(2)秘書としての日常
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ノリと勢いで書いた駄文をたくさんの方々に目をとおしていただき、嬉しい限りです。
これからもよろしくお願いします。
いつも通りに真之さんが出勤した後、私も出勤する。
最初、私が婚約しても仕事を続けることに真之さんは渋っていたけれど、何とか納得してもらった。
実はそこまでして仕事を続けたかったわけではなく、ただあの家にいたくなかったからだ。あそこにいると、寂しさや切なさが胸の中に湧いてきて惨めな思いになる。それが、苦痛で嫌だった。
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私が勤務するのは、幅広く事業展開している大手のとある会社だ。そこで働いてまだ三年目だ。最初の一年は総務に所属していたけど、二年前に秘書課に配属された。有能な人材ばかりで皆が憧れている秘書課に私なんかが行っていいのか、今でも心配なのだ。
私が考えている間に、エレベーターのドアが開き、私は歩き出した。
ここでは社員の姿は他のフロアに比べれば少なく、重々しい雰囲気が滲み出ていた。同じフロアには、秘書課のほかに社長室や副社長室があるので、余計に空気が張り詰めているように思う。
秘書課のドアを開き、自分のデスクに向かう。
「おはようございます」
「あら、おはよう」
私の先輩である田口綾子さんだ。二児の母親であると同時に秘書課のベテランでもある。
「おはようございます、先輩」
完全な仕事用のお堅いあいさつをしてきたのが、伊東千尋ちゃん。私の一つ下なのに、クールに仕事を完璧にこなる生真面目な後輩だ。でも、ちょっと天然がはいってるけどね。
秘書課にはまだ人がいるけれど、まだこの二人しか来ていなかったようだ。
自分のデスクには、仕事のメモや付箋が所狭しと張られていた。それを順々に目を通していくうちに――またこれか。
『徹夜明けで寝ているよー♪ 起こしてくれるよね、ゆきのーん? 副社長より★』
私はメモを片手で握りつぶし、溜息をついた。すると、綾子さんはクスクスと笑う。
「また、いつもの?」
「はい、すいませんが、ちょっと行ってきます」
秘書課を出てエレベーターに乗り、下の階のボタンを押す。
――どうして、あの人は自己管理が出来ないのかな。
自分の上司である男を思い浮かべ、私はもう一度溜息をついた。
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私は、そっと仮眠室のドアを開けた。出来る限り足音を立てないように歩き、ベットの脇に移動した。
ベットの中から規則正しい寝息が聞こえてくる。
どうやらまだ寝ているようだった。
――しょうがないか……。
「起きてください。副社長」
声をかけながら、身体を揺する。副社長は声をかけるだけでは起きないので、仕方がなく強めに揺する。
「……う、ん。まだ……待って」
――何寝ぼけたこと言ってるのよ、この男は。
「待てません。もう朝ですよ、起きてください。今日こそは溜まっている書類を片付けてもらいますからね」
最終手段として布団をもぎ取った。そして見えてくるのは、栗色の髪に眠そうな整った顔、がっしりとした体格。
副社長は目を擦り、欠伸をしながら伸びをした。
「んー、おはよう。ゆきのん」
「おはようございます、副社長。毎度のことですが、そのふざけた言い方はやめてください」
栗色の髪に芸能人のように整った顔、女性に接する態度から副社長――加賀辰哉は社員の女性達から『爽やか王子』と呼ばれる。美形であるため、副所長の彼女を狙う女性達は数多い。
「じゃあ、ゆっきーか! いいね」
そう言って、清々しいほどの爽やかな王子スマイルを浮かべる。……たぶんこの笑みにノックアウトされる女性は多いんだろうけど、私は騙されない! 皆、外見に騙されているだけなのだ、内側は全然違うのに。
副社長は外見はいいが、中身は遊び人(?)だ。秘書課の皆に変な愛称をつけたり、仕事をサボって会社内で女性と話したりしている。さすがに会社内ではないが、外では女をとっかえひっかえしているらしい。
こんなので副社長が務まるのかと心配になるが、いつも期限ギリギリに書類などを済ませるのでやる時はやるらしい。だけど、期限が迫ってきて焦ってやるのは、秘書の私としては御免なところだ。
「なに意味が分からないこと言ってるんですか。今日が締め切りの書類があるんですから、今からやってもらいますから」
「えー」
「えー、じゃありません」
「はいはい」
「はいは一回です」
「ゆきのーん恐いよ。笑顔が大切だよ?」
――誰のせいだと思っているんですか。
この上司に付き合っていると、別の意味で疲れてくる。身構えているつもりなのに、いつも彼のペースで振り回されてしまうのだ。真之さんの見合いがいい例だ。ちなみに性格が全然違うが、実は副社長と真之さんはいとこ同士だったりするのだ。
――今日は残業になるかもしれない。
私は今日何度目か分からない溜息をついた。
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「……で、雪乃はその電波副社長に振り回されているわけか」
「まあ、電波ってほどじゃないけど。……うん」
一日の仕事を終えたとき、大学からの友達である久世花奈に飲みに行こうと誘われ、今に至る。
「でも、性格はあれだけど、外見はイケメンなんでしょ? うらやましいー」
そう言って、花奈はジョッキを傾けてビールを流し込む。
見た感じお姉さん系で綺麗な花奈だけど、実はすごい酒好きだ。花奈の会社の飲み会で、男相手に飲み比べしたところ七人を落とさせたらしい。あんたは、酒豪か。
「何それ、他人事だと思って。私の身になってみてよ、大変なんだから」
「でもイケメンよ!? 目の保養になれば、多少の事は我慢できるわ」
そして、花奈は生粋のイケメン好きで首フェチだ。タイプは年上で首ががっしりしている人らしい。……フェチじゃないから、どこがいいのか分からない。
「でも顔だけじゃん。イケメンだと思ってても無理」
「あー、そっか。もう雪乃にはイケメンの婚約者がいるもんね」
「イケメンって……まあ、そうだけど」
花奈には真之さんのことをある程度話しているので、多少は知っている。でも、仮面婚約だなんてことは知らないし、話そうと思ったこともない。花奈は面倒見がいいから、余計な心配をかけさせたくないのだ。
「そうだ! イケメンといえば、こないだ見つけたんだけど。顔とか首とかめちゃくちゃいいのに、口が悪くて性格最悪だったの! なんか、命令口調で偉そうだし、何様だっつーの!」
「へえ……」
飲んだり、話をしたりしているうちに、携帯の着信音が鳴った。これはメールかな。
『From 一ノ瀬真之
件名 無題
本文 迎えに来た。待ってる』
やっと主人公の名前だけ出てきた(笑)
今回は主人公の周りの人物について紹介したいがための説明文です。
私にとって、オフィスは未知なる物なので、会社などの設定は想像となっています。なんちゃってオフィスです。
元々書くのが遅いですが、最低でも週一のペースでいきたいと思います。
これからもよろしくお願いします。
(※今更になりましたがR15タグをつけさせてもらいます。遅くなってすみません。)