第3話
金羊国が参加するしないに関わらず、万博の準備は進めていく必要がある。
けれど頭の片隅では金羊国が参加表明した場合に備えての事も考えておかなければならなかった。
結局、結論が出たのは7月中旬の事だった。
「我々金羊国は関西万博に参加いたします」
その表明はほどなくして世界中でこれまでの悪評を吹き飛ばさんばかりに報道され、国内外問わず問い合わせも殺到した。
万博参加の真偽から、パビリオンやナショナルデーの有無、日本語や英語が出来る獣人スタッフはいるのか?というものまで多種多様な問い合わせに思わずげんなりするほどだった。
「Le personnel reste à déterminer」「電話の幻聴が…‥」「アッこれロシア語じゃない?!」「Το περιεχόμενο της έκθεσης δεν έχει ακόμη αποφασιστεί」「엑스포 액세스는 홈페이지를 확인해 주세요」「金羊国の連絡先分かる?!」
問い合わせのあまりの多さにその日は事務局の仕事が止まり、ホームページやSNSを通じてよく届いた問い合わせの内容についての返事を繰り返し発信することでようやく鎮火させられた。
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翌週、金羊国大使が万博事務局にやって来た。
「この度は本当にご迷惑をお掛けしました!」
金羊国大使と黒猫の獣人が頭を地面に擦り付けんばかりに下げながら切腹最中を差し出してきたので、そこは自国のお菓子じゃないんか……と心の奥で突っ込んでしまう。
「いえいえ、万博のためですから」
上司がニコニコしながら最中を受け取ると、手の空いてた若いスタッフがお茶を持ってきてくれた。
全員がお茶を飲んで軽く一息ついたところで気になっていたことを聞いてみることにした。
「ところで、お隣に居はる黒猫さんは?」
「今回の万博担当に命じられました、ヘルカと申します!」
黒猫の獣人さんは黒くつやつやした毛並みに満月のようなまるく黄色い瞳を浮かべたヘルカさんが元気よくそう伝えてくれる。
「ということは万博についてはヘルカさんと直接やり取りする感じになりますか?」
「はい、ただ基本的にはあちら金羊国にいるのでその時は大使館に伝言を預かってもらう形になりますね」
とりあえずヘルカさんと全権大使のお二人と直通の連絡先を交換しあう。
最近ではついぞ見なくなった折り畳み式ガラケーをぽちぽちしながら操作する姿は正直微笑ましく見えるのは不思議だ。
「で、今回は万博展示物の内容についてご教授頂ければと思いまして」
「展示物ですか……」
具体的にこういうのが良いというアイディアを求められてるのだろうが、すぐに出てくるものでもない。
隣に居た課長の方を見ると「ちょっと待ってくださいね」と言って自分の机から数冊の本を出してくる。
「これは過去に国内外で行われた万博の案内雑誌です、これを参考にしたって下さい。橘、俺は自分の業務に戻るから俺の代わりに2人に付き合ったってくれ」
大阪・つくば・沖縄・愛知の国内4つの万博案内と上海・ミラノ・ドバイの万博案内雑誌が並べられる。
まあどういう展示物が良いのか?と言われても難しいのは事実だが、逃げられた気がしてならない。
「この辺は全部読んだんですけどねえ」
大使が困惑したようにそう呟くが、ヘルカさんは興味があるのかぱらぱらと雑誌に目を通す。
そうしてヘルカさんは一通りに目を通すと深くため息を吐いてこう告げる。
「これは無理だなあ」
「雑誌に載っているところは大体独自にパビリオンを建設して参加してる国がほとんどですからね」
「小規模なところの展示は紹介されてないんですか?」
「そこに載ってないなら見つからんと思います」
探せば資料写真も出てくるだろうが、すぐに出せるようなところにはおいてない。
「じゃあ、地球の人は私達の何に興味を持ってるか教えてくれませんか?」
降りかかった問いは単純なのに難解な響きをしていた。




