第1-3 キッカケ
馬車が出発して約2時間が経過していた、俺は馬車の中で借りた本を読みこの世界での知識を取り入れていた。
「勇者に…魔王ねぇ。まるでRPGの世界そのものだ。とてもじゃないがまだ転生した実感が沸かないな」
渡された本は既に読み終わっており、外の風景を眺めていた俺は少し離れた所に人影を見つけた。
「シュリちゃん、あれ何だろう。」
俺は東の方角を指差し、シュリに何かと訪ねるも、彼女で視認できず懐のオペラグラスで見ると、馬車を運転するミアにその人影の有るポイントに向かうよう指示を出す。
~~~シューベン・ヘイン領、草原~~~
「大丈夫ですか!?」
俺の目では人影と馬車がぼんやりと写っていただけだったが、近くで見ると盗賊か何か解らないが襲撃された後だった。馬車やその他の物には、人為的な傷跡…これだけの情報でも「人の仕業」というのは解る。
「ミア、貴方は周囲全方位の警戒を、私はこの方達の傷の手当をします」
シュリはミアに指示を出すと、即座に負傷している貴族風の男達の手当に入る。
彼女の手が淡くライトグリーンに光り、傷は徐々に塞がっていく。これが「回復魔法」だ、便利なものだが万能ではない。
俺は傷の手当が終了した、貴族の男達に話しかけ事情を聞いていく。
「大丈夫ですか?何があったか喋れますか?」
「あっあぁ…大丈夫だ、でも突然、紫のローブを着た女が馬車の目の前に現れて、引きそうになったんで止まろうとしたら、馬車が突風に切り刻まれて…」
「そうですか…、でも命に別状がなくて良かった」
「その馬車の紋章、貴方様は、イーリア国の王族関係の方…ですか?」
「いや、王族はあっちで傷の手当をしている女の子です。僕はこの2人に保護された転せ…旅のものです。」
「そう…ですか、これは都合が良い。お二人にお伝え下さい。ここの領主に会って欲しいと、国を二分するの危機が、迫っていると。」
男はそう言うと、俺の腕の中で気を失った。
「ミアさん、ちょっといいですか。警戒態勢を解かず耳だけ此方に」
「何でしょうかジュンさん」
「さっきあそこの男性の介抱している時に聞いた話しです。1つ目は「紫のローブの女がこの自体を引き起こした」。二つ目、正直こっちの方が重要かもしれません」
ミアは周囲の警戒をしたまま、ジュンの放つ言葉に耳を傾けコクンと首を縦に振る。
「二つ目はここの領主に会わなければならない、この国が2つに割れる危機だと」
「そうですか…ジュンさん、私たちはこのシューベン・ヘイン領で暫くを過ごすかもしれません。馬車を手配させますので貴方はそれで王都へ。」
「…」
「それに貴方は確かにまだ謎が多いです。でも…悪人では無いのは確か。だからこのまま争いに巻き込まれず、普通に生活してください。王都なら仕事も食事も安全も保証します。」
「ミアさん…、わかりました。それなら俺は好意に甘えて王都へ向かわせて貰います。」
そうして俺達は馬車に怪我人を運び込み、ゆっくりと周囲に警戒を張りながらシューベン・ヘイン領の街へと向かいってく。
前は馬車の運転もしなければならない為、ミアさんが担当し、俺は後方の警戒を自分で買って出てゆっくりと徒歩でついていく。
馬車の中ではシュリと4人の貴族の男達、すし詰めになった馬車の中で彼女は事の顛末を聞き、小さな少女らしからぬ険しい表情をする。
「なるほど事情はわかりました。その件については後に領主ヘインに聞くとしましょう。」
ある事故から、始まった運命の歯車。
彼と彼女達は、激動する争いの渦中へと身を投じていく。