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放置された花嫁は、ただ平穏に旅がしたい  作者: 吉高 花 (Hana)
第三部

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王妃

 

 案内されたのは、豪華な王妃の私室だった。

 人払いがされる。おお、二人っきりだ。


 王妃様が口を開く。

「黒の魔術師様、お久しぶりでございます。お忙しいところをお呼び立てしてしまい申し訳ありません。しかし、もう時間が無いのです」


 ええ、なに、その「黒の魔術師」の立場。偉すぎじゃないの? なんで王妃が謝ってるの!?

 でも声を出すと正体がバレるので喋れないよ。いっそ正体を明かした方がいいのか? どうしよう。


 でも王妃様はなぜか必死なご様子でこちらの迷いには気付かれてはいない。

「もう前に魔術をかけていただいてから、期限を超えてしまいました。最近は王宮にいらっしゃらないのでとても心配しておりましたの。もう魔術が切れてしまいます。お願いですから、早く新しい魔術を」


 ん? なにか魔術をかけていたってこと?

 急いで解析してみる。どこ……切れかけってこと? 気にしてないと見えないくらいの薄い魔術なのかな、見えてなかったぞ。えー、どこ?


 ……あ、髪か! 全く想定していなかったよ。隠してあった? で、髪に魔術……え?


 金髪にする魔術!? 

 え、これ魔術で金髪にしていたの?


「黒の魔術師さま?」


 おっと、あまりに無言で怪しまれたかな。

 どうしよう、これ。別に魔術を重ねがけは出来るけど……やっちゃっていいのかな。事情もわからないでやって後から痛い目を見るのは嫌だぞ。


 うーん……正体を現すのと、魔術だけかけて逃げるのとどっちがいいんだろう?



 結局悩んだ末、私は好奇心が勝って正体を現す方を選んだ。だって魔術をかけると言ったって、期限とかわからないんだもん。でも切れるって焦っているってことは期限つきの魔術なんだよね? 適当にかけて後でバレるのはいやだ。解析? そんな消えかけの魔術を解析なんて、メンドクサイデスー。


 私はフードを頭からとって、顔をあらわした。

「申し訳ありません、私は『黒の魔術師』ではありません。騙すつもりは無かったのですが」


「まあ……」

 王妃さまが目を見張って驚かれている。

「まあ、どうしましょう、お知りになってしまったのですね」


 あ、髪の色のことかな。きっと極秘の情報だったに違いない。

 でも王妃さまは立ち直りが早かった。


「ああ、でもあなたなら同じ魔術をかけてくださるかしら。わたくし、本当に今困ってますの。もうすぐ公式行事に王妃として出ないといけないのに、その頃には魔術が完全に切れてしまうのです。お願いですわ、なんとかなりませんか」


 えっと、ここはなんの魔術ですかとしらばっくれる……のも面倒くさいか!

 いいや、聞いちゃえ。周りの感情を読むのに慣れると、思惑が全然見えない人、超めんどくさいよ。空気は吸うものです! うん。


「髪の色ですか? ご事情がわからないのでなんとも」

 しかも強気に出てみました。私けっこう意地が悪いのかな。


「そうです、もう艶も無くなってきて、地の色が見えかけているのです。このままでは私は公に表には出られません。あなたは『進んだ世界』から来た方だとは聞いていますが、魔術も使えるんですよね? もし使えないのでしたらもちろん黙っていますから、ぜひご主人にお願いしてはもらえませんか」


 すごくすがるような目で見られています。

 この方ずっとこんな風に常に金髪の魔術をかけてもらって維持してきたのだろうか。ええ、大変じゃないのかな。私、色変えの髪飾りで一時的に変えるのでも常に気になって面倒だったよ? それを、一生やるの?


 旦那さまの、「一生誤魔化して生きるのも辛いだろう?」という言葉をそっくりそのまま実感した今だ。そして「もう堂々とするのが一番なんだよ」の言葉を送りたくなった。

 いいじゃないか、王妃が栗色の髪でも。


 でも。この国の王族は金髪、そんなイメージが大事なんだろう。


 それに、もうこの状態でずっと来ちゃったんだもんねえ。

 心のなかでため息をつきながら。

「前はどれくらいの期間でかけ直しをしていたんでしょうか?」


 つい会話を投げ掛ける。目下から話しかけられないルールなんていつの間にかにどこかに飛んでいった。

 ええだって。魔術をかけるもかけないも私の選択次第。王が怒っても、私は秘密を握ってしまった。

 ならば、聞きたいことを聞いちゃってもいいよね?

 魔術の対価に情報が欲しいと、言ってもいいよね?


「半年です。半年経つとこの魔術はどんどん薄くなっていって、最後には消えてしまうのです。そしてもう半年を過ぎてしまいました」


 絶望の表情と、わずかな期待のこもった視線。


 半年? そんな短い期間でこの人は「黒の魔術師」にお願いしないといけなかったのか。それとも半年しか持たせられなかった? ああ、でもそんなはずはない。今までの数々の魔術は強力だったのだから。意図的に半年に違いない。そして、そんなに難しい魔術でもないことをこの人は知らないのか。


 これ、下手すると王妃さまになんでもお願い出来ちゃうことにならない?

 脅そうと思ったら脅し放題に感じるんですけど。

 まさか王族全員に魔術をかけていないよね……?

 でも今聞いても正直に教えてくれるとも思えないか……。


 私が考え込んでいると、王妃さまは思い詰めた様子で口を開いた。


「もし半年が無理なら一ヶ月でも、いいえ公式行事の一日だけでもいいのです。その日だけでも魔術を持たせられませんか」


 王妃さま……そんなに必死にならないといけないの? 金髪ってそんなに大事なの?

 ……大事なのか。この人にとっては。


「あの、金髪には出来ますが、その代わりに教えていただきたいのです。『黒の魔術師』とはどういう方だったのでしょうか?」


 明らかにホッとした表情になった王妃さまは、知っている限りの話をしてくれた。多分。


 どうやら、王とだけ付き合う魔術師らしい。そして治外法権もいいところだった。

 王としか話さない、王の(しもべ)たる専属魔術師。王妃さえもその正体どころか顔も知らない。そして国で一番強力な魔術師。王宮の公然の秘密。


 まあ、あの家に住んでいたらねえ。魔力独り占めだもんねえ。へんなブーストがかかりそうだよね。

 え、そんな人の家をもらっちゃって良かったの?

 ちょっと帰ったら旦那さまと相談しよう。


 さて王妃さまから聞けそうな話は一通り聞いたので、私は金髪になる魔術を……かける前に一度全身を解除させていただきました。金髪以外の魔術はかけていないとは言うけれど。確認させてくださいませ。


「カチャ」

 美しい栗色の髪の奥さまですよ。金髪ではなくても十分お美しい。


 そう言うと、

「本当は王は金髪の『進んだ世界』の人と結婚しなければいけなかったのです。でもどうしても私と、とおっしゃってくださって……。悩んでいたところを当時の『黒の魔術師』さまに助けていただいたのです」

 と頬を染められたのでした。あらあ、恋愛結婚でしたか。

 でもそうするとお子さまたちは?


「実は子供は金髪の子だけを王家の子供として認めるのが伝統です。金髪でない場合は密かに育てられて公には出しません。ですが、私の子供たちは、『黒の魔術師』さまのお陰で全員金髪にしていただいたので、全員を手元で育てられました」


 ええ……なんて闇だ……そんな話は聞きたくなかったな。うん、これ以上は突っ込んで聞くのはやめよう。知りたくないことがこれ以上出てきても困る。数少ない知っている王子と姫の顔が浮かんだ。


「久しぶりに元の髪の色を見ましたわ」

 と鏡を覗きこんでニコニコしている王妃さま。それで本当にいいのかな。そうは思ったけれど。

 まあ、本人が望むなら。


「全身金髪になあれ」半年限定で。過ぎたらだんだん薄くなるー。

「カチリ」


 前の魔術を踏襲しました。

 期間限定にちょっと後ろめたい気分の私に、王妃さまは大変感謝してくださって、複雑な気分だったのは内緒です。


「今度また一緒にお茶をしましょうね。あちらの世界の話もいたしましょう」


 そう言われて、私は随分たくさんの秘密を知ってしまったものだとしみじみ驚いたのだった。


 はたしてあれで良かったのだろうか。そんなことをボンヤリ考えつつ、自宅に意識を戻してみたら、目の前には優雅にお茶を飲んでいる旦那さまが。あらおかえりー。


「ただいま。『黒の魔術師』の居場所がだいたいわかったよ」

 にっこり。


 庭の花が咲いていたよ、くらいの気軽さで告げられたのでした。くそう、早いな! ちょっと悔しいぞ。


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