ロイス
連れて行かれたのは、なんと王宮……? よね?
なんか、多分これ、魔獣? という感じの大きな鳥に乗せられてひとっとびしたかと思ったら、やたら大きな建物? 宮殿? の中庭に降ろされました。さっぱりワケわからん。
でもなんか凄く魔力を感じる場所だよ? そして見渡す限りキンキン金色キラッキラだ。
「そうだね」
って、なんであなたはそんなにも余裕なんでしょうね? 私はびっくりした上に空の旅でちょっとヨレヨレしているのに。
そしてどんどん奥に行くよ? どんどん私の緊張は増しているよ? なんかちょっと厄介な匂いがするのは気のせいかしら?
着いた先は最奥。
豪華な広い広い私室で、クッションに囲まれてゆったり座る真っ白なお髭の、頭がえー、コホン、随分明るいお爺様がニコニコ待っていらっしゃいました。
「エヴィル! 久しぶりだのう! やっぱりお前だったか! 相変わらずお前は年をとらないな。ちょっと寝過ぎなんじゃないか? いいかげん諦めて嫁をもらって人生を謳歌すればいいんだよ! 今を生きろ!」
と一気に言いながら、旦那さまの背中を抱擁ついでにバンバン叩いております。
おお、元気で陽気なおじいちゃんだ。
「久しぶりだね、ロイ。君は随分充実した時を送ったようだね。元気で嬉しいよ」
と旦那さまもニコニコしてます。
うーん、お友だち?
そして旦那さまが私を紹介してくれた。
「ロイ、紹介するよ。妻のセシルだ。ようやく妻にしたよ」
それを聞いたロイさんは、驚きで目を見張って言った。
「おおぉ! セシルか! なんと! はじめまして! そうかそうか、お前の執念の勝利か。じゃあもうお前の愚痴は聞かなくていいんだな? なんだ、そうか、おめでとう! お前がそう言うなら、あの噂の再来とかいうのがセシルだったという話が本当ということか。へえ。で、よくあの火の一族に邪魔されなかったな。どうやったんだ? 夜は長い。じっくり聞かせてもうらうぞ? ん?」
なんかイロイロ事情を知っていそうだな、この人。
「セシル、紹介するよ。この人はこのルシュカの前王のロイだ。ロイス・ルシュカ。今はもう引退して悠々自適な余生だね。昔からの知り合いでね」
あぁ、やっぱり王族だったー……。薄々そうではないかと思っていたけれど。一見すごくニコニコ笑顔なんだけれど、隠しきれない威厳がにじみ出ているのよ。若干怖い。ついつい腰が引けてしまう感じ。
「はじめまして」
ちょっと精一杯の笑顔がひきつっちゃうよ。
でもなんで旦那さまがこの国に来ているってわかったのかしらん?
と思ったら。
「なんかどうもエヴィルの魔力を感じたと思ったんだよ。やっぱりエヴィルだったか。お前、なんで真っ先にこっちに来ないんだ。水くさいじゃないか、のう? 髪色変えて変装までして」
と文句を言われていましたよ。
だけど旦那さまはへらっとした笑顔で、
「新婚旅行みたいなものだからねえ。邪魔物はできるだけ排除するのは当たり前じゃないか。銀の髪は目立つしね」
と返してました。なにのろけてるんだこの人。照れるじゃないか。というか、そんな事を思っていたんだ。全然知らなかった。単に海外旅行だと思って浮かれていたよ、私は。
「ほおぉお? ならば邪魔してやろうかのお? 何の用事かは知らんが、用事が終わるまでここに滞在すればいいさ。で、ワシに報告しろよ?」
「……まあ話すのはいいか。君の国にいる人間の話だ。ところでロイ、私たちは食事の最中に呼び出されたわけだが?」
うん、仲良さそうだね。善きかな。
「なるほどねえ……」
一通り話を聞いて、考え込むロイス前王。
私? 私は並べられたご馳走をいただきながらひたすら聞くだけです。元王様同士の会話に入るなんて、もちろんごめんですよ。うちの国の王家の話を他の国の王家に話していいのかとか、もちろん聞けません。核心だけ隠せばいいものなのかしら? アウトなラインが全然わからないから距離を置くしかないです。
「で、その男は、この国の人間なのか?」
「それはわからない。近付いて調べてみないと。ただ、セシルの視た方角と、私が視た場所が一致しているから、この国にいるのは間違いないと思う。大体の場所もわかっている」
「ふうん? で、その男を見つけたらどうする? トゥールカの王に差し出すか?」
「それはまだ決めていないな。あの王が何を考えているのか読めないからな。そうじゃなくてもかつての私の王朝をひっくり返したらしい人の子孫だ。警戒はしておいて損はないだろう」
王妃様の髪の件はもう旦那さまには報告済みだからね。あとは私はお任せの姿勢です。だって政治なんてわかんないよ。でも旦那さま、すんなりあの王を信じているわけではないんだね。なんてモグモグしていたら、ロイス前王にチラッと見られたよ? うん?
「お前の妻はなんだか他人事みたいな顔をしているな。これが素なのか? 大丈夫か? あの王に騙されても知らないぞ?」
あら、酷い言われよう? なにをニヤニヤしているんだ。
「大丈夫だよ。見ているから。それに怒らせると怖いぞ? きっと誰も勝てないだろうな」
あら、酷い言われよう。なにニヤニヤしているんだよ。
「ほほう? お前もとうとう妻の怖さを知ったか! よしよし、お前も妻の尻に敷かれる日がようやく来たとはな! そのままぺっちゃんこになっとけよ? その方が平和だからな!」
あら、酷い言われようー。
なんだなんだ、酔っぱらった男同士の会話ってやつですか。
私はお腹も一杯になったし、先に休ませてもらってもいいかな。
と一言断って、下がらせてもらうことにした。
あの豪華な宿の部屋も素敵だったけれど、なんと宮殿にお泊まりです。
もうせっかくだから堪能するよ。どこもかしこも金ぴかですよ。トゥールカが白亜の宮殿だとしたら、ここは金色の宮殿だ。
お風呂までもが金ぴかでしたよ。そして魔術で瞬時にお風呂が沸く。暖炉も魔術で火加減自由自在。よくよく視ると石や道具に魔術が込められていて、その魔術が使えない人でも道具を使えばその魔術が使えるんだね。
まあお高そうだけど。脳裏にチラッとカイル師匠のホクホクした顔が浮かんだ。
一通り部屋を確認した旦那さまは、おやすみを言ってまた戻っていった。
「なんだ着いて行くのか。本当にぺっちゃんこだな。あのエヴィルが! 女の後を! これはいいものを見たわ。でも戻って来るよな? 年よりの老い先は短いんだから。せっかく再会したんだから、飲んで語るぞ!」
と、お年寄りといいつつもとっても元気なロイス様が、お酒をぐびぐび飲みながら言っていらしたからね。長い夜になりそうだな。
私としては、そんな親しいお友だちが旦那さまにいると知って、とっても嬉しい。私の知らない時代の話が出来るお友だちはもういないのかと思っていたから。
よかったね。
私は金ぴかの湯加減自由自在なお風呂を堪能し、魔術による温風で髪を乾かし、そして運ばれていた荷物から寝巻きを取り出して、大きなふっかふかのベッドに飛び込んだのだった。お布団もどうやら魔術で快適温度になっているよ。
ああ、天国!
大の字で寝てもいいかしら?
なんてどうせ帰ってこないだろうと堂々とベッドのど真ん中でのびのび寝ちゃったら、朝起きてベッドの隅っこで寝ている旦那さまを発見して慌てたよね。
旦那さまが起きる前に、そーっと反対側に寝返りを装って移動したのは内緒です。
てっきり二人で酔い潰れるのかと思ってたんだけど、帰って来たとは……。
じゃあ「黒の魔術師」捜索は予定通りってことかな?





