にいるだけでなんだか魔力が補充されて元気が出る気がしますよ。いいですね。王都にはない都市としての温かさでしょうか」


 うん、魔力の温かさだよー。

 魔力が直接見えなくて感じるだけだと、なるほどあんまり大きな変化は感じにくいのかもしれない。でもなんとなくはちゃんと感じるんだねえ。


 そしてどうやら聞こえてくる話を総合すると、この変化は龍が復活したからということになっているらしい。なるほど。説得力あるな、その説。そういうことでいいんじゃないかなー。

 龍凄い。うんそうだねー。


 ただ、なんでその龍がついている私たちまで凄くなるのかはちょっとわからないんだけどね?

 かっこよく龍を呼んでいるブロマイドとかポスターとか、売れるんですかね、それ。実態は私たち、ただの龍の下僕な気がする今日この頃なのにねえ……。


 ま、まあ大勢の人たちが喜んでいるなら、いいか……な? ちょっと戸惑ってしまうけど。

 しかし旦那さまもしれっとしているけれど、たぶん全部見えているし聞こえてもいるよね。それでどこも変わらないということは、慣れてるな? 

 こういうところで龍つきの経験年数の差を感じてしまう私はまだまだ龍つき初心者なのかもしれない。


 たのむよー喧嘩はしないでよー……。私はお天気が好きなのよー……。


 だけどまさに魔力の吹き上がる中心の広場にさしかかったとき。

 一人の……神父様? が何やら声を大にして人々に訴えていた。


「魔術とは悪魔の技なのです! 気が付きなさい。皆が使えるわけでもない怪しげな術を、これみよがしに使うような者は、等しく人々を騙そうとする詐欺師なのです。騙されてはなりません! 弱き一般の人々を食い物にして利益を貪ろうとする悪魔なのです! 魔術は悪魔の使うものなのです!」


 うーん、相変わらずだね、教会も。

 そしてあの教会の後ろには、トゥールカ王がいると。


「魔術などという不公平なものによって生活に差が出てしまってよいのでしょうか。持てる者が富み、持たざる者は貧する、そんな世の中になってしまって本当によいのでしょうか! 教会は常に弱者の味方です。魔術をひけらかすような下品で利己的な人たちを相手にしてはなりません! 共に説こうではありませんか。皆が平等に生きる世界の素晴らしさを!」


 一生懸命人々に訴えかけている神父の周りには何人かの信者らしき人たちが頷きながら聞き入っていた。だけどその横を何人かの人たちはチラッと見るだけで通りすぎて行く。


 うーん、貧富の差って、決して魔術が使えるかどうかだけで決まってはいないよね? それを言ったら魔力の無い国王が一番富んでいるという現状をどう説明するのか。皆が魔力が無い今も、貧富の差はあるしねえ。まあ、師匠やおっさんが金持ちなのも否定できないけどさ。


 一方的に魔術だけを責められるとなんだか私自身を否定されている気がしてしまうわね。悪用する気もなければ、人が喜ぶように魔術を使いたいと思っているのに。


 いいじゃないか。出来る人が出来ない人を助ければ。

 他の場面ではその関係が逆になることだってあるだろう。みんながどこかで繋がっていて、そしていろんな関係がある。魔術に限らずね。世の中そういうもんじゃないの? 


 違う?


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