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何度も愛を囁いて  作者: 林田一樹
~本編~
8/11

(8)作戦決行

お気に入り登録800件超えました!

ありがとうございます。


今回も真之視点です。

 時刻を確認すると、午後二時前だった。

 約束の時間の少し前である。

 俺はエントラスに入った。腕時計に目をやる。



 ――もうそろそろか。



「一ノ瀬様ですね。お待たせして申し訳ありません」

 スーツ姿で眼鏡をかけた男が小走りで駆け寄ってきた。おそらく原会長の秘書だろう。

「いや、時間通りですから。構いませんよ」

「それでは行きましょうか」

 俺は彼についていくために、歩き出した。



 +++



「やあ、久しぶりだね、真之くん」

 応接室に着くと、原会長がいた。もう若くないのに元気がいいことだ。

「ええご無沙汰しております。会長もお元気そうで何よりです」

 どうぞと勧められたので、ソファーに腰を掛ける。

 原会長はさっきから笑顔で上機嫌だった。

 おそらく見合いの話で来たと思っているんだろう。まあ、ある意味その通りだが。

「それで……どんな用件かい?」

 俺は仏頂面になりそうなのをこらえて、外向け用の微笑を顔に張り付けた。

「……見合いの件なんですけれど」

 見合いという言葉を聞いた途端、原会長はわざとらしくニッコリと笑った。

 原会長はテーブルに身を乗り出して、興奮しているようだった。

「おおっ! やっと決めてくれたのか。君もそろそろ身を固める頃だろう? うん、この決断は素晴らしい良い判断だ。うちの孫はそこそこ可愛いし、美人さんだろう? いや、祖父である私が言うのもあれだがな。ははっ! それに原建設は最近出始めてきたし、ここでうちと真之君とのパイプができれば、さらに大きなものになり一ノ瀬グループの力が大きくなると思うのだ。仕事面、私生活どちらも有意義でメリットがあると――」

 話に入る隙間がないほど、じじいは喋り続ける。まるで壊れたマシンガンのようだった。



 ――馬鹿か、こいつは。



 あまりにも自己中心的でエゴイストでこいつがとても愚かだと思った。

 一ノ瀬が原建設と組んでメリット? ある訳ないだろう、新参者ごときの分際で。

 お前は一ノ瀬と原が同等の価値を持つと思っているのか? そんな訳ないだろう、ただの企業の一つでしかないくせに。

 私生活? そんなプライベートのことお前にどうこう言われる筋合いはないのだが。



「……何がおかしいのかね、真之君?」

 どうやら俺は営業用の微笑ではなく、口角を上げ笑っていたらしい。

 こいつは不快そうに眉を寄せた。……こっちが眉を寄せる立場なのだが。

「いや、ただ――」

 嘲笑し、溜息をつく。



「あまりにもあなたが馬鹿なので、おかしくて」



 おそらくこいつは俺の言ったことを理解できなかったんだろう。目を丸くして動きを止めていたが、意味を理解したのか顔を真っ赤にさせ、わなわなと震わせた。

「なっ! 何を言っているんだ、真之君! 会長にむかって失礼だと思わんのかね!? これは私にとっての侮辱だ!」

「……失礼? さっきから私に失礼極まりないことを言っているのに気づいていないのですか? ……だからそこが馬鹿だと思うんですよ」

 俺は足を組んで話を続ける。

「そもそも見合いの話とは言いましたけど、だれがそれを引き受けると言いましたか? それなのに何を勝手に話を進めているんです? 人の話も聞けないんですか、あなたは。幼稚園児でもできますよ」

「――っ! この若造が! 一ノ瀬だからって調子に乗りあがって!」

 爺は勢いよく立ち上がった。

「もう許さん! このことは君のお祖父さんに報告しておくからな!」

 とうとう祖父のことを出してきたか。だが、祖父がお前の言ったことを相手にする訳ないだろうな。



 ――そろそろか。



「どうぞ、ご勝手に。それはそうと早くお座りになってください。まだ話は済んでいません」

「もういい! 私はもう不愉快だ!」

 ……俺のほうが不愉快なんだが。

 爺は相当怒りに来ているようで、もう俺の話に耳を傾けないだろう。だから強制的に聞いてもらう。

「早く座れよ、爺。座れと言っているのに聞こえないのか」

 俺はさっきまで使っていた敬語をやめて、苛立った声で言った。そして微笑もやめる。

 爺は俺の変わりように驚き、口を金魚のように開かせるだけだった。

「……」

「……」

「……」

「――っち!」

 俺の無言の圧力に耐え切れなくなったのか、爺は渋々座った。唇を噛みしめ、苦渋に満ちた顔をしていた。

「……見合いの話だが、断る」

「そんな!」

 爺は俺の言葉が予想外だったらしい。そこまで自信があったのか、呆れるな。

「なぜだ、君もそろそろ結婚するべきだろう?」

「……余計なお世話だ。言われなくとも結婚する」

「そうか、だったら――」

「もう付き合っている人とな」

 そう言って俺は雪乃の顔を思い浮かべる。こんなにもきみに恋焦がれている。早く逢いたい。

「あ、ああ清華に聞いたよ。その……普通の子らしいな。そんな奴よりも私の孫のほうが――」



 ――……。奴? お前が雪乃をそんな呼ばわりをする資格なんてない。

 それに何でお前が雪乃のことを知っているんだ。

 雪乃をそんな風に言うなんて――許さない。



 握りこぶしを作っていた右手のてのひらに爪が食い込んでいた。

 我に返ると、爺は話を止めて俺を見て、冷や汗をかいていた。さっきの態度とは随分変わっていた。

「……これ以上邪魔をするんだったら――この会社を潰す」

 思っていたよりも低い声が出た。

「そんなことできるわけが」

「できるさ。昔は借金だらけだったくせに、なんで最近になって急に名が出てきたと思う?」

 爺は目を見開いた。どうやら俺の言っていることに気付いたみたいだな。

「……ま、まさか」

「一ノ瀬のおかげに決まっているだろう。だからしようと思えばいつだってここを倒産させることができる」

 爺は今度は顔を真っ青にさせ、縋るような目をしてきた。

「そ、それだけはどうかお願いだから」

 俺は左手をポケットの中に入れ、操作をする。

「そうか、それならもうしないか?」

「ああ……しないしないから」

 俺はそこで念書を押させ、ボイスレコーダーで爺の声を録音した。



「一ノ瀬のおかげでお前は会長をやっているってことを忘れるな」

 帰り際、俺は釘を刺すように言った。

「ああ分かっている」

 爺は疲れ切ったように呆然としていた。この数十分の間に爺の顔はやつれ、老けたように見えた。

「……ああ、そうだ。あんたの可愛い孫のことだが、警察に通報しておく」

「!」

「りっぱなストーカーだし、野放しにしておくわけにいかないだろう?」

 見る見る爺の顔は真っ青を通り越して、青白くなっていく。

「だ、駄目だ……やめてくれ」

「あの原建設の孫がストーカーしたってなれば、当然ニュースになる。少なくとも原建設に大きな影響を与えるだろうな」

「……そ、そんな。どうすれば」

 俺はその言葉を無視し、応接室を出た。

 先ほどの秘書が何か言いたげな顔だったが、原建設がどうなろうと一ノ瀬グループに関係ないことだ。



 ――自分で考えろ。



 溜息をつき、俺は外に出た。



 +++



 携帯を取り出し、電話を掛ける。数回のコールで相手が出た。

「もしもし。俺だけど」

『はーいはい、まーくんお待ちかねの副社長でぇすー♪ 今日はとびっきりサービスしちゃうぞ★』

「……ふざけてるんなら切るぞ」

『いやーちょっと待ってよ☆ 今のは冗談、じょ・う・だ・ん! 分かるー?』

「まあいい。今、あの爺に会って話をしてきた」

『ふーん、それで……あいつの変わりよう中々傑作だったでしょ?』

「……まあな。そっちはどうだった?』

『うん、ちゃんとお嬢様をお見送りしてあげたよ、警察にね♪ いやー、泣き乱して叫んで狂ったように抵抗する姿は興奮するぐらい最高だったよ☆ タイプじゃなかったけどね↓』

「……変態」

『わあーすっごく失礼だなあ……泣いちゃうよ?』

「勝手にしろ」

『うわーん! まーくんがひどいこと言ったあ、うえーん!』

「……」

『ところでさ、今日は家帰るんでしょ?』

「ああ、そのつもりだが」

『へえーそっかあ……』

「?」

『ううん、なんでもないよー♪』

「……辰哉。色々と迷惑かけたな、すまなかった。ありがとう」

『まーくんがデレた!?』

「デレたって……どういうことだ」

『だっていつも冷徹で非情なまーくんがついに! ひっ……ひくっお、お母さんは嬉しいよ……』

「……馬鹿な茶番はやめろ」

『きゃー怒った★ こわーい☆』

「……切るぞ」

『んー、まあとりあえずよかったねえ♪ ――やば、ちいーちゃんが来た! 「……副社長。仕事サボって何やっているんですか?」じゃあ、切るねー☆ ばいばーい★「早くこれ片づけてください」』



 +++



 マンションの×階にある部屋。

 俺はその前に立った。

 久しぶりだ、帰ってくるのは。自然と胸が高鳴り、口元がにやけそうになる。

 鍵を開け、中に入る。

「……ただいま」

 緊張で声が震えてしまった。

 パタンとリビングの扉が閉まる音がした。そっちに目を向けると。

「……お、おかえりなさい」

 いた。彼女がいた。目を見開いて、俺を凝視している。そんな姿すら可愛い。

 俺は雪乃を抱きしめた。

 久しぶりに見る彼女の姿に、聴く声に、我慢できなかった。

「あ、の……真之さん! 話があるんですけど」

 そう言って、雪乃は俺の腕の中から抜け出した。

「……」

「とりあえず中に入りませんか」

「……」

 俺は靴を脱いで、リビングに向かう。

 雪乃からの話。

 普段は嬉しい言葉のはずなのに。



 ――何の話だ?



 俺は嫌な予感がした。



 +++



 俺の嫌な予感は当たっていた。



「真之さん。婚約破棄しましょう」



 ――頭が真っ白になった。



誤字・脱字・表現がおかしい等ありましたら、すみませんがご指摘お願いします。


事件を書くのは面倒くさ――ではなく苦手なので、さくさくっと終わらせました。

話をしていた真之の顔は原さんでもビビるほど怖かったんでしょうね、恐るべき鉄仮面(笑)


一応、真之視点は一旦終わりです。

次回からは雪乃視点に戻る予定です。


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