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原因があって結果がある

 宿の人たちもいい人達ばかりで過ごしやすいし、なにしろ部屋のお風呂が快適過ぎて、しょっちゅう入っている間にあっという間に3日程過ぎた頃。


 なにやらロビーが騒がしくなった。


「これはこれは『火の鳥亭』さん、何事でしょうか」

 こそこそ覗いてみると、チンピラ風の男達が5人位でがなりたてている。


「何事じゃあないんだよ! ふざけんじゃねえぞ! 営業妨害しやがって! 責任者出てこいやあ!!」

 ガシャーン!

 って、器物破損、こわーい。絶対出ていかないぞ。

 と思っているのに、隣で同じように覗いていたおっさんはずずいとチンピラたちの前に出ていった。


「なんだテメー関係ねえだろ! 引っ込んでろ!」

 チンピラたちは複数なのもあってかカイロスさんに全く怯まない。


「いやーそれが関係あるんだよねえ、オレ今ここの用心棒してるからさあ。ここでお宅達に暴れてもらっちゃあ困るんだよね~」


 え、そうなの!?


 まあ。なんだ。どうやらこの騒動、まとめると、突然『火の鳥亭』の温泉が湧かなくなったらしい。どうやら営業が危うくなるほどの量しか出ないとか。で、お湯の性質がなんたらかんたら。


 それがなんで『龍の巣亭』のせいになるのかわからないけど、どうも同時期に『龍の巣亭』の湯量が増えたから、お湯を盗んだだろうという話らしい。

 え、なに、そんなこと可能なの!?


「なんだそれ、そんなこと出来るかよ。アッチとコッチ、どれだけ距離があると思ってんだ。しかも温泉なんて地下流れてるもんじゃねーか。言いがかりも甚だしいな。壊したもんさっさと弁償して帰れ」おっさんも呆れ顔だ。


『龍の巣亭』の人達も首がもげるほど頷いている。


「はあ? とぼけやがって!」

 逆上したチンピラたちがなにやら武器を振り上げて襲いかかってきたけれど、なんとカイロスさんはニヤニヤしながらチンピラ達をあっという間にのしてしまったのだった。


 ええ……強い……。




「いやあここに来たときににさ、やたら「白き人」を歓迎してるからさあ、こんな目立つ縁起のいい人来たら妬まれちゃうかもよ? 因縁つけられて何かされるかもしれねえから、用心棒に雇わない? っつって、用心棒契約してたのよ。これが結構いい金になるんだわ。へっへっへ」


 って、おっさんタダで泊めてもらうどころか金まで要求してたのか! どこまで図々しいんだこの人!


「まあまあ、早速役にたった訳だし、いいだろ~? それよりオレ強かっただろ? 見直しちゃった? カッコいい~ってなっちゃった? なるよね?」


 はいはい。これが無ければ一見渋いおじさまに見えなくもないのに残念ですなあ。


 とか言いながら私たちは先ほどの問題児たちの派遣元、『火の鳥亭』に向かっていた。この宿は他の宿たちからは少し離れた所にポツンと建っている。


「火の鳥亭はちょっと離れてはいるけどさ、昔から、つっても建ったのがだいたい百年前で一番ここらでは新しいんだが、魔力の上がりが大きくて人気の温泉宿なんだよ。オレも何回かお世話になってる。そーかー出なくなったのかー」


 へー。そんな効能もあるんだねえ。


「ほら、あそこだ。『火の鳥亭』」


 ふーん、なかなか立派で……禍禍しいよ? え?

 建物全体に魔術がかかってない? あれ。


「なにあれ……」

「一番新しいから、いろいろ意匠が華やかだろ? 中も広々ゴテゴテしていて綺麗だぜえ」


「いや、綺麗というよりはドギツイ感じでしょー。しかもここ、元々は温泉出ないとおもうよ? むしろなんで最近まで出てたんだろう?」


 首をひねる私をおっさんがびっくりして凝視する。

「何でそんなことわかんだよ。温泉が何処で出るかわかったら誰も苦労しねーだろーが」


「え、だって、他の温泉宿の位置見てよ。『龍の巣亭』を中心に向こうから左手前に向かって宿が建っているってことは、その下に源泉の流れがあるんだよね? そしてこの『火の鳥亭』は完全にその流れからは外れているじゃない?」


 そして他の宿の建っている位置は地下の大きなエネルギーの流れとも一致している。

 だけど、この『火の鳥亭』の下にはその流れが無いのよ。


「はあ? まあ確かにな……。でも本当に最近までは出てたんだろ? オレも入ったことあるからウソじゃねーぞ」

「そうだねー何でだろうね」


「そもそもこの『火の鳥亭』は百年前の高名な魔術師が監修して作ったって言われてんだ。『龍の巣亭』を月の王が作ったって言われてるから、それの真似したんだろうな。で、実際温泉入ると魔力が上がるから、さすが魔術師の作った宿っつって今まで重宝されてたんだよ。なにしろ他の宿のパワーが落ちてたからな」


 魔術師……なるほど。

「だから建物に魔術がかかっているんだね。何の魔術かは知らないけれど」


「は? え? お前さんそんなことわかんの!? この距離で!?」

「え、おっさんわかんないの? そういうもん?」

「ええー……お前たまにびっくりする事言うよな。知らないって怖い。普通魔術なんて、見てわかるわけねーだろー」


 へえー。なにしろ何が普通か知らないもんな。


 その時ふと思い出した。


 あのトゲ……地下の大きなエネルギーの流れに刺さっていたトゲ、あれはここにあったのではないかと。


 あのトゲのせいでその周りのエネルギーの流れが変わっていた。そしてそのせいで発生した渦が周りの流れを阻害していたのだ。


 もしかしたら百年前のその魔術師が、ここにエネルギーを持ってくるために刺したトゲ? 魔術? だったのかもしれない。



 はっはっは。抜いちゃったよ。そしてポイしちゃったよ。



 ヤバい、この騒動、原因私だ。黙っとこうっと……。


「まあ、自然は時に何するかわからないよね。ははっ」

 自然な笑顔に出来ていただろうか……


 とりあえず、おっさんには部屋の露天風呂をオススメする事にした。ずっと私専用じゃあ申し訳ないし、あそこなら確実に魔力も上がることだろう。


 後日、本当におっさんが、すげえ! 魔力が満たされるー! なんだここ! と感激していたから、めでたしめでたし……たぶん。きっと。

 ーーーーーーーーーーーーーー


 その後も私たちはしばらく『龍の巣亭』にお世話になった。


 おっさんが用心棒契約していたから、しばらくは『火の鳥亭』のお礼参りを警戒する必要もあったしね。だけどどうやら『火の鳥亭』は証拠もないのに因縁をつけるような余裕は無くなったらしく、こちらの平和は保たれていた。


 それに温泉とも離れがたい。

 部屋の露天風呂にはおっさんと1日交代で入りまくった。


 この部屋はもったいなくも普段は閉鎖されているらしく、私たちの滞在のコストは基本ほぼ食費のみらしいと聞いてますます増長したのもある。


 だけど。


 だんだん全容がわかってくるにつれ、ちょっと周りの目が気になるようになってきた。


 曰く、『火の鳥亭』の温泉が突然出なくなった。

 曰く、それと同時に他の温泉宿全体の湯量が増えて、何故か魔力の上がり方、つまり効能も強くなった。

 曰く、地域の植物や動物や人間たちも妙に元気になった。病気の人が治ったりもしたらしい。


 そしてその効果が一番大きかったのはどうやら『龍の巣亭』だったようだ。


 まあ、地下のエネルギーの勢いが増したから漏れ出てくるエネルギーも増えたわけで、そんな結果もわかるんだけど、それが"末裔"がやって来たからだって事になってくるものだから、私たちは行く先々でお礼を言われたり拝まれたりヒソヒソされたりするようになったのだ。


「でもさあ、あの影なんかしてたか? オレぁ見てねーぞ? ずっと寝てたろあいつ」

 といっておっさんはひたすら首を傾げているけれど、私はドキドキだ。


『火の鳥亭』を作った魔術師が何をしたかは知られない方がいいと思うのよね。その人、結構有名な魔術師だったみたいだし、その魔術師ゆかりの地として来る観光客もいるみたいだし。

 世の中知らない方がいいこともあると思うのよ? ね!?


 決してバレると面倒くさそうとかいうだけではなくて!


 ね!?


 げんに

「それよりシエルちゃんよー、魔術が見えるってことは他にも何か見えるんじゃないのー? 実はナニがミエテルノカナー?」

 と、あれからおっさんがしつっこいのだ。

 それはそれはびっくりの食いつきっぷり。


「え、ナンニモ~?」で通してるけど、たぶん地下のエネルギーとか言い出したら、もっと面倒くさいことになりそうな気がするのよ。



 私は気楽に楽しく旅が出来ればいいのだ!



 せっかく「だんなさま」がシャドウさんをつけてくれてお金の心配もなく、「だんなさま」公認で旅をしていいなら、楽しく行きたいよね?


 どうせ放置プレイなんだから、好きに気ままにしたいじゃない?


「……じゃあこの膝の呪いも見えるのか? もしかして」

「あー、発動すると黒い煙が見えるよー」

「まじか!煙なんだ!妙に納得するなそれ!で、それ消せない?」

「えーデキナーイ」


 やらないよね。大体シャドウさんの方がはるかに魔力高いだろうから無理だねきっと。出来る気がしないよ。

 する気もないけどな。


 まあそんなこんなで、『龍の巣亭』の中では快適なんだけど、一歩外に出ると人目が気になるようになってしまったので、三人で話し合って、そろそろまた旅に出ることにした。


 さて、どこに行こう?


「んーそうだなー。……ちょっと遠いけど、シュターフに行ってみるか? そっちにも温泉あるぞ。しかも王都にも近いから珍しいものがわんさかあって楽しいぞー。ついでにオレの仲良い知り合いがいるから、フカフカベッドと美味しいご飯もお約束!」


 ほーそれはいいかもーと、シャドウさんを見てみると、あれ、なんかジトーっとカイロスのおっさんを睨んでいる。なんだなんだ?


「シャドウさんが反対するところには行かないよ。シャドウさんは私の保護者だからね」

「えー? なんでオレ"末裔"に睨まれてんの!?」


 さあ? なんか下心でもあるのでは?

「えー、何にもナイヨー。他に行きたいところがあればそっちでもいいんだぜー? "末裔"さんは嫌なの? シュターフ」


 あ、シャドウさんの眉間にシワが……悩んでる?


「じゃあ嫌じゃないんなら、とりあえず出発してさ! 行きたいとこが出来たらそっちに変えればいいんじゃあねえの? オレもそろそろ体がなまってきてるからさあ、とりあえず移動しようぜー?」


 まあ他に行きたい所といっても何も知らないから特にないんだよねー。王都に近いのは魅力かも。


 私の考えを読み取ったのか、シャドウさんは渋々といった感じで立ち上がったあと、突然私を後ろから抱き締めたのだった。

 はい? どうしたどうした?


 シャドウさんは私をぎゅーっと抱き締めたまま、どうやらカイロスのおっさんを睨んでいるらしい。


 シャドウさんは「だんなさま」に似ているから、「だんなさま」に抱き締められている感じって、こんな感じかなあなんて、思ってしまって、……ちょっと恥ずかしくなったのは内緒にしよう……。


「なんだなんだ、なんでだ!? それセクハラじゃねえの? なんでお前拒否しねえんだよ。影がやってるってことは、後ろの誰かさんがやってるんだぞ、いいのかそれ!?」


 いいですー。全然嬉しいですー。見えない尻尾をブンブン振っているだんなさまは好きだからいいんですー。


 とりあえず、しばらく私を抱き締めながらおっさんを睨んでいたシャドウさんはそれで気が済んだらしく、私たちはシュターフなるところへ向けて出発したのだった。

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