第6話
ヘルカさんから『万博展示物の制作現場を見に金羊国に来てみませんか?』という招待が来たのは冬の事だった。
掲示物が下書き段階まで完成したので意見を聞くついでに金羊国へ来て欲しいとのことである。
「掲示物だってデータ送って貰えれば十分なような……?」
『見て欲しいのは掲示物と一緒に展示する資料物品のほうですね、あとは外部の意見を聞きたいというのもあります』
「あー……ありますよね、作っててこれで良いのか不安になるとき」
人生で度々感じるタイプの不安であるし、気持ちはわかる。
でもこちらにも他の仕事があるのでそんなにフットワーク軽く行きますとは断言できない。
「南海課長から許可下りたら行きますね」
ちらっと課長の方を向くと現在は必死でパソコンに向かって何やらやっているし、周囲の同僚たちも自分の仕事に手いっぱいな様子が見て取れる。
この状態なら正直許可は下りないだろう、と高をくくっていた。
―30分後―
「わかった、行ってこい」
事情を聴いた南海課長は実にあっさりとそう言い放った。
「へ?」
「金羊国の展示は今回の万博の目玉のひとつや、その目玉展示のためなら多少融通利かせたる」
「いや、そんなノリでええんですの?」
「ええに決まっとるやろが、万博の仕事は一生に一度しかあらへんのや。俺は事務局配属が決まった時から出来る限り最高の仕事をすると太陽の塔に誓っとんのやぞ」
そういやこの人は吹田生まれの吹田育ち、しかもエキスポ70ドンピシャ世代。
人生2度目の大阪万博への強い意気込みを見込まれて課長に選ばれたという熱血人だ。
(そら多少自分の仕事キツなっても俺に行けって言うわなあ)
万博に対する思い入れゼロの俺とはそもそもの思考が根本から違うのである。
「今すぐは無理やろうから来月頭あたりならええやろ、予定は俺の方で調整したるわ」
そんな訳で、俺の金羊国出張が決まったのであった。
*****
「え、何それめっちゃ楽しそう」
出張の話を聞いた妹の第一声に「仕事やぞ」と思わず言い返す。
「仕事でも異世界行きとか楽しそう」
「異世界言うても実情はアフリカの貧乏な国とそう変わらへんみたいやしなあ」
仕事で関わるようになってから興味が湧いてちょこちょこ調べているが、金羊国は生活水準があまり高くない。
水洗トイレも大きなお風呂もない国に一週間は現代日本人的にはちょっとしんどい。
「ある意味人類未踏の地やし、しゃーなくない?」
「……せめて2日に一度は東京に戻らして貰おうかと思っとるとこや」
「そこまで嫌なんだ」
妹が若干引いてる気がするが、こいつはバックパッカーしてた時期があるから俺とは感覚が違うのだ。
衛生環境の整った日本から外に出ようとも思わない俺より妹の方があっさり金羊国に適応できる気がする。
「まあ最悪俺以外の奴に押し付けると言う手も……」
「担当者が行かんくてどうすんの」
ザクッと妹に突き刺されたところで、俺は旅の準備を始める羽目になるのであった。




