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罪過の魔術師  作者: 汐崎 昂稀
第一章 記憶の狭間
8/9

第六話 霧の向こうに

その戦いは戦いと呼べるものではなかった。

小烏丸が刀を抜くこと無く終わった。


「なぁ、小烏丸。今の戦い本気出したか?」

「いえ。実力の半分も出していません。流石に相手が弱すぎました。」

「だよなぁー、結局小烏丸の実力も分からずじまいだしな。」


当初の目的であった小烏丸の実力を確認するという目的が達成出来ていなかった。

今戦った相手はクラスの中でも割と実力がある人物出会ったが、小烏丸の相手では無かった。

彼、相浦(あいうら) 誠司(せいじ)はこの学年の中でも上から数えた方が早いくらいの人物である。

しかし、それでも小烏丸の実力を発揮させることは叶わなかった。


「いやぁ、柊君さっきは悪かったよ。頭に血が上ってよく分からないことを口走ってしまったよ。」

「ん、ああ、気にしなくていいよ。こっちにも目的があったからさ。まぁ、達成出来なかったんだけどな。」

「そうか。まぁ、そうだとしても一方的に仕掛けたのは俺だから謝っておくよ。さっきは悪かったね。」


相浦がカイに対して頭を下げる。

しかしそれに対してカイは少し思案顔を覗かせていた。

それに対して少しムッとした感じの相浦。


「柊君?どうしたのかな、さっき俺の謝罪が気に入らなかったのかな。」

「ん?悪いちょっと考え事をしてたんだ。あ、立花先生ここで俺と小烏丸が戦っても大丈夫でしょうか?」


カイが突拍子もない事を言い出した。

普通に考えて小烏丸の実力とカイの実力とでは力の差がありすぎるのである。


「ええ、それは出来ますが……力の差がありすぎるのではないですか?それで怪我でもされたらと思うと心配になります。ですから、無茶はしないでくださいね。」

「はい。その位は分かってますよ。さてと、じゃあ小烏丸やるぞ!それと、ちょっとこっち来て。……小烏丸、本気で来いよ。俺はお前の本気が見たいんだ。」

「ええ、分かっています。しかし……私が本気を出す際に刀を使いますが大丈夫でしょうか?」

「ん?そんな事気にすんな。刀くらいどうとでもしてやるからな。」


カイはそう言ったが実際の所小烏丸は不安であった。いくらカイが気にするなと言っても丸腰の相手に刀で斬りかかことに抵抗はある。

しかもそれが自分のマスターなのだから尚更である。


「では、マスター行きますよ。」

「よし。何時でもいいぜ。かかってこい!」


カイの宣言で小烏丸は刀を鞘から引き抜き半身になり刀を体で隠すように構えた。

それに対してカイは、何もせず脱力した状態で小烏丸を見詰めている。

しかし、その光景を見て立花先生は慌てる。


「ちょっと!!柊君これはどういうことなの!!貴方の使い魔刀を抜いてるわよ!丸腰でどうにか出来る物じゃないわ!今すぐこの戦いをやめなさい!」

「先生、ちょっと静かにしてもらっていいですか?」


その声は周りにいた人達を静かにさせるには十分過ぎる威力を発揮させた。

それに、カイの目はさっきまでの温厚そうな柔らかな目ではなく、獲物を見るような冷徹な眼へとかわっていた。


「シッ!」

「おっと!あっぶねー当たるとこだったぜ。」

「今のは当たると思ったのですが流石ですね!」

「次はこっちから行くぜ。」


戦いは唐突に始まった。何の合図も無しに。

初手は小烏丸が取ったがその速すぎる刀の振りを何のこともなく躱すカイ。


「それにしてもやっぱ素手と刀じゃぁ相性が悪いな。」

「マスターそれは当たり前だと思うのですが・・・・・・」

「だよなー」


それは、異様な光景だった。

話の雰囲気は日常会話の様だがやっている事と雰囲気が全くもって噛み合っていない。

カイが攻撃を仕掛けようにも小烏丸の間合いに入るため深追いができず、小烏丸も深追いをしようとすると一瞬のスキをついて来る。

それは普通の学生が出来るようなことでは無かった。


そして試合が始まってから5分が経とうとしたころ変化は突然に現れた。


「んじゃ、俺も刀で打ち合うとするかな。」

「マスター?」

「来い……叢雨(ムラサメ)


カイの手に黒みがかった日本刀が握られたが・・・・・・

それも一瞬にして消えてしまいカイは膝から崩れ落ちてしまった。


「マスター!?どうしました!」

「柊君!?大丈夫!」

「ぐっ……あぁ……あ、頭が」


それが、カイが意識を失う前に言った最後の言葉だった。



――――――――――――――――――――――――


ここは何処だ?

たしか俺は小烏丸と戦っていて、それで魔法を使おうとして……

あれ?さっきまでこんな霧なんて無かったのに。

さっき?さっきって何時だ?

それにしてもなんで霧なんて出て来たんだろう?

あれ?俺がさっき使おうとした魔法なんだっけ?

なんで思い出せないんだ?


『やぁ、カイ。今朝ぶりだね。また会えて嬉しいよ、それにしても記憶の封印を解いてもいないのにあの魔法を使おうとするなんて無茶するねー』


君は誰?今朝ぶり?封印?あの魔法?

何のことを言っているんだ?

何が何だかわけがわかんないな。


『まぁ、そうなるよね。そうだね僕はまだカイに名乗ることは出来ないんだよ。それと魔法だけど"あれ"に名前なんてないよ。名前を付けられるようなものでも無いしね・・・・・・。まぁ、そんな訳でごめんね。その代わりといえば何だけど僕と話をしようよ。』


そのくらいなら良いよ。


『ふふふ、嬉しいねぇ。それじゃあカイが気になってるであろうことを教えてあげようかな。』


それってもしかしてこの霧のこと?


『そうそう♪』


なんか凄い嬉しそうだね。


『そりゃね。恋する乙女的には好きな相手と考えてる事が一緒だと嬉しいもんなんだよ。』


キミは俺のことが好きなの?


『うん♪大好きだよ。愛してるといってもいいくらいにね♪今一緒にいられないのが辛いくらいだよー。とまぁふざけるのはこの位にして、霧のことをおしえなきゃね。』


ああ、そうしてくれると助かるかな。


『まず、この場所はカイの意識の底とでも言っておこうかな。それと、この霧は朝チョロっと言った封印だね。』


ここが俺の意識の底?朝チョロっと言った?それに封印?何が何だかわけがわかんないなよ。


『まぁ、そうなるよね~。それに封印の詳しいことは言えないんだけどね。まぁ、その封印も朝のアレイって奴のせいで半分解けかけてんだけどね。』


その封印が解けたらどうなるの?


『それは言えない。僕としては封印は解けて欲しくないんだけどね。』


なんで?


『僕はカイが苦しむ姿はもう見たくないんだ……』


そっか、キミは俺を心配してくれていたんだね。


『カイに会えないのも辛いけど、カイが苦しむ姿を見る方が辛いからね。』


それでも俺はこの霧の向こうへ行くよ。今の俺は俺じゃあないからね。


『そっか……それじゃあ僕はまたカイに会えるのを楽しみにしてるよ。』


ああ、それじゃあ俺はあの先へ行くよ。またな、オティヌス。


『ふふふ、それは反則だよーカイ。キミのことがますます好きになっちゃうじゃないかー。』





『行った……か。あの霧を越えるにはキミの過去を知りそれを乗り越えなきゃあいけないよカイ。その過去を知り越えない限りキミの魔法は封じられたままだから……カイ、僕は待ってるよ。』


そこには一人の少年を見守り、想う独りの少女が少年の消えていった霧の奥を見続けていた。




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