(3)キスと抱きしめるわけ
すみませんが、誤字・脱字等ありましたら、ご指摘お願いします。
唇を甘噛みされたり舐められたりされた。それはひどく優しいキス。
「……ん、真之さ……んっ!」
私が口を開けるのを待っていたかのように、彼の舌が口腔に侵入した。
歯茎や歯を丁寧に味わうようになぞる。そして彼の舌は私の舌を絡めとり、強く吸い付く。
何度も角度を変えられて、喰われる――貪るようなキスをされた私の頭はもう働かなかった。頭がぼーっとしてくる。
――どうして、キスされてるんだっけ?
私は彼のキスに魅了されながら、麻痺している思考でつい先ほどのことを思い出す。
+++
道路脇に止まっている車の助手席のドアを開け、車内に身体を滑り込ませた。
「わざわざありがとうございます。いつもすいません」
なぜだか分からないけれど、いつも真之さんは私が飲み会や接待のときに迎えに来てくれる。
婚約者の肩書きだけの私に気を使わなくてもいいのに。
「………………」
彼――真之さんは何も言わずに、車を発進させた。無口なのはいつものことなので気にしない。
シートに身を埋めながら、流れている洋楽に耳を傾けた。
「――乃、雪乃」
身体を控えめに揺さぶられながら、誰もが魅了されるようなバリトンで名前を呼ばれて目を開けた。
どうやら私は眠っていたらしい。酔いが回っていたとしても助手席で寝るのは、運転している人に申し訳ない気持ちになる。
靄がかかったような思考が徐々にはっきりとしてきた。
「ごめんなさい、寝てしまって」
そう言って車から降りようとするけれど、何を思ったのか、真之さんが私の膝裏と背中に手を添えた。そして、私の身体が彼に抱きかかえられた。
「ええっ! あ、あの!」
――これって所謂お姫様抱っこって奴じゃない!?
「じ、自分で歩けますから、降ろしてください!」
私の言葉を真之さんは無視し、とっととマンションの玄関に向かい、エレベーターに乗った。
お姫様抱っこされるのは初めてだ。長身の真之さんにされているので、視線がいつもより高くなって恐い。だけどそんなことより、真之さんの匂いに包まれているようで、違う意味で緊張する。
――真之さんは重くないのかな。私、身長が160センチはあるのに。
不安に思って彼の顔を見上げる。彼はこれくらいなんてことないようで、いつも通り無表情でまっすぐ前を向いていた。
なんだが私だけが色々と気にしているようで、恥ずかしくなった。顔をそらし、俯く。
そうしている間に、エレベーターが到着した。
真之さんは軽々とした足取りで、部屋の前までいき、鍵を開けた。
――私を抱っこしながら、片手で開けたの!? なんて器用なんだろう。
「真之さん、靴脱ぐので降ろしてください」
すると彼は私を降ろした――わけではなく、私の靴を脱がせた。そして彼は自分の靴も脱ぐ。
「えっと、もう着いたので降ろしてもらっていいですか」
またも彼は無視して、ズカズカとリビングを通り過ぎ、寝室に移動した。
――なんで、寝室?
「うわっ!」
私は抱っこされていた姿勢からベッドに投げ出された。痛くはない。
私を覆う影ができ、ギシッとベッドが軋む。顔を上げると、真之さんが私に覆いかぶさっていた。
「え……ま、真之さん」
――まさか。
私の顔に真之さんの端整な顔が近づいてきて、思わず目を瞑る。軽いリップ音がつくようなキスをされた。
いつもキスしているときは目を閉じるので、真之さんの顔を見たことがないけど無表情な気がする。
「……ん、真之さ……んっ!」
……で今に至る。
+++
カーテンからこぼれ出した日差しが私の目を刺激した。うっすらと瞼を開く。
ベッドから起きようとしたけれど、身体が動かない。筋肉痛のように身体中が痛いのもあるけれど、真之さんに背中から抱きしめられていたからだ。
真之さんはいつも迎えに来たときだけ私を抱く。
どうしてその時だけ私を抱くんだろう?
たぶん、本命の女性に会えなかった時とか欲求不満の時だと思う。つまり仕方がなく抱いたってことだ。別に私は嫌なわけじゃない。むしろ、一応婚約者の私は相手にされているんだと思えるからだ。
――……だけど、終わった後に抱きしめて眠るのはやめてほしい。
彼は抱いた後、いつも私を後ろから抱きしめて眠る。
なぜだろう? 一人だと眠れないのだろうか? まあ、傍にいれば誰でもいいんだろう。
彼は、素っ気無い生活とは反対に情事だけ甘く優しい。その時だけ私を見てくれると実感できるのだ。たとえ身代わりだったとしても。
だけど、これ以上優しくしないで。
優しく甘いキス、仕草、雰囲気、気遣い。
それが私に向けられている物じゃないことくらい知っているのに、私は愛されているって勘違いして泣きそうになるから。
たった一度だけでも嘘の言葉を吐いてくれれば、大丈夫なのに。
言うのを焦らすように優しくしないで。
早く、私がくだらない勘違いをしてしまう前に。
「!」
私の思考を邪魔するように来客を知らせる音が鳴った。
――誰だろう? 今日は土曜日なのに。
真之さんの腕からなんとか抜け出し、モニターで顔を確認するためにリビングに向かった。
モニターに写っていたのは、すこし化粧が派手で、ブランドものの服を身に纏っていて、にっこりとした笑顔を浮かべている――女性だった。
表現でおかしな部分があったので、修正しました。(3月28日)