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何度も愛を囁いて  作者: 林田一樹
~本編~
3/11

(3)キスと抱きしめるわけ

すみませんが、誤字・脱字等ありましたら、ご指摘お願いします。

 唇を甘噛みされたり舐められたりされた。それはひどく優しいキス。

「……ん、真之さ……んっ!」

 私が口を開けるのを待っていたかのように、彼の舌が口腔に侵入した。

 歯茎や歯を丁寧に味わうようになぞる。そして彼の舌は私の舌を絡めとり、強く吸い付く。

 何度も角度を変えられて、喰われる――貪るようなキスをされた私の頭はもう働かなかった。頭がぼーっとしてくる。



 ――どうして、キスされてるんだっけ?



 私は彼のキスに魅了されながら、麻痺している思考でつい先ほどのことを思い出す。



 +++



 道路脇に止まっている車の助手席のドアを開け、車内に身体を滑り込ませた。

「わざわざありがとうございます。いつもすいません」

 なぜだか分からないけれど、いつも真之さんは私が飲み会や接待のときに迎えに来てくれる。

 婚約者の肩書きだけの私に気を使わなくてもいいのに。

「………………」

 彼――真之さんは何も言わずに、車を発進させた。無口なのはいつものことなので気にしない。

 シートに身を埋めながら、流れている洋楽に耳を傾けた。



「――乃、雪乃」

 身体を控えめに揺さぶられながら、誰もが魅了されるようなバリトンで名前を呼ばれて目を開けた。

 どうやら私は眠っていたらしい。酔いが回っていたとしても助手席で寝るのは、運転している人に申し訳ない気持ちになる。

 もやがかかったような思考が徐々にはっきりとしてきた。

「ごめんなさい、寝てしまって」

 そう言って車から降りようとするけれど、何を思ったのか、真之さんが私の膝裏と背中に手を添えた。そして、私の身体が彼に抱きかかえられた。

「ええっ! あ、あの!」



 ――これって所謂いわゆるお姫様抱っこって奴じゃない!?



「じ、自分で歩けますから、降ろしてください!」

 私の言葉を真之さんは無視し、とっととマンションの玄関に向かい、エレベーターに乗った。

 お姫様抱っこされるのは初めてだ。長身の真之さんにされているので、視線がいつもより高くなって恐い。だけどそんなことより、真之さんの匂いに包まれているようで、違う意味で緊張する。



 ――真之さんは重くないのかな。私、身長が160センチはあるのに。



 不安に思って彼の顔を見上げる。彼はこれくらいなんてことないようで、いつも通り無表情でまっすぐ前を向いていた。

 なんだが私だけが色々と気にしているようで、恥ずかしくなった。顔をそらし、俯く。

 そうしている間に、エレベーターが到着した。

 真之さんは軽々とした足取りで、部屋の前までいき、鍵を開けた。



 ――私を抱っこしながら、片手で開けたの!? なんて器用なんだろう。



「真之さん、靴脱ぐので降ろしてください」

 すると彼は私を降ろした――わけではなく、私の靴を脱がせた。そして彼は自分の靴も脱ぐ。

「えっと、もう着いたので降ろしてもらっていいですか」

 またも彼は無視して、ズカズカとリビングを通り過ぎ、寝室に移動した。



 ――なんで、寝室?



「うわっ!」

 私は抱っこされていた姿勢からベッドに投げ出された。痛くはない。

 私を覆う影ができ、ギシッとベッドが軋む。顔を上げると、真之さんが私に覆いかぶさっていた。

「え……ま、真之さん」



 ――まさか。



 私の顔に真之さんの端整な顔が近づいてきて、思わず目をつむる。軽いリップ音がつくようなキスをされた。

 いつもキスしているときは目を閉じるので、真之さんの顔を見たことがないけど無表情な気がする。

「……ん、真之さ……んっ!」

 ……で今に至る。



 +++



 カーテンからこぼれ出した日差しが私の目を刺激した。うっすらとまぶたを開く。

 ベッドから起きようとしたけれど、身体が動かない。筋肉痛のように身体中が痛いのもあるけれど、真之さんに背中から抱きしめられていたからだ。

 真之さんはいつも迎えに来たときだけ私を抱く。

 どうしてその時だけ私を抱くんだろう?

 たぶん、本命の女性に会えなかった時とか欲求不満の時だと思う。つまり仕方がなく抱いたってことだ。別に私は嫌なわけじゃない。むしろ、一応婚約者の私は相手にされているんだと思えるからだ。



 ――……だけど、終わった後に抱きしめて眠るのはやめてほしい。



 彼は抱いた後、いつも私を後ろから抱きしめて眠る。

 なぜだろう? 一人だと眠れないのだろうか? まあ、傍にいれば誰でもいいんだろう。



 彼は、素っ気無い生活とは反対に情事だけ甘く優しい。その時だけ私を見てくれると実感できるのだ。たとえ身代わりだったとしても。

 だけど、これ以上優しくしないで。

 優しく甘いキス、仕草、雰囲気、気遣い。

 それが私に向けられている物じゃないことくらい知っているのに、私は愛されているって勘違いして泣きそうになるから。

 たった一度だけでも嘘の言葉を吐いてくれれば、大丈夫なのに。



 言うのを焦らすように優しくしないで。

 早く、私がくだらない勘違いをしてしまう前に。

 


「!」

 私の思考を邪魔するように来客を知らせる音が鳴った。



 ――誰だろう? 今日は土曜日なのに。



 真之さんの腕からなんとか抜け出し、モニターで顔を確認するためにリビングに向かった。

 モニターに写っていたのは、すこし化粧が派手で、ブランドものの服を身に纏っていて、にっこりとした笑顔を浮かべている――女性だった。


 

表現でおかしな部分があったので、修正しました。(3月28日)

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