第1ー4話 占いババアァァァァ!!!
貴族の男達を助けた後に、小さな村に俺達は到着した。
小さな村とはいえ、領主の自宅が村の南東に有るため、警備や商いは滞りなく行われており、規模の小さい街のような印象を受ける。
「これはこれは、ようこそおいで下さいました。シュリ・メルティ・イーリア王女様、本国より視察の連絡は入っております。」
馬車の中に保護した貴族達よりも、少し地位が高いのか鮮やかな赤や黄の彩色が施されたマントに、中には眩しい白のシャツを着こなし、スラリと伸びた長い足は黒一色のズボンに包まれている。
今目の前にいるこの貴族の好青年が、この土地一体の領主「シグムッド・ユール・ヘイン」だ。
~~~コロラッドの村・ヘイン邸・客間~~~
「シュリ様に、戦乙女のミア様、こんな辺境の土地までようこそはるばる、歓迎したいのですが…まずそちらの殿方は?」
彼は事前に連絡の入っていない、俺のことを警戒しシュリに尋ねる。
「俺はこの2人に…むごっ!」
突然ミアさんに、口元を抑えられ言葉を遮られる、それと同時にシュリが口を開き説明をする。
「この方は女二人旅するにあたり、荒事を避ける為に独自判断で「雇った」傭兵でございます。どうかお気になさらず」
「そうですか、では話しの本題に入りましょう。「貴族院の謀反」これは、貴族院に属していない私達には詳細はわかりかねますが、近いうちに3年前の様な戦が始まるかと。」
ヘインは言葉を続ける、あの傷を負った貴族達は、どうやらこのヘインの屋敷にシュリ達が来るのを事前に知っていた為、その機にシュリの耳にこの情報を入れようと馬車を駆けたのだが、その道中にあの「事故」だ。
その事も有り、ヘインは「口封じ」だと思い、シュリや他の所から送られてきた情報を元に会話を続けていく。
「ですが変ですね。貴族院はあの3年前の戦いで、兵力も物資もとてもじゃないが足りない。でも貴族院の連中も無駄死にするだけの戦など仕掛ける筈がない。」
「そうですねあの戦以来、父上も兵士の鍛錬や武力の強化や、警備も一新し国力を上げています。なのになぜ突然」
2人は貴族院とやらの、不穏な動きがなぜかと考えている、他国にバックアップを頼むにしても海を経由しなければならない、よって船の動きや貨物等を調べれば直ぐに足がつく。
でもそのような話も証拠もない、単なる噂話か、それとも別の何かか。
「傭兵の君、名は?」
「アカイワ ジュンです」
「そうか。アカイワ殿、荒事のプロフェッショナルとして、君はこの状況どう見るかな?是非ご教授願いたい」
「プロ…プロねぇ、そんなご大層なもんじゃないですよ。でも私が考えるには、バックアップにしても何にしても、仕掛けて勝てると言う算段がある、しかも外部に情報を漏らさず穏便に出来るとしたら「裏社会」…とかその辺になってくるんじゃないですか?」
あくまで地球に居た頃見たりした、アニメや漫画の話だが。
「裏社会ですか…突拍子も無い話ですね。光有る所に影が有るように社会もまた同じ…でもアカイワ殿は何故、その裏社会が噛んでいると推測されるのですか?」
ヘインは眉間にしわを寄せ、真剣そのもで食い入るように順の話に耳を傾ける。
「まず一つ、シュリ様とヘイン様のお話しを聞く限り、私としても他国からのバックアップは難しいと判断しました。でも人間というのは、同じ国内でも独自のコミュニティを作る。そうすれば社会のはみ出し者が集まっても不思議じゃない。」
「でもそのはみ出し者が、貴族院に手を貸した所でとてもじゃないですが、一国を落とせるとは…」
「違うんですよヘイン様。ここからはあくまで私の推測ですが…社会からはみ出したものは、今を生きるのすら命がけ。すなわち個々が恐ろしく強い、そんな人間が徒党を組み組織だって動けばどうなるか」
「確かに、私達が知らないだけで存在してもおかしくはない…調べてみる価値はありそうです。」
~~~コロラッドの村・中央道~~~
詳しい話しの詳細は、シュリとヘインが相談し決める事となり、俺はミアさんと共に村の中を見て回る事にした。
「ジュンさん、本当に転生者なんですよね?」
ミアさんはキョトンとし、順に突然尋ねる。
「そうですよ、でもまた何で突然?」
「いや…先のヘイン様との対談の時に喋っていた内容や、転生者というのを隠すために付いた「傭兵」という嘘にも自然と合わせれる器量、本当は物凄い高名な貴族の出などでは無いかと思いまして」
「はははっ、ただ似ている世界観を知っているだけですよ。んで、その情報をつなぎ合わせて、喋ってみただけですよ。全部外れかも知れないし、五分五分で正解かもしれない。ただ調査する価値はあるでしょ?」
「ふふっ、本当に面白い方ですね」
2人で道を歩きながら、買い物をしたり談笑したりしていると、茣蓙を敷き木箱を机にしている老婆に声を掛けられた。
「そこのお若いお二人さん。占いでもしていかないかい?」
老婆は此方に向かい、俺とミアさんに手招きをしている。
「どうしましょう…」
「いいじゃないミアさん、占ってもらいなよ」
「そ、それじゃ」
異世界でも女子とは、占いなんかが大好きな生き物らしい、俺が勧めるとミアさんは茣蓙に正座し、手を老婆の指示の通り差し出すと、老婆はミアさんの手の皺を確かめる様に握り占っていく。
「おやおやお嬢さん、あなたの未来とても幸せなものよ。」
「なっ何が見えたんですか」
老婆はミアさんにニッコリ笑いかけ、占いの結果を伝えていく。
「遠くない未来黒き獅子に、あなたは生涯最後の恋をするが、闇という試練が貴方と獅子を覆い尽くす。だがその試練を乗り越えると、孤高の果てで貴方の為だけに愛の歌を獅子は歌うだろう、ってね」
「黒き獅子?って何でしょう?」
「さぁそればっかりは、私にもわからんねぇ。でもアンタは試練さえ乗り越えれば、この世で1番の旦那さんを見つけれるって事じゃないかい。」
「だっ旦那さん…ですか、でもまだ自分が結婚するなんて…」
「ほっほっほ、占いは信じるも信じないもあんたさん次第さ。まぁこの老婆の残り少ない人生の楽しみさ、付き合ってくれてありがとうねお嬢さん」
「はっはい…」
少々赤面したミアさんは、俺の所へ戻ってくる。
「占いどうだった?」
「ちっ近い内に、私結婚するみたい…です」
「結婚かぁ~、それならミアさんの旦那さんになる男は幸せだなぁ。ミアさん優しいし料理は超絶美味いし」
順はからっとした笑いをミアさんに向け、笑いながらミアさんの占い結果を聞いている。
ミアさんの勧めで、俺も老婆にこの占いをしてもらうことになった。
「おやあんさんもするかい?ガールフレンドを待たせてまで占いかい?」
「いっいや、彼女は助けてくれた恩人ってだけですよ!それに彼女が俺も占って貰えってさ」
老婆は順をからかいながらも、差し出された手を握り占っていく。
「ほぉ…こんな未来は初めて見たわい」
「…ん?」
「その身に破壊と慈愛を背負い、一度その身は滅ぶが、不死鳥の如く孤高の果に再臨する、やがて光の子と6人の仲間と共に世界に降りる夕闇を切り裂く一筋の剣とならん。…とでたよ」
「…全くわからん」
「ほっほっほ、正直このような占い結果は先も言ったが、私も初めてじゃ」
その後俺は老婆に一礼し、ミアさんとヘイン邸にシュリと合流する為戻っていく。
…ミアさん、近いうちに結婚するんだ、はぁやっぱりこれだけ良い人だと彼氏くらいいるよなぁ。
顔では笑いながらも、内心失恋した様に沈み込む順だった。