幕間 一方その頃①
新キャラ登場!
「はい。分かりました。それでは、立花さん、これからサテラさんに向かってもらいますので、もう少し柊カイ君のことを見ていてもらっていいですか?」
飾り気のない部屋で銀髪の男が立花薫と連絡を取る。
『分かりました。しかし、中学1年生の少年が詠唱短縮にオリジナルの詠唱を創るだなんて。私の常識が崩れましたよ。』
少し疲れた様子が電話越しに伝わってくる。
しかし、それも仕方がないと言うしかない。
連絡を受けていた男、ソロン=クレイドル
彼は、召喚魔法の研究の第一人者であり彼自身も高ランクの魔術師であり、ソロン自身も強力な使い魔を使役している。
そして、ソロンも詠唱短縮やオリジナルの詠唱を創ること出来るが、それでも柊カイと同じ歳のときに出来るかと聞かれたら「出来ない」と、答えるだろう。
それほどまでに柊カイという少年は規格外であり常識に囚われていない思考の持ち主であると言えるだろう。何故なら、まともな人間であるならば自らの魔力量を上回る量の魔力を使おうとする発想は出てくるはずが無いからだ。
「ああ、そうだ。立花さん一つお聞きしたいことがあるのですがいいでしょうか。」
そう言うとチラリと視線をソファーに座る人物へと目を向けた。
その視線に気づきソロンに向かってヒラヒラと手を振る。
そうするとソロンは少し呆れた表情になり、ため息をついた。
しかし、こちらの事がわからない立花はそのため息の意味がわからず思わず
『え?私なにか変なことを言いましたっけ?』
と、全く見当違いのこと口走っていた。
「ああ、いえ、こちらの事です。それで質問の件ですがいいでしょうか。」
『あ、すみません!はい。大丈夫です。』
「それでは、立花さん。柊カイ君ですが、何か変わった所はありませんでしたか?例えば、魔力量、魔力の質が変わったとか。些細なことでいいので何かありませんか?」
『変わった所……ですか。そうですね……特に何も変わった所は無かったですよ。あ!そういえば、召喚魔法を使った後あたりから口調が変わってました。』
それは本当に些細なことだった。しかし、その言葉を聞いたソファーに座っていた男は顔を顰める。
それに対してソロンが視線で「どうした?」と問いかける。
それに対して男は、身振りと視線で「気にするな」と言っていた。
「そうですか。分かりました。サテラさんが着くまでの間お願いしますね。」
『はい。了解しました。それでは失礼します。』
その言葉でこの連絡は終わった。
「それで、さっきは何で顔を顰めたんだ?アーク。」
「なに、少し気になったことがあっただけさ。」
ソロンの問い詰めるような視線を気にもせずアークと呼ばれた男は素っ気なく答える。
「それにしてもアーク。あの少年とは何処で出会ったんだ。」
「んー?今日の朝偶然会っただけだよー?」
ソロンの疑問に対してアークは「コンビニ行ってたー」位の軽い気持ちで答える。
その返答にまたもやため息をつく。
しかし、その直後に真剣な表情になりソロンに告げる。
「ソロン、あの少年は俺たちと同類のバケモンだぜ。それに、あの身体になんか飼ってるしな。」
「なるほどな。アーク、君が気に入るほどの少年なのか?その柊カイという少年は。」
この男が他人に興味を示すのは久し振りだなと、ソロンが思っているところで、電話が鳴った。
ソロンは会話が中途半端になってしまったことをアークに視線で謝り電話に出た。
その際もアークは特に気にした様子も無く手をヒラヒラと振って応えただけだった。
「ソロンです。どうしました?サテラさん。目的地には着きましたか?」
『迷った。』
「はい?」
あまりにも突拍子なことに間抜けた声を出してしまった。
そして、その声を聞いたアークは声を殺して笑っていた。
「失礼しました。それで、サテラさん迷ったとはどういうことなのでしょうか?」
言葉では何事も無かったように振舞っているがその目はアークを睨んでおりアークはその視線を無視していた。
『?そのままの意味だよ。それ以外にある?』
その声からは今の彼女の様子が手に取るようにわかる様だった。それに、電話越しにも首の傾げているのがわかる返答であった。
「まぁ、その学校に行くのは初めてでしょうし場所はちゃんと調べましたか?」
『調べてないよ。なんとかなると思ってたから。』
サテラの声には「何か問題あった?」という言葉には出していない意味もあった。
そして、その意味を理解したソロンは深くため息をついた。
「あのですね、サテラさん。貴方もうちの学院の講師なのですから自分の行動が他人に迷惑を掛けるということがあるという事を理解していますか?」
『分かってる。でも、私はまだ未成年。』
ちゃんとした答えは返ってくるがそれでも何処か飄々として掴みどころのない返答を返してくる。
「まぁ、それを言われるとこちらは何も言えないんですが。それでも、一応は講師なのですからね。例え貴方が18歳だとしてもです。」