第2話
東京に来るのは高校の修学旅行以来だろうか?
新幹線とタクシーを乗り継ぎ大阪から3時間強、事前にアポイントは取っておいたが初めての場所過ぎて緊張が先に立ってしまう。
霞が関・外務省正門を抜けて目的の平行世界局へと足を向ける。
俺たちはみんな異世界異世界呼んでいるが、ライトノベルなどのイメージとの混同を避ける目的で公的書類では平行世界と呼ばれている事はあまり知られていない。
平行世界局の入り口の扉を開けると一斉に視線がこちらに向いた。
「関西万博事務局の橘ですー」
その時いちばん奥の席に座っていた人物がガタッと立ち上がり、小走りでこちらに寄ってきた。
「はじめまして、平行世界局局長の飯島です。すっかり忘れてしまって……」
「いえ、お気になさらず。今色々と多忙でしょうから」
実際、今の外務省平行世界局は相当バタバタしているはずだ。
異世界からの一時避難民の受け入れとそれに伴う膨大な量の仕事を必死で片づけているという時に、金羊国の万博参加誘致などという余計な仕事がやって来たのだ。
「大使館に行く前に万博誘致関係の事前情報の共有をお願いしてもいいですか?」
「いいですけど……」
佐藤、と呼ばれた少し細身でどこか無気力そうな雰囲気もある若い男性職員がやってくる。
「外務省平行世界局金羊国課の佐藤夢追さとう・ゆめおです」
「金羊国の万博参加が決まった時の担当はこの佐藤に任せます」
「了解です」
「みんな、俺は金羊国大使館に行くから持ってくもんあるか?」
全員から書類を預かると「小一時間ぐらいで戻るから」と言って俺と佐藤さんを連れ、大使館を目指した。
*****
在日金羊国大使館は麻布十番の雑居ビルに入居している。
その建物の階段を慣れた足取りで飯島さんと佐藤さんは慣れた足取りで登っていく。
「こんにちわー、外務省の飯島と佐藤ですー」
「あ、お久しぶりです」
そこにいたのは白うさぎの女性獣人とリスの獣人少年だった。
(うわ、めっちゃもふもふやん…‥)
テレビでは何度か見たことがあったが、実物を見るともふもふ感がすごい。
触ったら肌触りが良さそうな毛並みはまるでいいとこの飼いうさぎのようなふわふわつやつや感で、思わず触りたくなる。
「……で、こちらが万博事務局の橘さんです」
飯島さんに話を振られてから意識を取り戻し「関西万博事務局の橘言います!」と深く頭を下げる。
「えっと、橘さんは日本の方……?」
「ああ、はい。うちの曽祖父がロシアから逃げて来てそのまま日本に定住したんですが、曽祖父に似てしもたもんで」
自分の容姿の事は昔からよく聞かれることなので慣れているが、実際言われるとやっぱ俺日本人らしくないんやろうなーと思ってしまう。
(ま、どうしようもないけどな?)
いまここで祖父ちゃんひい爺ちゃんを恨んでもしゃあないし。
「そうでしたか。万博参加について詳しく教えて頂いても良いですか?」
事前に持ってきたパンフレットを鞄から取り出し、全員が見えるよう真ん中に置いておく。
「はい。万博参加の方法はふたつ、パビリオンとブースです。パビリオンは万博期間中に使われるおっきい建物を作らはっての傘下になります。こちらは結構お金がかかりますんで金羊国さんにはお勧めできません。
ブースはコモンズ館いう建物の一角にブースを出す形んなります。金羊国ブースは注目度が高いんで参加いただけるのであれば他より大きめのブースをご用意させて頂きます」
コモンズF館の見取り図から金羊国が使うことになるブースを蛍光ペンで塗ると、建物の半分を占める形になる。
(これは参加予定国の撤退が現実となった場合の最大想定やけど、まあこんぐらいあらへんと捌けんわなあ)
「ずいぶん広めですね」
「最大規模の想定ですけどね、最低でもこの三分の二くらいの広さは用意できる予定です」
「出す場合の予算見積もりなどはありますか?」
「展示内容と物販の有無なんかで変わりますが、ブース出展参加国の平均予算はこんな感じですね」
持ってきていた平均予算の表を見るとちょっと表情が曇る。
パビリオンで参加する場合の予算見積もりも一緒に持ってきたが、それでもやはり新興の小さな国には厳しい金額だ。
「もしご予算が厳しい場合、万博事務局から一定の支援もありますのでうまく行けば半分くらいに出来るかと」
これは小規模国家などの参加を増やす目的で行われており、金羊国も参加するのであれば支援が受けられうのは確認済みだ。
「わかりました。ですが我々では判断しきれません」
「承知しております」
「ご存じの通り、現在我が国は隣国からの侵攻を受けております。そちらが落ち着き次第結論を出しますので、最終閉め切りをお伺いしてもよろしいですか?」
この答えは想定内だ。
事前に上司から聞いていた情報やカレンダーを脳内で総合して、最終締め切りの日付を口にした。
「……遅くとも年内までに表明頂ければ」
金羊国にとって地球での自国のアピールの場として万博は逃せない場面である。
しかしそれを飲み込んでも参加できるかは、また別問題であろう。




