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足音  作者: 相模しずく
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はじまり


あの家に住んでいた頃の私は就職したばかりの新入社員で、そこは自分で初めて借りた部屋だった。

一人暮らしを始めるまでは、あれやこれやと期待に胸を膨らませていたが、実際は憧れだった生活には程遠く、毎日新しい仕事を覚えることに必死で、自宅は帰って寝るくらいの場所でしかなかった。





事の発端は些細なものだった。


その日も先輩から新しい仕事を叩き込まれ、心身共に疲れ切っていて帰宅した時には思考が完全に停止していた。

ぼんやりとしたまま、ただひたすら機械的に冷蔵庫の残り物を口に運んでいた。



不意に、視界の端に何か動くものがあることに気が付いた。

ガラス戸にかけてあるカーテンの裾が、ひらり、ひらり、と揺れているのだった。


しばらく観察していると、それは同じの幅、同じのリズムで揺れていることがわかる。

最初は、ベランダから隙間風でも入っているのだろうと思っていたが、それにしてはいささかおかしい。

すぐ隣にある、もう一枚のカーテンが一切動いていないのだ。


これは相当疲れているのかもしれない。

目頭を押さえながら瞼を閉じる。

ゆっくりと開くと裾はまだ動いていた。


静かにそばまで近づいて、そっと手をかざす。

やはり風はふいていなかった。

カーテンに手をかけて勢いよく開けてみると、そこには何もなく、隙間が空いているわけでもない。

私は何事もなかったかのようにカーテンを元に戻すと、先ほどまで動いていたはずの裾はピタリと止まっている。


やはり気のせいだったとほっとして、その場から離れてまた夕食の続きを食べ始めた。





そのあと風呂から上がり、寝る準備をしていると、突然テレビの電源が入った。


映し出されたのは騒々しいバラエティ番組。

驚いて思わず画面を凝視してしまう。

それは普段見ることのないもので、テレビのタイマーをセットした記憶はない。

無意識にリモコンを触ったのかと思ったが、リモコンはテーブルの上に置いてあるので、そのようなことは考えにくかった。


生唾をゴクリと飲み込む。

辺りを見回したが、もちろん変わった様子は何もない。



私は大きく深呼吸して心を落ちつけると、何食わぬ顔でテレビを消した。



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