第9話
紹介された展示予定の品のなかに、ひとつ息を呑むようなものがあった。
長い鎖に足かせがついたその品がどういう代物なのか、この国の歴史と照らし合わせればすぐにわかる。
「それは奴隷商人の家にあった足かせで、売り物の時はその足かせに繋がれた状態で置かれていました」
足かせや鎖がサビ一つない新しいものであることがここが未だ奴隷制のある世界であることを伝えてくる。
「これ展示できないものだったりしますか?」
「いえ、ただ、歴史に圧倒されただけです」
置かれている展示候補品の中には命懸けで逃れてきた元奴隷獣人の私物や、無一文で逃れてきた獣人たちの暮らしの道具がいくつも並ぶ。
「写真や映像はないんですね」
「そうしたものは私達で所有していないので、日本側から借りる形になりますね」
生活の道具ひとつひとつから滲む個人史の重みに小さくため息を吐く。
ただこれを全部飾るとギチギチになるので減らした方が良いのでは?と提案すると「検討してみます」と言う返事が来た。
「次の展示物の確認もお願いしたいんですが……」
「その前に、少し休んでいいですか?」
部屋を出てお茶(ほろ苦いハーブティーを頂いた)を飲みながらふと考える。
現代の日本で暮らしていると奴隷や人身売買とずいぶん遠い世界にある。
しかしこの世界では奴隷になる事はすぐそばにある恐怖で、それが大阪にある自宅から日帰りで行ける場所に広がる世界なのだと言うのがなおの事恐ろしい。
大阪にも治安の悪いエリアはあるが、そうした場所でも人身売買など聞くことは無い。
(……いや、俺が知らへんだけなんやろうけどな)
子どもの頃に家族で吹田のみんぱくで見たアフリカの奴隷売買用の鎖に似ていたそれを、地球人はどう見るのだろう。
ぼんやりとそんな事を考えた。
*****
文化風俗の展示物として見せられたのは木工芸品や衣服などだがこちらは地球と異なる様相を見せている。
特に衣服は着用者の体形にに合わせて仕立てられているため腕と翼が一体化している人のために肩の部分が大きく開いていたりズボンなどには尻尾用の穴が用意されていたり、見たことの無い形に作られたものが多くを占める。
「マネキンを使った着用例もあると分かりやすそうですけど、スペース足りるかな……」
「それも考えたんですがスペースが足りなくなりそうなんですよね」
「じゃあ自由に触れて貰うというのは?試着などを通してこの世界の人たちの多様性を感じて貰えればいいかと」
「古着などを買い取って展示に回す感じですかね、検討してみます」
後は実際に着ている人の写真があるといいかもしれない、マネキンよりは分かりやすさに欠けるが試着と写真の組み合わせなら伝わりやすさは上がるはずだ。
最後の物販では、工芸品にプラスして大陸標準語の名札や名前入れを行う旨が伝えられた。
金属加工や製陶技術が不十分な都合で販売品目が木工品と未加工の鉱石に偏ってしまう(木工品と未加工鉱石が8割を占める見込みらしい)ため、プラスアルファの売り物として大陸標準語の名札販売や名前入れサービスを検討しているという。
「名前れに関しては木くずの処理も考えた方が良いですね」
「ゴミ箱ぐらいは自前で用意しますよ?」
「それはそうなんですけど、万博内のごみ処理についても色々決まりがありまして。その辺りの事お伝えしてなかったなと」
「なるほど」
細かい部分を詰めながらほんの少しこの仕事を楽しんでいる自分がいる。
力を合わせてみんなで何かを作るという魔力は確かにこの空間にも存在していた。




