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放置された花嫁は、ただ平穏に旅がしたい  作者: 吉高 花 (Hana)
第三部

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久々のだんまり会談?

 

 私は考える。何が正しいんだろう?

 正しいかどうかなんて、人によって違うのに。


 自分の幸せについてだって、確かなことは言えないというのに。そして私の考える正しいことと、旦那さまの考える正しいことも違うかもしれないし。


 安易にあのエネルギーをどうこうすることは出来ないよねえ。



 旦那さまがカイル師匠を呼んだ。

 師匠の王立図書館での調査について聞いていた。

 すみません、私にはさっぱり。でも誰にでも行けるのなら、今度行ってみようかな。

 と思ったら、さすがに身分証明された入館カードが必要らしいです。

 私って、身分証明出来るのかしら? この国に戸籍はあるの?


「戸籍は国をあげてはまだですね。ですが国の指導で町ごとに作るように言われていますので、教会を中心にして作っているところも多いですよ」

 と師匠。さすが教会関係者だった人。


 旦那さまは渋い顔をしています。

「コセキ……知らないな」


 ああ、戸籍、あっちの概念かもしれないねえ。

 ではアトラ時代の図書館のセキュリティはどうしていたのかと聞いたら、普通に入り口にかけた魔術で悪意があるかどうかチェックしていたらしいです。悪意があったら、魔術が反応して入れなくなると。なるほど。


「そういう魔術は各町にいる魔術師たちがかけていたし、それくらいの魔術ならかけられる人は一定数いたからね。特に大事な施設や部屋は私が直接かけなければいけなかったが。しかし不思議なんだが、どこの誰かがわかったら、盗みや放火を防止できるのか?」


 あ、はい、ごもっともな意見ですね。ええ防止は出来ませんよ。ただ、なにかあった時に犯人が絞りやすいというだけさ。そして身分を証明したうえで悪事を働こうという人が減る、つまり抑制効果があるってだけよ。そして他人のカードを盗んで使えばその工夫もパアだわよ。ここには防犯カメラも無いしねえ。


 でも、魔力や魔術が無かったら、そうする以外にないでしょう? もしくは持ち物検査? だけど不特定多数を逐一チェックするのは現実問題ほとんど不可能だからね。時間的にも、経費的にも。


「ふうん、大変だね……」


 そうですね、大変ですね。あなたみたいに万能な人がいない世界はね。魔術が無ければ知恵を絞らないといけないんだよ。旦那さまが一人いたら世界が変わりそうだねえ。でもそんなことになったら、旦那さまが一人で過労死しそうだけどね。


「一人ですか? もう一人いるでしょう」

 いやいや師匠、それ言い始めたら一人ではなく、なんとここには三人もいるんですよ~? でもこの場合、一人も三人もたいして変わらないよね。


「まあ、今は魔力の無い人間がほとんどですから、どうしても昔のアトラのように魔術を使って生活を補助することが出来ませんからね。新しい制度や仕組みは必要でしょう。なぜか魔力が無くなってしまいましたからね、仕方のないことです」


 …………。


 思わず黙る旦那さまと私。脳裏にはルシュカに送られ続けている魔力が浮かぶ。そして他の魔力のことも。

 そう。人々の魔力は今も、この国から流れ出し続けている。


 私もあの後少し勉強しました。まあ旦那さまに聞いたんですけどね。

 国土は周辺の国よりも小さいけれど、かつて国ごとの魔力量はアトラが一番多かった。東西南北、どの国よりもアトラの魔力量は多かったらしい。


 だからこの国には龍がいるのだ。

 魔力の中心地。魔力の化身とも言える龍はこの国にしかいない。

 たしかに昔、『龍の巣亭』で私が見たエネルギーの流れは、この国の北の山脈の地下から湧き出していた。そしてそこから湧き出したエネルギーがこの国の地下をぐるりと流れていた。

 あれが魔力だとしたら。この国に全ての源泉がある。他の国にも同じようなものがあるのかと思ったら、旦那さまの知る限り、当時他には見つかっていなかったと。


 なのに今、この地だけ魔力が無い。


 無くされているのだ。人工的に。

 旦那さまも基本寝ていたしね。あんまり関知していなかったらしい。疑ってもいなかったと言うべきか。


 師匠、国の魔力が復活したらどうする?

 そう聞いてみたら。


「アトラ時代の話は祖父母や両親から聞いた話しか知りませんでしたが、図書館にある数少ない文献を読むと、さらに別世界のように感じますね。王立図書館ですから、アトラ時代はどれだけ魔力で人が差別され、不平等で不条理だったのかという話ばかりでもありますし」

 師匠は考え考え、語る。


「でも、同時に魅力も感じます。かつて祖先たちが操っていた術を復活させられれば、今出来ない不便なことも便利になります。人によって能力に差があるとしても、全体の生活の利便性が向上するのは良いことかと。それに正直自分の能力がどこまで伸びるのか、非常に興味が湧きますね」


 なぜそんな事を? という顔をされてしまいました。


 うん、そうだよねえ、今を生きる人たちには、この魔力の無い状態が普通であり日常であり、そして自分の育った環境なのだ。

 三百年という年月は、人間にとっては長い。


 旦那さま? この人は規格外だから。しかもほとんど寝ていたからね。ほぼコールドスリープ状態だったんだろう。

 そしてそんな唯一過去を知る人は、何を思うのかあれからずっと渋い顔をしている。


 私にわかるのは、この人には、もう一度王になる気は無いということだけだ。

 王でなくて残念という感情が全くもって感じられない。むしろ伸び伸びしている気がするくらいだから。


 そして今は別の王がいる。

 国民も不満に思っていない。


 私たちの出る幕はない。全くね。


 でも問題は、王の依頼なんだよね。

「黒の魔術師」を探してくれっていう。


 なぜそんな依頼を私たちにしたの?

 探し当てたらあんなことになっていたよ?

 明らかに矛盾しているよね?


 なにかがおかしい。


 能天気に「黒の魔術師」見つけたよーなんて報告するのは危険だと第六感が言っている。だからついつい黙っているけど。


 さてどうしよう?



 いつまでも黙っているわけにもいかないよねえ、なんて思いながら結論も出ないでいたら、ある日「科学技術研究所」からご招待を受けてしまいました。え、なんだろう? ご相談がある? え、まさか厄介な事じゃあないよね……? でも、困っているなら見過ごすのもねえ……。


 ちょっと悩んで、結局渋々行くことにしました。旦那さまもご指名です。でもすっごくやる気のない雰囲気を感じるぞ? 見えるのは眉間のシワだけだけど。それでも行くんだから優しいな、と思っていたら。

「君が説得されたら困るからね」

 あ、そういう理由で来るの? 研究所の話の内容に全く興味がないっていうのはどうなの? まあ、いいか。


 目立ちたくないので出来るだけ地味な格好でこそこそ行きました。


「ようこそいらっしゃいました」

 所長と、数人の所員の方々が出迎えです。なんだか落ち着いた応接室です。さすがにここにはレプリカたちは無いみたい。まあそうだよね。使えないもんな。ハリボテを見ると、なんだか寂しい感じがしてしまうのは何故だろう。


 ソファに落ち着いた所長は、緊張した面持ちで切り出した。

「ご足労いただきありがとうございます。それでは早速で恐縮ですが、実は、エヴィルさんにお願いがあるのです」


 あらー、旦那さまの眉間がますます深くなっていくよー……。


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