第8話
翌日。初めて出会ったこの国の司法を治めるその人はふわふわの羽毛に包まれていた。
白と茶色の入り混じるふわふわの羽毛を持つ人間サイズの大きなフクロウと、同じくらいの背丈の青年がそこで待っていた。
「こちらの大きなフクロウの獣人が司法宮長のビャルキさんで、横に居られるのが副司法宮長で司法宮長の伴侶でもあるシメオンさんです」
ヘルカさんの紹介を聞いて獣人と人間のカップルというものに驚きを感じつつ簡単な挨拶を済ませる。
(……まあ、異世界ならあるんかな)
詳しいことは後でヘルカさんに聞いてみよう。
「今回万博展示物のうち、歴史関係の制作物は副司法宮長が担当してくださいました」
「へえ。文章とかはどうなってます?」
「副司法宮長の文章を私や私の仲間たちが手が空いてるときに訳してるんですが、ちょっと精度は……」
精度についてはどうしようもない、むしろ異世界の歴史を地球で読めるだけマシなんだろう。
(でも一緒に乗せる日本語以外の言語版翻訳は外部の専門業者に頼むとしても、絶対手が足んやろなあ)
作った本人から直接解説を聞きつつ日本語文の校正が出来る人はそう多くない。その辺も確認を依頼してきた理由の一つなのだろう。
「こちらに用意してます」
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案内された展示物は手書きの大きな年表だった。
大きさをはかると縦は約1.5メートル、横は5メートルほどで小さな部屋の壁一つ分を埋めるような感じだった。
「全部手書きですか?」
大陸標準語と見よう見まねで書かれた日本語・英語の文章が併記された年表は挿絵まですべて手書きで制作されており、熱の入り具合が伺える仕上がりだ。
日本語・英語ともに特別上手な字とは言い難いが十分読むことは出来る、
ヘルカさんが作ってくれたシメオンさんに確認すると「そうみたいです」と答えた。
ここに更に関連する物品を飾るそうで、大まかなイメージ図も見せてくれた。
幅1.5メートルほどの通路に歴史年表を張り、その下などに関連する品々をショーケースに入れて展示するという形だ。
「ショーケースはこちらで用意しますか?」
「いえ、私の方で確認して注文は出してるので大丈夫です」
「わかりました。ちょっと文章じっくり確認させて貰っていいですか?」
「どうぞどうぞ」
と言う訳で年表にじっと目を通す。
年表はこの世界の一番古い記録である初代教皇による魔術の誕生から始まる。
初代教皇は神との遭遇を通じ魔術を発見したことをきっかけに、当時はなんの特色のない生き物とされていた人間は神の現し身であり魔術は人間に与えられた恩寵であると悟った。
大陸中に魔術と信仰の普及したことにより他の種族を超えた圧倒的優位性を得た人間社会の中で、獣人やエルダール・ドワーフと呼ばれた人々は人間よりも下と言う観念が普及していく。
やがて神の現し身である人間のみの社会を理想とした教会による非人狩りが始まると、多くの獣人は生き延びるために人間に従う奴隷となることを選んだ。
そして今から13年前、この国の初代宰相であるハルトル氏をはじめとした獣人たちの夢枕に黄金の羊の女神が立ち奴隷身分を逃れてこの地で自由の身になるよう告げた。
夢枕の女神の言葉に希望を見出した人々はほんのわずかな身の回りの品を手にこの地に楽園を作らんとしたが、周囲を潜在的敵国に囲まれた彼らは交易が出来ず万が一の逃げ場もない。
そこでこの大陸から外と繋がる事を考え、魔術により日本と言う異世界の小さな島国と出会った。
日本と言う島国と繋がったことで政府や国連に認められ、西の国からの侵攻も乗り越えた。
「壮絶な歴史ですね」
文法や表現などの気になった部分に付箋を貼りながらじっと読み込んでいたので尚更その歴史に恐怖を覚える。
(……いや、こういう事は地球でも起きてたことか)
世界史を紐解けば似たような話は出てくるのだし、人間の愚かさは異世界においても同じということか。
「一緒に置く展示物もご覧になられますか?」
「じゃあ、お願いします」




