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放置された花嫁は、ただ平穏に旅がしたい  作者: 吉高 花 (Hana)
第三部

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王妃の話

 

 王妃さまにお呼ばれして、前と同じ王妃さまの私室に赴いた私です。

 お茶にいらっしゃらない? と言われて、いいえ結構ですとは、さすがにやっぱり言えないよね……。格式の高いところは苦手なのにー。


 黒ローブ? 今回は被らないよ。だって正式な王家からのご招待ですから。

 わざわざ怪しげな格好をする必要はありません。まあ、そのせいでドレスを着なければいけないんですけどね。はあ窮屈……。


 しずしずとお部屋に入って礼をして、そして顔を上げたらば。

 なんとそこには第三王子と第三王女もいらっしゃったのでした。ひぃー……。


 王妃さまをはさんで麗しの方々が囲む、一見絵のような光景ですよ。

 だけど因縁のある知った顔ばかり。ええっと、それぞれ王子さま王女さまにおかれましては、ご機嫌うるわしく……えーん気まずい空気は嫌なのにー……。


 私が固まっていたら、幸いなことに王子さま王女さま共ににこやかにご挨拶してくださいました。うん、大人の対応ありがとうございます。

 よし、このまましらばっくれよう。出来るかな? 頑張れ私! やり通すんだ! 絶対に過去は蒸し返さないぞ。


 とてもドキドキしている私とは違って、王妃さまがにこやかに話しかけてくださいます。


「ようこそ、セシルさん。来てくださって嬉しいわ。お菓子もたくさん用意しましたのよ?」


 こんな面子でなんてお茶もお菓子も、私、味がする気が全くしませんが!


 一体なんで呼び出されたんだろうと思いつつ、表面上は和やかに世間話なんてしていたけれど、それほど待たずに本題が出てきた模様です。


「実は、この二人にも、金髪の魔術をかけていただきたいの」


 うん、ちょっとそんな気はしてました。よくよく見てみれば、王子にも王女にも、うっすら魔術が見えますよ。キラキラ艶々にする魔術に擬態したなかなか巧妙な魔術ですが、色変えの魔術です。


 他の第一第二王子王女はもともと金髪ということなのかな?


「この二人はわたくしに似てしまって、本来の髪は栗色なんですの。でも今まで金髪の子達として公表されていますから、今さら違うとは言えません。前の『黒の魔術師』がいない今、髪の魔術を更新していただけるのはもう、セシルさんしかいないのです。お願いできますか?」


 お願いという名の命令ですね、わかります。

 一回やってしまっているからねえ、ここで断ることも出来ないか。


 仕方がないのでかけますよ。美味しいお菓子代だと思えばいいか! 味はよく覚えていないけどね。


 金髪になーれー、キラキラ艶々に擬態して、半年限定で。その後はだんだん薄くなるー。


「「カチリ」」


 二人同時にかけられるなんて、さすがですね、と王子さまにキラキラ笑顔を向けられたけど。

 え? 「黒の魔術師」は一人ずつかけたの?

 と思ったら、どうやらそれぞれ別室で、そこそこ時間がかかったそうで。

 ……それ、もったいぶって恩を売っていたのかな?


 あら、私魔術を安売りしちゃった?

 ま、いいか。大事そうにする必要もないよ、これくらい。


 慣れれば大したことのない魔術をそんなもったいぶってもねえ。ロイス様にかけた回復の魔術の方が何十倍も難しいよ。

 そんなに疲れるものでもないし、まあいいか?


 なんてぼんやり考えていたら。


「あなたは素晴らしい魔術師なのですね」

 キラキラ~。


 って、ん? ああ、王子さま。いえいえ大したことはございませんよ。乗りかかった船だし。これくらいなら。


「ぜひ、私の専属の魔術師になってはいただけませんか?」


 はい? 突然なに?


「この子たちはこの先ずっと一生金髪を維持しなければなりませんでしょう? ですからそのような魔術をかけられる方に専属の魔術師になっていただきたいのですわ。もちろん報酬は十分用意してましてよ? 本来ならお嫁さんに来てほしいくらいなのですが」


 はあ? いやちょっとまって?

 この先ずうっとこの王子の金髪の維持をしろって言っている? その為だけにいろと? たかだか髪の色の た め に ?


 え、やるわけないだろう。こんな簡単な魔術のためだけに。


 私にはもう、立場ってものがね? あるのよ。

 私も旧とはいえ王族になっちゃったのよ。しかも龍もいるのよ。望んでなったわけではないけれど、それでも国民が私をそう見るのなら、その立場を勝手に貶めることはもう出来ないのよ。

 旦那さまにも言われているしね。


 私は国民憧れの大魔術で龍を操る「海の女神」で、「月の王」にふさわしい妻でなければいけないの。少なくとも表向きはね。

 他の男に仕えるとか、ないでしょ。


 と、言葉もなく固まっていたら。


「あなたのご主人も同じ魔術が出来るのでしょう? ご主人にはこの娘の専属魔術師は引き受けてはいただけないのでしょうね。男の方はプライドが高いですものね? この子も髪のせいで婚期が遅れてしまって、困ってますの。あなたのご主人がこの子をもらってくれるのが一番いいんだけど、あなたはお嫌かしら?」


 は? お嫌に決まっているでしょうが。


 三の姫、だからシュターフでのあの行動だったのか? 髪の色を維持できるなら、たとえ側室でも相手が全く気のないあのおっさんでも喜んで嫁ぐのだろうか。もしかして何処かの性悪の爺でも? それでいいの、シャーロットさま? よくないよね? なんで何でもないような顔をしているの!?


 どうしてそこまでして金髪にこだわるのか、私にはさっぱりわからないな。愛より髪なの? おかしくないか? どんな基準なの。


 王子も王女も、もう少し自分を大切にすればいいのに。


「髪の色を変えるだけなら、他の魔術師でも出来る人はいると思いますよ。魔術師ならカロリーナさまでしたっけ? あのお嬢様もいらっしゃるではありませんか。貴族のご令嬢ですし、魔術も使えるのでしたら、あちらのお嬢様の方がなにかと相応しいと思いますよ?」


 そう、あの偽「セシルの再来」さんですよ。愛する王子と結婚を夢見ていたお嬢様。すごい魔力というふれこみだったよね?


「彼女は髪の色を変える魔術は使えなかった。それでは意味がない」

 って、その意中の王子にそんな冷たく言い捨てられたら、必死で「再来」を演じていた彼女、泣いちゃうんじゃないのかな。


 なんなの、ここにいる人たち。そんなに金髪が大事なの?

 地位や権力があると、それを手放せなくてこんなおかしな思考になるの!?


「もし王子の専属ではご不満なら、わたくしの専属でもよくってよ? たしかに彼は皇太子ではありませんから、わたくしの専属になった方が報酬も立場も上になりますわね」


 ちょっと。

 だからなんで「いい話でしょ?」っていう顔になるのかわからないわー。

 なんで私が引き受けると思っているのか全然わからないわー。


 お断りだ!


「専属になったら、お金がたくさん使えるわよ?」

 今もですが? 旦那さま太っ腹だからね。

「王家の庇護下なら何でもやりたいことが出来るわよ?」

 ええ今も何でも出来ますが? 出来ないことってなにかしら?

「尊敬と羨望が集まるわよ?」

 ええ、実は今も似たような感じです。なぜかしらね。

「あなたもいい思いをしたいでしょう?」

 ああ、いえいえ結構です。全然したいと思いません。


 話がまとまらないようなので、私、もう帰ります。

 引き留めたって知らないよ。


 私を権力で動かそうとしてもやらないよ。そんなの欲しくないからね。


 そんな簡単な魔術のためだけに私を縛ろうなんて、随分軽く見られたものだわね。トラブルと我慢の予感しかしないよ。お願いされたら考えるけど、命令されたらやるもんか。私には私の意思がある。便利な道具が欲しければ、他の魔術師を探した方がいいんじゃない?



 鼻息も荒く家に帰ったら、一部始終を見ていたらしい旦那さまと、なぜか火の鳥イカロスが待っていた。


『やっと帰ってきたわね! 遅いわよ!』

 ああ、かわいい……あんなキンキラの王宮よりも、ずっとずっとこの自然の獣の方が美しい。


『ちょっと! なに見ているのよ! 気持ち悪いわね!』

 うん、それでもやっぱりかわいいね……しくしくしく。


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