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第1ー5話 焼けるヘイン邸・前編

 俺達2人はこれからの旅の支度に、地図を広げこれからの経路を確認し、最終確認が終わると屋敷に向け脚をむけた。

「どうしたんですか、ジュンさん?先程から落ち込んでるようですが」

「いや…なんでもナイです」

 失恋…こんなにも、辛いものなのか。胸の奥がキュウゥゥっと締め付けられ、動機もする、それになんだか泣きたくなってきた。



 その時ヘイン邸の警備を任されている、守備隊の一人が血相を変え此方に駆け寄ってきた。

「たっ大変です戦乙女ヴァルキリー様!!屋敷が襲撃を受けシュリ様が!それに加えヘイン様が負傷されました!!」

「なんですって!!」

「何!?」

 俺とミアさんは、その報告を受け屋敷に向け脚を駆けていく。



~~~ヘイン邸・玄関ホール~~~

「所々火の手が上がっているのに…何故、火薬の匂いは無いんだ…でもただの火災とは考えにくい」

「ジュンさん!これは火炎魔法です…恐らく、敵には魔術師が…それにかなり高位の」

「火炎魔術…ミアさん、確か火炎魔法と対になる魔法は「流水魔法」でしたよね?」

「はい、水の属性なら消火はできるかと。」

「なら消火は俺がします!ミアさんはヘイン様とシュリちゃんの保護と情報を!」

「…!お願いします…」


 1階の玄関ホールから上がる火の手を、俺はまずミアさんの進行ルートを確保するために消していく。

腹の底に力を入れ、両手を前に掲げ、「水」を想像し創造する。

 すると消火ホースから放たれる高圧に圧縮された水の様に、両の手から水が放たれた。周辺は何とか沈静化するも、問題は「2階」だ。


 1階よりも上層の為、未だに燃え続け燃焼を続けている。


~~~ヘイン邸・2階、客間~~~


「(熱い…それに、火の手が早い、これは近くに術者がいるのでは…、だとすればヘイン様もシュリ様も危ない!)」

 炎上し崩れ行く屋敷の中をミアは、一人走りそれぞれの部屋を調べた後、最後の部屋…この客間を残すのみとなった、だが敵は何処にも潜伏しておらずヘインの姿も見当たらない。


 ガチャリ


 ドアノブに手をかけ、回したその時部屋が大爆発を起こし、ミアは壁へと吹き飛ばされてしまう。


「バックドラフト」だ…

 密閉された部屋の中で炎が燃焼し、部屋内の空気中の酸素が欠乏するが火はまだ燃え続けている。

そうして酸素を急に取り込んだ炎は、大爆発を起こし更に燃え盛る。地球の火事の現場でも、あり得るこの現象、それがミアに襲いかかった。

 まるで炎は意志を持つ、獣の様に燃え盛っている。

 

 体を魔力で強化し、皮膚の上に防御壁を張ったミアだが、勢いまでは殺せず壁に激突し、全身火傷を負ってしまう。

気を失う寸前、声が聞こえた

「ミアさん!!」

 ジュンの声だ、あの爆音を聞き急遽駆けつけた。


 屋敷にはヘインもシュリも居ない、ここは一時撤退するとジュンが進言した時、ミアは人差し指で大爆発のあった部屋を指差す。


 そこには奇妙な仮面を付け、引き締まった体つきの、全身深い青の貴族服を着た男が立っていた。

両手にはシュリと、頭部から血を流す負傷したヘインが抱えられている、2人の体重は軽く見積もっても80kgは有るぞ、だが有にそれを持ち上げ窓から飛び去っていく。

「ま…待ちなさい…その2人を離しなさい」

そう言うとミアは、ジュンの腕の中で気を失う。


 ミアを両手に抱えた、ジュンは崩壊を始めた屋敷の中を一筋の稲妻の様に走っていく。

きっと後でミアさんに「何故追わなかった。シュリとヘインの救出が最優先だ、と怒られるだろう。」そんなことを考えているジュンだったが、崩壊した壁はなぎ倒し、落ちる木片は蹴り飛ばし、屋敷から脱出する頃には、全身にすすを被り、浅い切り傷を至る所に付けていた。


 安全な敷地外に出ると、それぞれ守備兵は「水魔法」や、ただの水を掛け消火を行っていた。

「大丈夫ですか!」

「あぁ大丈夫ですよ…でもミアさんが負傷した、すぐに宿の手配と清い水を用意して欲しい、全身に火傷を負ってる」

 守備兵にそう指示を出し、自身のコートにたっぷり水を染み込ませ、ミアの体を包む。ただの応急処置だがしないよりかは、幾分マシなのだが即座に適切な処置を施さないとまずい…


 ミアは駆けつけた救護班に連れられ、ジュンは守備兵に渡された濡れタオルで全身を拭っていた時、1枚の封書を手渡された。

「すみません傭兵殿…本来は戦乙女ヴァルキリー様に渡すべきなのでしょうか…彼女が負傷した今…貴方様に賭けるしか…どうか…どうか、ヘイン様を」

 守備兵は嗚咽を漏らしながらも、ジュンに封書を渡し涙を拭う。


 封書にはこう書かれていた


「腐りきった王政を断罪するため、我ら貴族院は王族派の「シグムッド・ユール・ヘイン」及び、イーリア王国・王女「シュリ・メルティ・イーリア」を捉え、国王への見せしめとし、王城前での公開処刑を実行する。・炎の奇術師・」

 血塗られた文でこう書かれていた、ご丁寧に名前まで…


「戦線布告とは、なかなか大した度胸じゃないか、守備兵さん…ここから王城までのルートは?」

「こ…ここ、からですと西に3里程…」

「わかった、2人を助け次第戻ってくるから、治療道具と体を休める場所の確保頼みます。あっ!あとは上手くて温かい飯を頼みますよ!」


 そうしてジュンは、シャツの腕をまくり濡れた前髪をたくし上げ、西へと走り去っていく。


「シュリちゃん、俺をこの世界で助けてくれた礼…今するからな」


 彼は男としての仁義を通すため、屋敷を焼き払い、シュリとヘインを連れ去った「炎の奇術師」を追いかける。



TO BE CONTINUED

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