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何度も愛を囁いて  作者: 林田一樹
~本編~
5/11

(5)休憩中のミルクティー

お気に入り登録440件超えました!

ありがとうございます。

読んでいただき、嬉しい限りです。

「ゆきのーん。ちょっと休憩してきたら?」

 今にも雨が降りそうな曇り空である火曜日の午後三時半すぎ。

 副社長室に書類を届けに行ったときに、上司でもある副社長にそう声を掛けられた。

「えっ、なぜですか?」



 ――もしかしたら、まずいことでもした?



 もしかしたら自分の仕事に不手際があって呆れられ、頭冷やせってことを遠まわしに言ってるのかもしれない。

 副社長が休憩を提案した意図が分からなくて、頭の中が思考でぐるぐるしてきた。

 私のただならぬ様子に気が付いたのか、副社長は苦笑を浮かべた。

「んー? いや、ゆきのっちが悪いわけじゃないよっ♪」

 私はいつの間にか俯いていた頭を上げた。

「では……なぜです?」

 この上司が言いたいことが分からない。



 ――私が休憩する理由? まだ全然疲れてもないし、仕事のペースはいつも通り……いやそれ以上のはずなのに。



「私は大丈夫ですから、仕事に戻ります」

 副社長に背を向けて、秘書課に戻ろうとした――だけど、ドアを開ける直前に腕を掴まれる。力強い手つきがあのときのようで、思わず鳥肌が立った。できるかぎり表情を出さないようにして後ろを振り返り、副社長を正面から見る。

 すると彼は……駄々っ子のように頬を膨らませていた。



 ――お前は子供かっ!



 普通、三十にもなった大人がこんな仕草をしても気持ち悪いと思われて終わりだが、いつも副社長の大人げない電波的行いを見ているせいか、不思議と違和感はなかった。

「だから、だーめっ! だよ? ゆっきーは真面目で人に頼らないことが長所でもあるけど、短所でもあるんだよ★ 一人で抱え込んで仕事してないで、休憩してスッキリさせてきたほうがいいよ♪ 朝から元気ないしねっ!」

「え……」

 私は目を見開き、副社長を凝視する。彼はニッコリとわらっていて、表情から思考を読み取ることはできなくて、不気味・・・だった。

 もしかしたら副社長も……彼と同じように仮面を被っているのかもしれない。彼とは全く違う笑顔だけど、笑顔は無表情よりも分からなくて、怖い(・・)。笑顔という表情の裏では何を考えているのか全く分からない。そして、副社長のふざけたような特徴的な口調がさらに分からなくしている。笑顔と電波的な口調。



 ――ああ、彼以上の仮面だ。



 彼と副社長は、いとこだが全然似てないと思っていた。だけど、それは間違いだった。こんなにも二人は似すぎている。



「休憩したら仕事して、今日は定時で帰りなよ☆ しばらく残業続きで忙しかったからね、今日くらいはゆっくり休むんだよん♪ それでちゃんと寝て、しっかりご飯も食べて仕事にくるんだよ?」

 まるで母親のような言い草がおかしくて……申し訳なかった。



 ――こんなに心配されてるなんて気づかなかった。



「はい……わかりました。あと、すみません」

 小さく会釈し、顔を上げる。

「んー? 何がぁ☆?」

 副社長はとぼけたような口調だけど、そんなさり気ないことがすごく嬉しかった。

「いえ、休憩行ってきます」

「うん、行ってらっしゃい」

 そう言って、彼は笑った(・・・)



 +++



 プルタブを開け、一口だけ口に含む。とても甘い。いつもは微糖の缶コーヒーなんだけど、疲れた時には甘いものがいいらしいから、ミルクティーにしてみた。

 溜息をついて、掌で缶を包み込んだ。ほんのりと暖かい。



 ――副社長に気づかれるほど、おかしかったんだ。



 いや、副社長は意外に鋭い気がする。電波でも女たらしでも、やっぱり人の上に立つ人間だ。ちゃんと人のことをよく見てるし、部下のことを気にしている。

 確かに副社長の言うとおり、最近体調を崩している。

 ご飯は食べていて、睡眠もちゃんと取っているはずだけど具合が悪いのだ。まあ、残業もあって疲れやストレスも溜まっているだけだろう。

「………………」

 携帯は開き、着信やメールが来ていないか確認した。普段、勤務時間に(たとえ休憩中でも)携帯を確認することなど、滅多にないことだ。

 本当は最近、自分でも変だと思っている。いざとなれば溜まっている有給を使って、休むこともできる。だけど何もすることがないと、考えてしまうのだ。



 ――そんなんじゃ駄目だ。



 幸い……仕事をしている時だけは忘れられる、余計なことを考えなくていい。それだけが唯一の救いなんだ、今の私にとって。本音はもっと仕事をしたい……だけど副社長に気づかれてしまったんだ、こんな理由で仕事を熱心に取り組んでいるてこと。だから、もう今日は定時で帰るしかない。

 自分の浅はかで卑怯で自己中心な考えが情けない。



 ――ああ、社会人としても、秘書としても最低だ。



 だけどそう自覚しているけど、何も変わろうとしない自分が一番最低だ。社会人とか人間とかそれ以前に人間としての問題だから。

「…………あ」

 無意識の内に唇を噛んでいたらしい。すこし唇が荒れていて、口の中に独特の鉄っぽさが広がった。



 ――戻る前に化粧室に寄って行こう。



 もうすっかり冷たくなったミルクティーを飲み干す。

 最後までミルクティーは甘ったるかった。



最初、この話は入れない予定だったんですが……副社長を出したいがために書いたようなもので(ry

どうやら、私は副社長がお気に入りのようです(笑)



執筆速度が今までより遅くなります。(詳しくは11日の活動報告を参照)



誤字・脱字・表現がおかしいなどがありましたら、すみませんがご指摘お願いします。


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