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何度も愛を囁いて  作者: 林田一樹
~本編~
7/11

(7)曇り空の憂鬱

お気に入り登録660件超えました!

ありがとうございます。

読んでいただき、嬉しい限りです。


今回から真之視点です。

 火曜日の昼下がり。うっとおしい湿気と曇り空。

 俺はこの天気が嫌いだ。



 ――イライラする。



 机の上に上がっている煙草の箱を手に取る。だが、その中には一本も残っていなかった。

 舌打ちをし、溜息をつく。



 ――イライラする。



 全てに関して苛つく。

 仕事がはかどらないことも。疲れが取れないことも。煙草がないことも。最悪な天気であることも。あれが面倒なことも。彼女のことも。だけど一番苛つくのは、この状況を打開できない自分自身だ。

 箱を握りつぶす。グシャっと音がした。

 それと同時に部屋に人が入ってくる。



「まーくん♪ 元気にしてる〜?」

 ふざけたような口調。幼い頃からこいつの言動に慣れていたはずなのにかんさわる。だがこいつに当たっても仕方がないので、えた。

「……元気なわけないだろう。お前が来たおかげでさらに疲れた」

 こいつ――加賀辰哉は俺のいとこ兼幼馴染だ。そして一之瀬グループに属している大手会社の副社長だ。三十にもなった男がするべきではないふざけた口調にとぼけた態度からは想像できないが。

 辰哉は応接用のソファーに座る。

 俺もこいつに向かい合ってソファーに座った。

「社長がそんなんじゃ駄目だよ? ちゃんと休む時には休まないとね★ 三食食べて、しっかり寝ないと♪ なんでちゃんと休まないのかな? 自己管理は怠ったらいけないんだよ☆ まったく、ゆきのっちだけじゃなくまーくんも疲れてる……疲れやすい季節なんだから余計に気を付けないと――」



 ――ああ、うるさい。



 なんで辰哉に説教されないといけないんだ。意味が分からない。そういえばこの前も来たとき、説教されたな。あれはなんでだっけ?

 ……ってそんなことはどうでもいい。

「雪乃? 今、雪乃って言ったか? 雪乃がどうかしたのか?」

「ん? あー……ゆっきーねえ。ずっとこの頃元気ないなあって。なんか溜息とかぼーっとしてることとか多いしね☆ だから今日は定時で帰りなさいって副社長命令出したんだよ♪」

 雪乃はどうして元気ないんだ? まさか他の奴のことでも思っているのか。



 ――そうだとしたら、許さない。



「……とりあえず雪乃に変なあだ名をつけるな」

「えー! だって、雪乃って呼んだらまーくん絶対怒るでしょ? ゆきのーんに関しては心が狭いから★」

「…………そんなことはない」

 もちろん嘘である。辰哉の言ったことは図星だ。 

 確かに雪乃の名前をこいつが言っているとおもしろくない。こいつだけではなく、他の奴もだ。

 何度目か分からない溜息をつく。

 俺がこんなに心が狭いとは思わなかった。



 ――何時から、こうなった。



 俺は苦笑する。

 もしかしたら見合いの時よりもずっと前の初めて出会ったころ。おそらく彼女は憶えていない小さな出会い。



 ――あの時から、きみしか見ていない。



「……辰哉。煙草ないか?」

 煙草という言葉を聞いた途端、辰哉は頬を膨らませて不機嫌となった。まったく三十路にもなってそんな顔するな。女から見てどう思うか知らないが、男の俺から見ると気色悪い。

「はあー……まったくしょーがないなあ♪」

 とか言いつつ、苦笑しながら煙草をガラステーブルの上に置いた。いつも不満な顔をして文句を言っても、結局ほっとけない。こういうとこも幼い頃から変わっていない。

「悪いな」

 そう言って手に取り、一本拝借した。火を点け、煙を吸って吐く。

 すこし心が落ち着くような気がした。

「あーそういえば、原さんのことなんだけどねえ☆」

 辰哉は書類をテーブルの上に置いて、俺に差し出した。

 煙草を灰皿に押し付ける。

 そして、書類を手に取った。



 +++



 原清華はらせいか

 大手である原建設の会長のたった一人の孫であり、俗に言うお嬢様だ。

 大学を出たばかりの派手目の女。

 それしか知らないし、興味もないのだが……調べなくてはいけない状況になった。

 まだ雪乃と見合いをする前のことだった。

 このグループの会長――俺の祖父に原会長が孫との見合い話を持ち掛けたらしい。一之瀬の名を手に入れるためだけに持ち掛けたような縁談だ。



 ――また、これか。



 正直この手の話は少なくない。うんざりだし、俺や祖父も迷惑だ。

 そんなものしても、成立するわけないだろ。

 俺は雪乃しか見ていない。

 そう思って、断った。もうこれで問題ない――はずだった。



 なんと原会長とその女は諦めていなかった。

 女は俺に付きまとい、色目を使って媚を売ってきた。

 反吐が出る。



 ――そこまでしても、ほしいのか。



 相手からすれば、喉から手が出るほどほしいのだろう。地位や金、権力が。

 女の行動は徐々にエスカレートしていき、とうとうストーカーのような行為に走ってきた。

 さすがに俺も限界だったので、脅した(・・・)

 それでようやく女が静かになったと思い、雪乃と見合いした。

 だが、最近になってまたそいつが動き出してきた。おそらく雪乃の存在を気づかれたんだろう。

 厄介なことになった。



 ――あの時、完全に潰しておけばよかった。



 後悔しても遅い。

 今度こそは絶対に潰す。当たり前だ。邪魔をする奴は潰す。

 もう証拠は手に入れた。

 後は引っ張り出すだけだ。



 +++



「じゃあ、今日はもう帰るねー♪」

 辰哉はそう言って立ち上がった。

「ああ、ありがとな」

 こいつは俺に協力してくれている。そしていつも仕事の合間を縫ってきてくれるのだ。

「あ、そーだ☆ 家に帰るのは危ないからしょうがないと思うけど……連絡の一本ぐらいはしたほうがいいんじゃない? きっとゆっきー心配してるよ?」

「…………」

 連絡するべきか。

 声は聴きたい……だが以前盗聴されたし、もしかしたら雪乃に危害が及ぶかもしれない。



 結局その時、電話しなかった。だが、残業が終わった時間に電話をしてみた。もう寝ているかもしれない。

 だけど、どうしても声が聴きたかったのだ。これは俺の我儘だ。

「………………」

 出ない。呼び出し音が耳元で叫んでいる。通話を切る。



 ――早くきみに逢いたい。



初の試みとなる男性視点でしたが、慣れませんね(笑)

思ったように真之が書けません(T△T)


しばらく真之視点が続くと思います。

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