第7話
キャリケースに3日分の荷物を詰め込んで、大阪から東京へ。
さらに東京駅から上野へ辿り着くと、そこはもう異世界の入り口となる。
「お疲れ様です」
「こちらこそありがとうございます」
観光客に囲まれていたヘルカさんが俺を見つけてひらひらっと手を振る。
彼女を囲んでいた観光客の目が俺の方にも向けられてくるが、こういうのがちょっと苦手な俺は「早速行きましょうか」と彼女に声をかける。
「こうして見ると橘さんって日本人っぽくない容姿ですよね」
よく言われる言葉だが俺個人としてはあまり好かない言葉だ。
仕方ないとはいえ、なんで両親でなく会った事もない曽祖父の方に似たのかとぼやきたくもなる。
「曽祖父が外国人でして、そっちに似たんですよ」
「そうでしたか、北の国に行くと似たような風貌の人がたくさんいますよ」
「てっきり異世界には獣人しかいないのかと」
「私達の国は獣人が多いですが、他の国は人間主体ですよ」
ヘルカさんによれば異世界には地球で言うヨーロッパ系や中東系の容姿に近い風貌の人が随分といるらしい。
そこに獣人・ドワーフ・エルダールという3つの種族がおり、かつては人魚もいたとか。
手続きを終えればあとは異世界へ歩くのみ。
「では、行きましょうか」
***
初めて辿り着いた異世界の空は、地球と同じ青をしていた。
酷い車酔い状態になっていてもそれだけは分かった。
「お水お持ちしますね」
「……すいません」
異世界行きのトンネルでは酔う、という話は聞いていたが思っていた以上にひどい。
乗り物酔いした事ないから大丈夫だろうと思って酔い止めを持ってこなかった俺が馬鹿だった。
神殿の隅にあるベンチにもたれてげんなりしながらも、周囲を眺めてみればあっちもこっちもいやにもふもふしていてここは確かに獣人の国なのだと思い知る。
(本当に異世界って東京のすぐそばにあるんだなあ)
今や韓国・台湾よりも近い隣国となった金羊国はまさに異郷の光景だ。
街並みはRPGゲームのような近世ヨーロッパなのに行きかう人はもふもふの獣人たち、響く言葉も聞き馴染みのない謎言語。
「お水どうぞ」
「すいません」
なみなみと水が注がれた容器も曲げわっぱのような薄い木でできた三角錐の入れ物だ。
軽く水に口をつければよく冷えた天然水で、口当たりがまろやかで飲みやすくて雑味がない。
水を飲んだら車酔いがマシになっていた。
「そろそろ行きましょうか」
グッと体を伸ばして立ち上がれば「ご案内しますね」とヘルカさんが答えた。
二つの世界を繋ぐゲートのある神殿を一歩出ると、そこは小高い丘になっている。
東西から流れてくる川の合流地点とその周辺が街として発展しており、遠くにはこの国をぐるりと囲む山が見えてくる。あの山の向こうは大きな森林地帯で、それを抜けた先に別の国があるのだと言う。
山に囲まれた川沿いの街という意味では京都が似ているだろうか、けど京都の川に比べると川幅は大きめだ。
「この丘を降りたあたりが第一都市という政治と司法を管轄する街で、川を超えると第二都市という経済の中心地になります」
「川を挟んで管轄が変わる感じですか?」
「ですね。今日は少し散歩していきましょうか」
ヘルカさんに先導される形で丘を降りると、そこは真っ白な建物の居並ぶ街並みが広がる。
行き交う人もどこか真面目そうな人が多めだが、ヘルカさんは随分と顔が知られてるようで気軽に挨拶を交わしている。
「あちらが政経宮、この国の立法と政治を司る建物です。日本で言うなら国会議事堂と首相官邸を足したような感じですかね」
紹介されたのは大きな宮殿のような佇まいの建物で、ここがこの国の立法と政治の中心だというのも納得の佇まいだ。
「と言うことはこの国の総理……じゃなかった、宰相はここにお住まいなんですか?」
「その通りです、宰相として何かと多忙な方ですから職場の近くに住んでた方が便利なんですよ」
通勤は楽だろうが、ほぼ職場に住んでるような形となると全く気が休まりそうにない。
「その向かいにあるのが司法宮ですね、この国の司法を司っています。日本だと最高裁判所ですかね」
道を挟んで向かい側に建てられた司法宮は政経宮の双子のような印象を与えるが、政経宮に比べると少しこじんまりとした印象がある。
「なるほど」
「今回、万博の展示物の一部を副司法宮長にお願いしてるので明日お会いして頂く事になりますね」
「えっ?」
「じゃ、次行きましょうか」
突然ものすごい高官(?)と会う事が決定した俺の気持ちを無視して、ヘルカさんは次の場所へと俺を導くのであった。




