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何度も愛を囁いて  作者: 林田一樹
~本編~
1/11

(1)私と彼と仮面婚約

王道のような甘い話が書きたくて、思いついた話です。

 どうして、私なのだろうか?

 肩にかかる程の焦げ茶色の髪。奥二重の目。すこし厚い唇。丸い輪郭。

 鏡を見て分かる印象だ。ごくごく普通だと思う。強いて挙げるとしたら、物凄く童顔であることくらいだった。

 もう一度、鏡を見ながら首を捻る。どうして私なのだろう?

 何度目か分からない溜息を吐く。

「……私は普通だったはずなのに」

 普通に生活して、仕事してたはずなのに、どうしてあの人と関わることになったんだろう?

 私には手のとどかない雲の上にいる存在なのに。



 玄関から鍵が開く音が聞こえ、私は立ち上がり玄関に向かう。

「お帰りなさい」

「ただいま」

 疲れたのか掠れ気味の低音が私の鼓膜に響いた。

 短くも長くもない黒髪に鋭い目。目も鼻も口も耳も、顔の全てが十分に整っている。まちがいなく女性にとてもモテるだろう。

 彼は着こなしていたスーツのネクタイを片手で緩めながら、もう一方の手で髪をクシャクシャと乱す。そんなさり気ない仕草がかっこよく見える。

 そんなイケメンなのに、どうして私を彼は……婚約者に選んだんだろう。

 私なんかよりもっと相応しい人がたくさんいるのに。



 +++



 一ノ瀬真之いちのせまさゆき

 国内でも有名な一ノ瀬グループの御曹司兼社長である。そして私の婚約者。

 真之さんの要望から、私は彼と同棲している。

 彼は、頭脳良し、運動良し、ルックス良しで非の打ち所がない完璧な人。



 そんな彼と私が出会ったのは、1つのお見合いだった。



 とある会社の秘書を勤めていた私は、直属の上司である副社長からお見合いの誘いをされた。私はするつもりはなかったけれど、副社長から熱心に勧められて断るわけには行かなかったので、仕方なく誘いを受けた。

 適当に済ませようと思っていた私を待っていたのは、真之さんだった。一応、秘書の立場であるから副部長を通して会ったことはあるけど、実際に面と向かって話すことは初めてだった。



 緊張と驚きで固まっていた私に真之さんは淡々としていた。

 ――真之さんはモテるし、お見合いなんてしなくてもいいんじゃないの。そりゃあ、年考えるとそろそろ身を固めたいと思うけど。

 真之さんは私の5歳年上で30歳だ。でも外見は絶対30に見えないくらい、若々しくかっこいいのだ。

 ――だけど、何で私なのよ。どっちも初見じゃないんだから気まずいんだけど。

 できるだけ表情を顔に出さないように、秘書の営業スマイルで接していた。頬が引きつるほどに。

 心の中では、早く終わってほしいとだけ願っていたのだ。



 特に何もなく、お開きになった。さらに残業をしたくらい、どっと疲れた。

 もう彼とは仕事上だけで会うはずだし、私とは縁のない人だ。

 今日は楽しかったです。さようなら――と、言おうとして口を開いた私に真之さんは最大級の爆弾を投下した。



「結婚してくれないか」



「……はい?」





 +++



 結婚。

 それは、社会的に承認された終生にわたる永続的な一定の共同体を創設することを目的とする契約である。

 つまるところ、愛している人同士が半永久的に一緒にいたいがために、するものじゃないの?

 いきなり言われて冗談じゃないぞと思った私は、何とか彼を説得しようとしたが無駄だった。

 すでに彼の中では決定事項としてなっているんだろう。頑として聞いてもらえなかった。

 まあ、何とか粘って結婚ではなく、婚約ということにしたけど。

 ところで、どうして真之さんは結婚しようなんて言うの?

 見合いしたばっかりで腹の中で何考えているのか分からない女に、いきなり求婚する?

 まさか彼は騙される可能性があると思わないのだろうか。いや、騙すつもりはないけど。



 そうすると、じゃあ何で私に求婚したのという疑問になる。

 


 ①見合いで一目惚れ説。

 ありえない。私は自惚れるつもりはない。だって、この平凡な顔で童顔っぷり。最悪、高校生に間違われるほどの幼顔で子どもっぽいのだ。もし彼が少女嗜好者ロリコンだったら、容赦なく平手打ちだ。

 しかも見合いの時は、頬が引きつるくらい不自然な営業スマイルだった訳で、どう考えても一目惚れの線はありえない。

 というわけで、却下。



 ②ドッキリでした説。

 実はお見合い自体が嘘でしたーっていうドッキリかもしれない。副社長もグルだったみたいな。

 ……信憑性に欠けるかな。というわけで却下。



 ③形だけの結婚説。 

 彼は社長であるから、結婚の話がたくさんくるのだろう。それで、彼は早く結婚したかった……一番説得力のある理由だ。そう思えば、私を選んだのが納得できる。ようするに表面上の結婚を引き受けることができる女を捜していたんだろう。



 もしそうだったとしたら、とても残酷で悲しい。できることなら、そうじゃないって願いたい。

 だけど、彼はきっとそのつもりなんじゃないの? 

 友達の花奈には考えすぎだと言われたけど、毎日真之さんと暮らしていて実感したの。

 冷め切ったような生活。耐え切れないような沈黙。

 まるで、仮面夫婦ならぬ仮面婚約だ。まさにその通りだと嘲笑する。

 真之さんは、いつも無口・無愛想・無表情の鉄壁の仮面を被っている。特に何も自分から話そうともしない。だから、婚約の理由や「好き」や「愛してる」とかいう愛の言葉も言うはずがない。そんな言葉は出会って一回もない。それらしき言葉なら、「結婚してくれないか」だけだ。

 愛の言葉は簡単にはでないもの……だから、上辺だけの婚約者である私には必要ないんだろう。

 言葉だけで愛を語る人は嫌いだけど、何も語らないことはもっとつらい。彼はそれがわかっているのだろうか。

 愛を言ってくれない。それは、安っぽいような理由だと思う。だけど、不安で不安で仕方がない。そして段々と、悔しくて自分が惨めな気持ちになってくる。どうして黒い感情だけはすぐに湧いてくるのだろう。

 そんなに嫌なら、婚約すらも破棄したらいい。

 分かっている、頭の中では分かっている。

 だけど、だけど。

 どうしてもあなたが私に差し伸べた手を振り払って、その冷たくて深い輝きを秘めた眼差しを裏切ることはできなかった。



 ――少しだけでもいい私を見て。

 もう仮面を着けたままでもいいから。

 もう私ではなく、ほかの女性を愛していてもいいから。

 これからの冷たい氷の生活に耐えられるような、甘いげんそうを私にください。



 だから、お願い。

 たった一度だけでも、私の望む言葉をささやいて。




……あれ、主人公(私)の名前が出てきてない(汗

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