第5話
万博展示物づくりは基本的に金羊国が主体で行われるが、日本側の助力が必要な部分も多々あった。
「印刷物系は日本で制作したいんですね」
「我々の国にはいまだに活版印刷も導入されていませんからね」
なんか異世界なのでよく分からん魔法でいっぱい印刷できるのかと思っていたが、実際のところはそうでもないらしい。
「パンフレット類の印刷は我々で準備いたしますので、原稿は金羊国側でお願いいただく形でよろしいですか?」
「はい。あと展示物における日本語以外の展示についてなんですが……」
「日本語以外だと最低限英語だけあれば大丈夫ですよ」
本当は複数言語で展示があった方が良いのだろうが初参加でさすがにそこまで気を回すのも大変だろう。
俺としてはパンフレット類も日本語と英語の二か国語表記で回すのが最も妥当だと思う、余裕があればアラビア語やスペイン語版などもあってもいいのかもしれないが。
「ああいえ、そうじゃなくて大陸標準語で作った掲示物を日本語に翻訳することになる可能性が高いのでそのご相談をと思いまして」
「そっか、そういえばそうでしたね」
今まで出会ってきた金羊国関係者がみんな日本語を流ちょうに喋るので忘れそうになっていたが、彼らの世界には彼らの世界の言語がある。
となると、その前提で通訳担当者も必要になる可能性が高い。
「となると印刷物の原稿も完成に少し時間かかりそうですね」
「お手数おかけします」
ああだこうだと打ち合わせを進めていると、お昼を告げる時計が鳴り響いた。
時刻はお昼どき、すっかりお腹が空いてしまった。
「大阪のええもん食いに行きましょう」
****
事務所から少し離れた天保山のほど近く、マーケットプレイスの片隅に俺のお気に入りの店はある。
スパイシーなカレーを絡めたご飯の上にぽとんと落とされた黄色い生卵。
ヘルカさんの皿は串カツとたこ焼きが添えられており、俺の皿にはチキンカツが追加されている。
「これが大阪のええもん、ですか?」
不思議そうに見つめている黒猫の姿はなかなか可愛らしい印象を与えてくる。
「こっちの茶色いのはカレーですよね?東京で食べたものと全然違いますね」
「ええ、この店は事前にルーとご飯を絡めた状態で出すんです。食べるときは生卵とソースを絡めて食べるんですよ」
さっそく俺も卵とソースとカレーを軽く混ぜ合わせて一口頬張れば、スパイスの辛さととともに奥深い出汁や牛肉の風味が広がる。
(やっぱこれやなあ)
子どもの頃は辛さを強く感じてちょっと苦手だったが、大人になってからはこの混ぜカレーがときどき無性に食べたくなっては難波の本店に足を運んだものだ。
「結構スパイスが効いててますね」
「天保山の店は卵やチーズの追加もあるんでお好みで足してください」
難波の本店に無いトッピングの豊富さのお陰で毎日でも飽きない……と言うと少々言い過ぎかもしれないが、天保山の店はとにかく楽しみ方のバリエーションが広い。
難波本店の味わい深い雰囲気で食べるのも、天保山の店で思うがままにトッピングを楽しむのもどっちも楽しい。
「でもすっごく美味しいです!」
まっすぐにそう褒めて貰えるのも悪い気はしない。
(またそのうち大阪の美味いもん食べさせたなるな)
今回の万博は地球と異世界をつなぐイベントになるのだ、ならその前段階で彼女にこの街を知ってもらう事もきっといい万博の手助けになるだろう。
カレーとチキンカツをもぐもぐと頬張りながら俺はそんな事を考えていた。
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