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From Cier, Dear me

作者: 有栖川 悠歌
掲載日:2026/03/15

この小説は、有栖川悠歌至上類を見ない駄作である。誤字の校閲すらする気が起きず、ひとまずそのまま投稿する。数日後に確認して修正は入れるつもりである。

またこの小説には、嘔吐の描写がある。不快な方は読まないことを進める。

  一

 僕がこの家に来たのは、夏の終り頃だった。この家には僕と同じような仲間がたくさんいたが、ご主人は随分と僕の事を気に入った様だった。ご主人は僕に「シア」と名前を付けた。更に、ご主人のお気に入りのスカーフを一枚、苦しくないように僕の首に巻いてくれた。ほかの仲間たちには無い特別待遇だった。

 ご主人は不思議な人だ。十分熱い初夏に、くるぶしまである長いコートを着て、常に長袖を着ていた。家に誰かを招くたびに、「季節外れの革は流石にもうやめる」といって笑っていた。ご主人は、女児向けアニメが好きだったり、スカーフを集めていたり、僕らと暮らしてるのもそうだが、男なのに矢鱈女々しい趣味をしている。いつも空が暗くなって随分経ってから、枕もとの僕らの頭を撫でて、布団に頭まで潜り込んで、空が明るくなっても寝ている。友達と話している時の情報によれば、ご主人は「チュウヤギャクテン」らしい。僕には何のことだか、あまりよくわからなかった。ご主人はよく一人で喋っていた。一人で喋っている筈なのに、どこからか別の人の声が聞こえた。きっと僕には声だけしか聞こえない、「特別な友達」がいるんだろう。その「特別な友達」は二日に一度ほど現れたが、僕がこの家に来て二週間もしないうちに、めっきり現れなくなってしまった。更にご主人は、一枚の写真をよく眺めていた。なんだかよく見えないけれど、ニンゲンの写真のようだった。ご主人はよく僕を膝にのせていた。大学の課題をするときや、本を読む時、僕の頭を撫でながら、時折尻尾をもふもふしながら。ご主人は僕を大切にしてくれる。だから僕もご主人が好きだ。

 ご主人と暮らし始めて少しすると、ニンゲンの事がだいぶわかって来る。面白いのは、ニンゲンが持っている変な板。この板は大きかったり小さかったりするが、触ると光る。いろんなものの形に光る。更に、音もなる。ご主人はよくこの板で歌を聴いている。よっぽど好きなのか、同じ声の歌をずっと聞いている。それと、空が明るくなり始めるころに、大音量の歌が響き渡り、ご主人はそれを、僕らを撫でるときからは全く信じられない力で叩いて投げ捨てる。この時、どうやらご主人は意識が無いらしく、起きると毎度この板の所在を探して家の中を歩き回っている。

 ご主人はよく、この板と会話している。しばらく聞いていると、どうやらこの板の更に向こう側に他のニンゲンがいるらしい。低めの、女の子と思わしき人の声がよくこの板からなっている。離れたところで同じような板を持った人と会話できるのだと、段々わかってきた。そして、結構な頻度で話しているこの女の子はきっと、ご主人の大事な相手なんだろうということもわかった。


  二

 僕がこの家に来て何か月か経った頃、ご主人がすごく落ち込んでいる時期があった。時折「うー」とか「あー」とか、変な声を上げる。落ち込んでいると同時に、何かに悩んでいるようだった。例の女の子と話すと、ご主人は少し元気になった。やっぱり、この女の子はご主人の大事な相手なんだろう。ご主人が元気だと、僕はご主人の膝の上にのせられて、頭を撫でられているから幸せだった。

 少しして、ご主人が落ち込んでいることは減った。きっと悩み事が解決したのだろう。だんだんと寒くなって来て、布団の中でご主人が、僕を抱きしめて寝るようになった。やっぱりご主人は女々しい男だ。しかし幸せではあるから、何でもよかった。この頃からご主人は、あの一枚の写真をぼうっと眺めていることが無くなった。そんな日々が続いて行く内に、家に一人の女の子が訪ねてきた。長い茶髪をさらっと流した、きりっとした顔立ちの綺麗な女の子。声をよく聞くと、例の女の子だ。名前はよくわからないから、僕はNちゃんと呼ぶことにした。その日、僕の特等席はNちゃんに取られた。ご主人はNちゃんが家に来てすごく楽しそうだった。一緒にご飯を作ったり、お酒を呑んだり、出かけたりしていた。でもご主人は、絶対に僕たちをないがしろにはしなかった。Kちゃんに、「一番のお気に入り」と紹介したのは僕だった。そのあと順番に他の仲間たちを紹介して、Nちゃんにも撫でてもらった。僕らは、ご主人がNちゃんを大切に想う気持ちがわかった。

 三日ほど経ってNちゃんが風邪を引いた。ご主人はやっぱり優しくて、自分の学校の課題をやりながらNちゃんと一緒に寝たり、ご飯を作っていた。ある程度体調がよくなって、Kちゃんが家に帰った。ご主人は少し寂しそうだったが、やっぱり楽しそうで、少し前の落ち込んでいたのはすっかり元気になった様だった。


  三

 寒さが落ち着いたり、すごく寒くなったり、そんな変な季節になって来た。ご主人は相変わらず真っ黒いコートで出かける。時折Nちゃんを連れて来て一緒にお酒を呑んでいた。特に変化も無く、ご主人も元気なある日の夜。ご主人の板がぶるぶると震えた。ご主人は板を見るとびくっと身体を震わせて板を手から落とした。何か良くない事なのかと思ったが、次の瞬間には途端にうれしそうな顔で、急いで板を拾い直すと、板と話し始めた。成程、Nちゃんと話すのかと思ったが、どうやら違うらしい。板から聞こえてくる声がいつもより少し高い、ふわふわした声だった。Nちゃんはもっとハキハキと話す。何よりご主人の口調が、Nちゃんと話す時より幾分か嬉しそうなのだ。よく聞いていると、言葉遣いが丁寧だったり、口調が優しかったり、二人称が「お前」じゃなく「君」になっていたり。稀に「お前なぁ」と言っている時は、話の流れでふざけている時だ。総じて、Nちゃんと話している時よりもご主人は幸せそうなのだ。その日はすごく長い時間、その子と話していた。僕は、ご主人の発する言葉にすごく違和感を持った。それが何なのかはよくわからないままだったが、その日ご主人はすごく幸せそうに布団に潜った。

 別の日にも、その子の声がご主人の板から聞こえた。今度の御主人は、板が震えた瞬間に、傍らに置いてあった板に飛びついてすぐさま話し始めた。やっぱりすごく幸せそうに話している。この日はご主人が急に立ち上がって、机の上の、数字がたくさん並んでいる紙に何かを書き込んでいた。「楽しみにしてる」と言っていた。どうやらその子と会う約束をしたらしい。Nちゃんとはよく会う約束をしているのに、その子と会う約束する時の方がうれしそうなのである。人によってそんなにも違うのか。どうやらNちゃんよりも、板の向こうのあの子の方が、ご主人にとって大事な女の子であるらしい。

 その日も長い事ご主人は話していたが、次の日はNちゃんと出かける日ということで「予定があるからお休み。」と、やわらかい声でご主人が告げ、その日の会話は終わった。次の日、Nちゃんと出かけて帰って来たご主人は少し元気がなかった。数か月前のあの時のように、落ち込んでいる様な、悩んでいる様なそんな素振りだった。


  四

 ご主人があの子と話している時の違和感が、最近わかってきた。ご主人はあの子と話すとき、よく「好き」と口にする。はっきりとあの子に向かって、「君のことが好き」と口に出している。僕はかれこれ半年ご主人を見てきた。ご主人のことは大抵わかるようになってきた。ご主人の「好き」はとても珍しい。お酒に関しても「好き」というのは唯一本のお酒だけ。歌手に関してもナントカという歌手に対してしか「好き」と言わない。Nちゃんに対してもご主人は、一度だって「好き」といったことは無いのだ。一緒に寝たり、抱きしめたりしているのにただの一度だって。よく思い出すと僕にだって「お気に入り」としかいったことが無い。なのにあの子に対しては、一度の電話で何度「好き」といったかわからない。

 だがご主人の家に他の友人が訪ねて来た時と、Nちゃんが家に来た時の態度を比べて見るに、Nちゃんの事もご主人はすごく大事にしている。それは間違いない。ご主人は自分にとって大切なモノとしている「好き」を、一度に二人作ってしまったのだろう。優しいご主人の事だ。きっと、そんな状況に対して自分を責めているのだろう。日に日にご主人は、元気が無くなって、でもあの子と電話をするたびに元気を取り戻すという、ぐちゃぐちゃの情緒でいた。

 ある日、ご主人がビーフシチューを作ろうと台所に立った時、またご主人の板が震えた。今日はなんだか様子が違う。玉ねぎを切りながらご主人は、いつもあの子と話すより、更に嬉しそうに話していた。三十分ほど経ってご主人が戻って来た。板を机の上に立てかけて板に向かって話している。板の光が動いていたのでよく見ると、その光はニンゲンの形をしていた。この板には、別の板を持った人と会話ができるだけでは無くて、会話の相手の様子を見ることも出来るらしい。随分と便利な板だ。

 黒い短い髪、少し垂れ眼がちの、はっきりした目元。柔らかそうな頬を緩ませてふにゃっと笑っている可愛らしい女の子。そう、その子が「あの子」なんだね。Nちゃんとは随分見た目の違うタイプの女の子。声だけでもかなり違ったけど、顔を見ると本当に違う女の子。ご主人はきっと、見た目以外で人を気に入るタイプなんだろう。そこまで考えて、僕の頭にぴしゃっと、一つの記憶がよみがえった。声だけの情報だったから気付きにくかったこと。それは僕がこの家に来た頃、ご主人がよく会話していた「特別な友達」の記憶。誰もいない筈なのに声だけ聞こえるご主人の話し相手は「あの子」だった。初めは板に気付かず、声だけしか認識できなかった訳だ。そのころご主人がよく眺めていた写真も思い出した。流石にこちらは朧気な記憶だが、なんとなく印象は、板が見せている「あの子」と似ている。ねえご主人。本当に見た目ではない所で人を好きになるの。それとも…。ここまで考えて僕は考えることを辞めた。きっと今日もご主人は遅くまで話しているだろう。今日は僕はそのまま寝てしまおうと思った。


  五

 朝早くに板から音が鳴った。普段は意識も無く音だけとめるご主人が、この日だけはばたっと飛び起きた。そのまま上着を着こんで、僕らを布団の外に出した。窓を大きく開けたご主人が布団を外に持って行った。普段は日が出ているぎりぎりにやっと布団を干すご主人が、こんなに空が明るい時間に布団を干している。これはただ事ではないと僕らは思った。手早く布団を干したご主人は、鼻歌交じりに風呂場へ向かった。寝起きのご主人がこんなに機嫌がいいことなど、これまでありえなかった。早い時間にNちゃんと予定があるときも、大きな荷物を背負って出かけ、すごく晴れ晴れとした顔で帰って来る日の朝も、こんなに清々しく起きるご主人は見たことが無い。風呂場から出てきたご主人は、何度も鏡の前で髪型をチェックし、羽織ったシャツのボタンをどこまで留めるか試行錯誤し、コートの襟を何度も何度も整えた。

そっか。今日は「あの子」との約束の日なんだね。行ってらっしゃい。ご主人は二時間ほどかけて身支度をした。ある程度服装が決まると布団を取り込み、気分も表情も晴れ晴れと出かけて行った。僕らは布団の外の床にみんなで並んでその様子を見ていた。床が随分冷たく感じた。


 ⁂


 夜遅くになって、ご主人が帰って来た。楽しそうに顔を洗って、「あの子」と話した夜以上の幸せそうな顔で、干したてのふかふかの布団に気持ちよさそうに飛び込むご主人。を、僕らは待っていた。実際は違った。お気に入りのコートの片方の肩はずり落ちて、ばっちり整えた髪はぐしゃぐしゃになっていた。鏡の前で真剣に塗ったアイシャドウは見る影も無く剥がれ落ちて、目元が真っ赤なのが暗闇でもわかるのは、顔のそれ以外の部分が真っ青だからだろう。ご主人は手に持っていた鞄を床にぼてっと落とし、半分脱げたコートを乱雑に放り投げると、よろよろとトイレに向かって行って、ドアを開けっぱなしにしたまま便器に向かって蹲った。びたびたと水音が聞こえては、喉の奥から咳込む音が聞こえた。

 暫くして布団のほうに来たご主人は、片手に持っていた袋を枕もとに放り投げ、反対の手に持っていたペットボトルの水を一気に煽って、殻になったボトルは投げ捨てた。乱雑というより、憤りをぶつけたような動作だった。そのまま布団に倒れこんだご主人は、さっきご主人の手から落ちた鞄と同じ様相だった。布団に突っ伏したままご主人は泣き出した。傍にいてあげたかったが、僕が動けるのはご主人が手に取ってくれた時だけだからどうしようもない。すでに真っ赤な目を更にこするご主人に、「それ以上こすったら目を傷めて仕舞うよ」という僕の声は、きっと届いていなかっただろう。ご主人は泣きながら、そのまま眠った。

 三時間ほど眠った後ご主人はよろよろと上半身だけを起き上がらせた。夜中に枕もとに放った袋を取り上げて、その中にまた吐いた。黄色い胃液が滴るご主人の口の向こうで、透明な雫が滴るご主人の目元が見えた。袋の口を縛ってごみ入れのほうに向かったご主人は、水をグラス一杯片手に帰って来た。それを少し飲んでテーブルに置くとき、僕の尻尾を踏みつけた。ご主人お気に入りの僕の、特にお気に入りのふわふわの尻尾。よくご主人が寝ながら、乃至膝の上に載せながら触っている僕の自慢の尻尾。泣きはらしたガサガサの声で力なく「ごめん」と呟いたご主人は、僕を始めて家に迎えてくれた時の、キラキラした眼も、昨日の朝出かけた時の浮足立った笑顔もどこかに落としてきてしまったんだと思った。

 もうひと眠りしたご主人はやっと、普通に布団から出てきた。でもやっぱり元気はない。数か月前の元気のないご主人とは比べ物にならない程の落ち込みぶりだった。ご主人の板が震えた。あの子の声がした。あの子がいろいろ言葉を発し、ご主人は何か言おうとしたけどすべて遮られた。最後にごめんとだけ言って、会話が終わった。ご主人、また自分が全部悪いことにして苦しむんだね。ご主人は僕の頭を撫でて、また布団に潜って震えていた。


  六

 それからご主人は、二日間は家から一歩も出ずに、電気も付けずに布団の中で蹲っていた。次の日出かけて行ったご主人は、手に何かビニール袋を持って帰って来た。暫く全く触っていなかったデスクの上をバサッと空けると、持っていた袋からノートのような物を取り出して、僕を膝にのせてデスクに向かって坐った。丁度良く見えない何かをご主人は、また泣きそうになりながらずっと書いていた。ノートのような物からぺりぺりと紙をめくっては、何かを書いて、ぐしゃぐしゃに丸めて放り棄てる。そんな作業をずっと、六時間ほど続けていた。

 小さく「よし」と呟いたご主人は、今度は茶色くて細長い紙を取り出してさっと何かを書き、黒く小さな円柱形の何かを押し付けた。その時、赤い印が茶色い紙についた。さっきまで書いていた、ぐしゃぐしゃにしなかった紙を丁寧に畳み、どうやら袋になっているらしい茶色い紙の中に慎重に仕舞った。その茶色い紙の袋を、ご主人が大事なものを保管している鳥の絵の描いた黄色い缶に仕舞った。その時、ご主人が袋に書いた文字だけが見えた。カンジと云うものだろうか。不思議な記号が書いてある。それが何かは解らないけれど、ご主人はほんの少しだけ晴れやかな顔をしていた。ご主人は僕を枕もとに戻すと、いつの間にか用意していた水を一杯飲んで、布団に潜りこんで寝てしまった。

 眠ったご主人の顔はやはり元気が無く、まだ顔色も青かった。複雑な形だったが鮮明に思い出せる、さっきご主人の仕舞った袋に書かれた記号。意味は解らないけれど、ご主人の表情を見るにきっと良いものなんだろう。僕もご主人と一緒に眠ろうと思いながら、記号の形を思い浮かべた。

『遺書』


(終)


前書きにも書いたが、これは有栖川悠歌至上でも類を見ない程の駄作である。途中から何を書いているのか分からなくなった。路線を変え、大筋を変えなんとか最後まで書いたが、正直不快なものである。

この小説に関しては、公開するか否かも迷ったのだが、次のような理由でせめて公開はしようと思う。私の好きな作家はとある小説で「これを書き上げることは不快であった。もっと書いて居たかった。」と述べている。書き終りの「不快」という同じ言葉であるが、意味合いが全く持って違う。違い過ぎる。その悔しさを消し去って有耶無耶にするよりは、皆さんにひたすら不評を貰って形として残しておこうと思った次第である。

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