君しか見えない俺は。
予告通り統也視点です。
もしかしたら想像してた性格と違うかもしれません。
君の笑顔に恋をして、優しさを独占したくなって。
幼いころから変わらない想いは、おかしいのだろうか。
***
「統也?」
黙ったままの俺を覗き込むアメジストに、閉じ込めてしまいたい衝動に駆られる。
婚約者という立場でありながら、俺の立場は二階堂や三瀬とそんなに変わらない。
アイツらより長い時間共にいたから、その分優先されているとは思う。
けれど、焦がれる紫紺に映るのは、あくまで慈愛で。
俺の抱えてる感情と真尋の気持ちはあまりにもかけ離れている。
誰よりも、何よりも求めてやまない彼女が本当の意味で手に入るのは、一体いつになるのか。
流石に焦りが思考を覆う。
「統也?気分でも悪いんですか?それともまだ拗ねてるの?」
「…別に拗ねてるわけじゃないし気分も悪くない」
「本当ですか?」
「ああ」
心底安堵したと言いたげに息を吐き出す真尋の額にキスをする。
傍から見れば恋人らしい動作も、真尋からしたら幼い時と変わらない戯れにしかならない。
本当は淡く色づく唇にしたいが、それはちゃんと真尋の気持ちが俺に向いたらと決めている。
学校にいる間は何があっても揺らがない口調が、たまに俺の前では崩れる。
それだけのことなのに、俺には心を許してくれているということに思えてどうしようもなく嬉しい。
気遣わしげに向けられる視線が、俺が大切なのだと訴えている。
幸せなのと同時に、それが向けられるのは生徒会の奴らやあの四山、五十嵐も同じだから苛立つ。
俺はこんなにも愛しているのに、真尋はそういう意味では俺を決してみない。
というか、真尋はどこか俺たちに遠慮している。
薄い薄い壁を築き、踏み越えないよう、踏み越えさせないように細心の注意を払う。
そんな壁は砕いてしまいたいが、それをしてしまうと真尋ごと居なくなってしまいそうで、俺は何もすることができない。
「真尋」
「どうし、ひゃっ」
窓の外に向いていた視線を俺に向けてほしくて、名を呼んで腕を軽くひく。
バランスを崩して倒れこんできた華奢な体を腕の中に閉じ込めた。
ぱちぱちと瞠目する姿が幼くて笑うと、咎めるように眉が顰められる。
「統也、危ないでしょう?」
「俺を見ていない真尋が悪い」
「声をかけるだけでいいでしょうに…」
仕方ないなあ、と緩められる目元に唇を落とせば、くすぐったそうに笑った。
初めて真尋と会ったのは、俺たちが三歳のころ。
婚約者と会うということでいつもより着飾られた俺は、窮屈な服装にうんざりしていた。
三歳にしては大人びていたらしい俺は、婚約者というのがどういう意味かは知らなくても面倒そうとだけは思っていた。
近くにいた使用人曰く、将来結婚する相手のことを言うらしい。
両親には逆らえるわけもなく、すぐに来るという婚約者とその家族を客間で待っていた。
そんなに待たずに入ってきたのは、綺麗な女の人と男の人。
そして淡い水色のワンピースを着た天使だった。
そう、真尋は幼い時から天使だった。
あまりの衝撃に、目を見開いたまま固まる。
それを見ていた父さんはにやりと意地の悪い笑みを浮かべた後、女の子の両親と話し出す。
母さんは俺の手を引いて女の子の前に向かった。
母さんが女の子に自己紹介すると、女の子はにぱっと笑うと指を三本立てる。
「しののめまひろ、さんさいです!」
天使だ。天使がいる。
思わずぱっと手で顔を覆う。
人間にはいやというほど対応してきたが、天使とは話したことがないぞ!?
どうしようか迷って、とりあえず名を名乗った。
「いちみやとうやだ」
「よろしくね、とうやくん」
「とうやでいい、よろしくまひろ」
名前で呼ばれた…!
しかもあの輝くような笑顔!
思わず顔をそらしてしまったけど、真尋は笑顔を崩さなかった。
あの出会いから、よく真尋は家に遊びに来るようになった。
天使だと思っていたと言えば、呆れたように笑う真尋。
成長するにつれて敬語を使いだした真尋に疑問を覚えつつ、真尋がそばにいるからと何も考えなかった。
初等部にあがるときには、我儘を言って彼女に男装させた。
女であることを知っているのは俺だけでいい、なんて本気で思っていた。
でも、彼女が俺のものではないのだと気づいたのは、真尋が四山を連れてきた時だった。
「統也、彼は四山竜太といって私の友人です。竜太、彼が統也です」
「へえ、お前がね…」
じっと品定めをするように見られることに嫌悪感を隠さず目の前の男を見る。
俺より少し大きい、紫色の髪をした男。
顔は整っていると思うが、そもそもなんで男が真尋の傍に?
燻る嫉妬を隠して、真尋に笑顔を向ける。
「真尋?」
流石に怒っていることに気付いたのか、真尋はすまなさそうに眉を下げた。
「すみません統也、竜太に性別がバレました」
「は?」
「私の不注意で…すみません」
「別にあれは真尋悪くないだろ」
「不注意は本当のことですし」
目の前で親しそうに話す二人と裏腹に、気分は沈んでゆく。
性別がバレたこともそうだが、自分以外の男が真尋と親しそうに話しているのを見るのはこれが初めてだった。
四山と話す真尋は、敬語こそ崩さないものの自然体で、俺といるときとそんなに変わりがなかった。
真尋の中で、俺と四山はさほど変わらない場所にいるのだろうと、気付いたのだ。
その時から、俺はさらに真尋から離れくなった。
意識してもらえてないなら、意識してもらうまで。
真尋が俺の婚約者であることには変わりなくて、俺は真尋を手放さないから真尋が俺のものになるのも決定事項で、だけど真尋の心も欲しくて。
幸い、四山は真尋を女としては見ていなかったから安心できたが、俺以外の男が真尋の傍にいるのはやっぱり許せず俺と四山の仲は悪いままだった。
真尋の傍から虫を排除しようにも、当の真尋がどこかから拾ってきてはすぐに懐かせてしまう。
真尋の無償の優しさは大好きだが、こんな時には厄介以外の何者でもない。
男女問わず惹きつける真尋に、何度無理やり奪ってしまおうと思ったことかしれない。
腕の中の真尋は、俺がこんなことを思っているとはつゆ知らず、呑気に明日の予定を考えているようだった。
はやく、真尋が俺のことしか考えられなくなればいいのに。
そんな願いを込めて、腕の力をさらに強めた。
当初はこんなに危ない性格ではありませんでした。
真尋を見て天使とか言う子じゃなかったはずなのに、なんか暴走しました。
ただ嫌いじゃないです。
あと、独占欲が強いだけで、ヤンデレではありません。たぶん。
次は愛莉視点か、お話を進めるか…迷うところです。