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放置された花嫁は、ただ平穏に旅がしたい  作者: 吉高 花 (Hana)
第三部

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感知の石

 

 お願いの内容というのは。


 簡潔に言うと、

「別世界と繋がる瞬間がいつ何処で起きるのかを教えてほしい」


 ということだった。

 そういえば旦那さま言ってたね、空間が開くのを待ったって。


 え? でも、それ知ってどうするのかな。

 手とか突っ込んだら危ないんじゃないの?


 とか思ったのだけれど。


「その現場の状況を調べて、大きく開ける研究をしたい」

 とのことらしい。


 うん、諦めないね。目標があっていいとは思うけど……。

 出来るのか? と旦那さまを見てみると、ああ、やっぱり眉間にシワのいつもの顔ですよ。


「……今は大気に魔力が薄いので、あまり広範囲を常に見張る事は疲れるからしたくないな。それに私もこれからは、昔のようにそればかりしているわけにもいかないだろうしね。あの裂け目はいつ何処に現れるか本当にわからないんだよ。それにわかったとしても、それが遠かった時には君たちがその場に行く前にまず閉じてしまうだろう。裂け目が開いている時間は短いから」


 旦那さまがちょっと考えて、言った。


「見張るわけにはいかないが、近くでそのような裂け目が出来そうな時に反応する魔道具を作ることは出来る。それが反応すれば、近くにいる者が観察なりなんなり対応しやすくなるだろう。それでもよいか?」


 おお、旦那さま協力的だな。

 旦那さま優しいね、なんてチャンネルを通して言ってみたら、

「愛する人に会いたいという気持ちはわかるからね」

 と返されました。

 ああ、うん、そういえば自ら実践した人だったね。ごめん、その時のことを覚えていなくて。


「ただし、人が通れる程大きく開くことは本当に稀だし、もし通れたとしても、あちらの世界とは時間の流れが違う可能性がある。場所も何処に出るかわからない。向こうに帰ったとしても、会いたい人には会えない可能性も知っておいてほしい」


 実際にセシルがこちらに来た時の場所は、海の中だった。

 そう聞いて、私はぼんやり思い出した。そういえば、海の底に座っていたな。なんで生きていたんだ? はて?

 と首をひねっていたら、君は「海の女神」だからね。水龍と海水が君を守って生かしてくれていたんだよ、と旦那さまが言った。


 まじか。セレン、ありがとう。普通の人だったら即死コースじゃないか。

 ちょっと青くなったよね。


『なんのなんの~いいんじゃよ~』

 とセレンの声が聞こえた気がした。え? どこかにいる?


『セシルが覚醒したからの~だからいつでも聞こえるんじゃよ~ワシとセシルは一心同体じゃからの~』

『ちょっと! 私を無視しないで! セシル、私もいるからね!』

『なんじゃ風龍、せっかくの良い場面だったのに~邪魔するな』

『だって!』


 うおおぉ、急に五月蝿くなった! 仲裁するのも場所的に、そして他人の目的にもしにくいので……ちょっとバリアー張ろう。聞こえない聞こえない~。しょうがないよね!


「わかりました。それで結構です。ご協力ありがとうございます」


 私とは違う意味でちょっと青くなっていた所長も、それでも研究はしたいと。まあ、知ることは悪いことではないか。きっと。


「なにか魔力を込められるものがあったら、それに魔術を入れるからいつでも言ってほしい。できれば石のような自然の物が都合がいいが、金属にもできる。今なにかあればやるよ」


 旦那さまがそう言うと、所長と一緒にいた研究所員さんたちが顔を見合わせてから何かを取りに行った。しばし待つ。


 ゴロゴロ……ピカッ。


 ええ? なんだなんだ? 来たときは雨なんて降っていなかったのに、突然嵐になってきたよ? 激しく雨粒が窓を打ち始めた。雷もやたらと鳴っている。これ、ちょっと今出られないな。すぐ止むといいんだけど……。天気予報とかないからな、この世界。室内で良かったー。


 なんてぼんやり考えていたら、呆れたように旦那さまから突っ込みが。

「そろそろ龍たちの仲裁をした方がいいんじゃないかな。まだまだ元気に喧嘩しそうだよ? 帰るときに濡れたくはないな、私は」


 って、え? 喧嘩? ……えぇええ? これ、水龍と風龍の喧嘩で嵐になってるの!?


 ヤメテ、迷惑!


 慌ててバリアーを解除したら、二龍が本当に喧嘩していた。

『なにを~!』

『なによ!』

 ぎゃーぎゃーぎゃー。


 うわあ! うるさい!

 ええ、思わず立ち上がって声に出して叫びましたとも。


「ちょっと! なにやってんの! 喧嘩両成敗! やめろ! ストップ! はい終わりっ! じゃないと嫌いになるからね!」


 ピタッ。


 はい、雨雲は散って散ってー。湿気も飛ばせー。

 両手をブンブン振って龍たちの後始末ですよ。なんだこの迷惑な龍たちは。

 喧嘩するならもっと上空で! 地上に迷惑かけるんじゃないよもう。


 雨雲がさあっと散って、やっとお日様が出てきた。はあ、めんどくさいな。


 旦那さま、同情の目をするくらいだったら助けてくれてもいいんじゃない?


「でも君の龍だしねえ」

 って、えー……。


 ふと我に帰ったら、所長さんと、ちょうど戻って来たららしい所員さんたちがこっちを怪しい人を見る目で見てました。ええ……。


 嵐を叱って止めた人を初めて見ました、と言われても。ええ、私も初めてです。

 びっくりですよね! え? ヤケにナッテナイヨ?


 その後旦那さまは所員さんたちの持って来た金属のボタンに、空間の裂け目? 通路? が開く兆候が出たら光る魔術をかけました。

 あ、でも開く兆候がわかっても、見えるもの? と私が疑問に思ったら、それを聞いた旦那さまが、その裂け目を具現化して見える魔術も追加してくれました。


 でも、そうやってここの人たちは、ずっと故郷に帰れる日を夢見て生きていくのだろうか。ちょっとそう思ったりもしたけれど。

 それも一つの生き方ではあるから、私がどうこう言うことではないんだよね。

 私に向こうの世界にいたときの記憶があったら、同じように思ったのかな。まあこればっかりは、想像だけではわからないか。


 でも次の瞬間には、きっと私はここで生きていくんだろうな、と思った。

 ここが元々の故郷だから? 魔力があるから? うーん、多分、旦那さまがいるから。


 そう考えると、愛する人があっちの世界にいる人の気持ちがちょっとわかった気がした。



 今はそう考えると私、幸せなんだな。いやあっちの世界でも幸せだったのかもしれないけれど、少なくとも今、私は幸せにやっている。旦那さまがいて、友達? っぽい人もいて、そして住みたい家に住んで飢えてもいない。


 それだけで、けっこう幸せじゃないか。今はもう、私の行動を制限する人もいないから、何だって出来るし何処にでも行けるよ。


 また旅に出てもいいねえ。自由な感じが素敵よね?


 そんな風に思っていたら、また、王妃さまからお呼びだしが。


 ええー、まだ半年経ってないよ? なんだろう?

 連絡先を申告しなければよかったかな……って、まあ、無理な話か。


 名指しで呼び出されるなんて、ほんと出世したよね、私……あんまり嬉しくない……。


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