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放置された花嫁は、ただ平穏に旅がしたい  作者: 吉高 花 (Hana)
第三部

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元黒の魔術師

 

 そして朝、王宮を出る時には二人ともすっきりした顔だったんですが、そんなに早く解散したの?

 と思ったら、明け方まで飲んだそうですよ。強いな二人とも!


「悪酔い防止魔術もあるからねえ。お互いに魔術を掛け合いながら酒を飲むから、昔はそれを見て酒がもったいないと怒った人もいたね、そういえば」

 とのことでした。よくわからないけど便利そうだな。


 そうそう、そのロイス様が、昨日の空飛ぶ魔獣を貸してくれるそうです。

 王宮の中庭で、ロイス様が大きな鳥に「この人たちをよろしく頼むよ」とお願いしてくれました。そして「ここに連れて帰れよ」とも。もしかしてそっちが目的か?


「あとは風魔術の石はいるか? 聞き耳をたてるには必要だろう?」

 と言ってくださったんですが。

 風魔術は私が使えるのでね、大丈夫です。あんまり詳しくはないけどね。


 そう伝えるとロイス様が、「うんうん、よかったな、エヴィル」と旦那さまの肩をポンポンしてました。ん? なぜそうなる?


 そして私たち二人は魔獣の背に乗って空へ飛び立ったのだった。

 探すはトゥールカにいた「黒の魔術師」だ。

 旦那さまが視えたという地域に来たら、捜索開始だ。

 上空をぐるぐる回りながら。


 あの家に残っていた魔術の痕跡を思い出す。

 そして眼下に広がる土地をスキャン。広い土地を探すから、風の魔術で補助をして拡散する。

 私は上から風を吹き渡らせ、そして水にも聞いてみる。

 旦那さまは地面から、そして木々や草花にも聞いていく。


 こんな魔術を知らないかい? こんな人を知らないかしら?

 痕跡を探せ。生きている魔力を感じろ。


 こうしてみると、本当に人々が大なり小なり魔術を持っているのを感じる。

 持っている属性も大きさも様々だけど、みんなそれぞれの色というか、匂いというか、そんな個性があって、みんな違う。顔や声のように、その人自身が持つ個性なんだねえ。


 そして町のなかは、いろんな魔術が活用されていてとってもカラフル。

 ちょっとしたものから、大きな、それこそ町全体にかかるようなものまで。

 舐めるように高速で視ていく。探しているものを気にしつつも、いつしか私は様々な魔術を夢中で眺めていた。


 楽しい。いろいろな工夫があって、そして適材適所で助け合う感じ。

 魔力の少ない人はコンプレックスにならないのかな、とは思うけど、まあそれは顔や声にもコンプレックスある人はあるもんな。私ももうちょっと美人だったら……釣り合いを考えるとね…………はっ今はそんなことを悩んでいる場合ではなかった。いけないいけない。


 子供が泣いている。診療所で血を拭ってもらっている。怪我をしたのかな。

 そこに、医者……? 女性がやさしく怪我の場所を撫でる。

 あら、怪我が治ってしまったらしい。

 治癒魔術か。なるほど。そういえば私の水晶玉は火龍がまだ持っているのかな。


「治癒魔術を使える人は聖女と呼ばれて特に重用されているんだよ。君も聖女として宣伝していた時があったね」

 と言われて、そういえばそんなこともあったねえ、と思い出した。

 あの時はハッタリと小芝居に気をとられていたけどね!

 でも人が元気になるのを見るのは嬉しいね。そして喜ばれると、さらに嬉しい。魔術をそういう風に使えると幸せだねえ。

 ということは、そういう事ができる魔術が使えるというのは、幸せなことなんだね。


 ちょっと魔術が使える自分をよかったと思えた瞬間だった。

 わあ新鮮。

 昔はあんなにいらないと思っていたのにね。



「いた。あそこだ」

 そしてその台詞とともに現実に戻る。

 そしてチャンネルを通して場所と視界を共有した。


 中年の男の人だ。家にいる。

 大きなお屋敷と使用人たち。優雅に昼間から酒を飲んでいた。ぼんやりしている。

 確かにその人の持つ魔力の色というか匂いが、あの「黒の魔術師」の家に残っているものと同じだった。薄いけれど、でも同じ。

 あれか。


「視るぞ」

 旦那さまがそう言って、上空からその男の記憶を探り始めた。

 えっと、魔術の国って、プライバシーは無いのかな?


 男の記憶が派手にごりごりと掘り起こされていく。男が記憶を探られていることに気づいたんじゃないの?

 不快感と不信感が沸き上がる。

 だけど旦那さまが強制的に記憶を手繰り寄せ、そして選別していった。

 探られている気配を察知して、男がちらりと意識したのは、鍵をかけた記憶。


「そこか」

 旦那さまが一直線に向かって鍵をもろともせずにこじ開けた。

 派手に探ったのはもしかしてわざとだった?

 とたんにこぼれ落ちる、あの館での記憶。


 それは、あの大量のエネルギーが吹き上がる家に初めて入った時の感動。

 風船のように自分の魔力が膨張してゆく快感。

 そしてそのブーストがかけられた魔力で大きな魔術を操る優越感。

 巨大な魔術を軽々と操る自分の姿とその力に陶酔する心。

 そしてそれを与えてくれた、トゥールカ王への感謝と忠誠。

 金と権力と巨大な魔力の誘惑。

 人生を謳歌している姿。


 あの家に、そんな魅力があったとは……。ごめん全然わからなかったわ。


 そして記憶が、はじめの幸せの色からだんだん暗くなっていく。


 この魔力を独り占めしたい。

 もっと欲しい。

 そしてその結果のあの家の「何も出さない」という封印。

 荒れ狂う巨大な魔力の渦の中で、次第に男は狂っていく。

 魔力の泉を盗まれる恐怖。「誰も入れない、盗みに来た人に攻撃をする」魔術をかける。

 嫉妬と呪いをかけられる恐怖。「誰にも見えない、入れない、呪いを跳ね返す」魔術をかける。

 そしてそれらを重ねがけする日々。


「魔力をなぜ送らない」

 通信相手が言っている。

 送る? 魔力を? あのエネルギーのこと?


「送る分が残らないのだ。全て私が使ってしまうから」

 金にならないのになぜ送らなければいけないのか。これは私のものなのに。わずかに残った理性がそう言っている。


「そういう約束だ。お前が判断することではない」

 誰と誰の約束?


 旦那さまが、またその記憶を分解し始めた。相手を探る。

 相手は……ルシュカ。ルシュカの偉い人……大臣?


「黒の魔術師」だった男が苦しそうにうめく。

 そろそろ限界が近いか。


 そう判断して旦那さまが記憶の最後を探った。


「金はやる。お前は帰れ。もうお前は必要ない」

 それは、冷たく言い渡す声。

「そんな! あの家を出るなんて出来ません。今まで沢山お役に立ってきたではありませんか! これからもお役に立てます。何でもやりましょう、あなたのためなら。ですから……」

「お前の代わりは見つかった。お前より魔力のはるかに大きい代わりだ。お前では勝てない。即刻この国を出ていくがいい。今までの金と道具は全てくれてやるから」


 そして絶望する男の叫び。

 それを冷たく感情の無い目で見つめる男。


 その目の主は――トゥールカ王。


「まだ器が小さかったか……」

 残念そうに呟いた王の、落胆の顔を最後に元「黒の魔術師」の記憶は終わった。


 静かな部屋に響く嗚咽の声。

 そこに居たのは過去の栄光と酒に溺れて泣く、一人の脱け殻になった魔術師の男だった。


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