第19話
4月4日、関西万博正式開幕前のテストデーを迎えた夢洲は右も左も人で埋め尽くされ混乱の中にあった。
「金羊国パビリオン最後尾はこちらとなっておりまーす!」
最後尾を示す立て看板を掲げた警備員が立つのは入り口から10メートルは離れた場所であり、コモンズ館内部の展示コーナーでありながら30分待ちという異例の状態となっている。
展示物コーナーは出勤ラッシュの山手線並みの混雑ぶりを見せ、物販コーナーのレジもあまりの多さにパンクしかけている。
「これはまずいですね……」
様子見に来た俺は裏方からその様子を眺めながら隣にいたヘルカさんに「追加で人員増やします?」と聞いてみる。
金羊国からのスタッフはこれ以上増やせないが、日本人スタッフならまだ派遣会社側に交渉すれば何とか増員出来る可能性は高い。
問題は明らかに日本人スタッフより獣人スタッフに絡みに行こうとする来場者が多く、明らかに獣人スタッフの疲労度が高いことだがこの辺は人間スタッフを増やして無理矢理にでも仕事を分散させていくしかない。
「教育が追いつかない可能性もありますが……人が多い分には休みを増やしてあげられますからね。可能であればそうしたいです」
「すいません、交代お願いします」「お疲れ様です」
そんな話をしていると疲労困憊のガチョウ獣人さんがバックヤードへと入っていき、休憩していた日本人スタッフさんと交代していく。
「テストデーでこれなら本番は本当に人が足りなくなるかもしれませんね……」
まだ開幕してないのに先が思いやられる。
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狂乱のテストデーを終えると、今度はメディアデーがやって来る。
金羊国パビリオンにやって来たメディアは展示物について詳しく記事を書こうと関係者を質問攻めにし、無遠慮なカメラマンは獣人スタッフにしつこくレンズを向け、物販コーナーは今日も飛ぶように品物が売れていく。
スタッフ用休憩室のみんなも疲労困憊の様子で、水分や食事で身体を癒している。
「人間のスタッフ、増やせるのかな……」
「遅くともゴールデンウィークまでには増員したいので掛け合ってるところです」
現状俺がヘルカさんに言えることはそれしかない。
しかし注目度が高いからこそトラブルが起きているわけでもあるので、中々難しいところではある。
「すいません、ちょっとお時間大丈夫ですか?」
日本人スタッフの1人が俺とヘルカさんに声をかけて来た。
聞いてみると、招待されたインフルエンサーのひとりがスマートフォンで獣人スタッフの下半身や胸元の際どいところを隠し撮ろうとしているのを見つけて注意したという話だった。
「セクハラっぽいですね……」
「撮影されたスタッフさんは大丈夫でしたか?」
「本人はあまり気にしてないと言ってましたが、さすがに気になりまして」
獣人は世界的に見ればまだまだ珍しい存在だから、盗撮する人はまた出て来るのだろう。
撮影してたという際どい写真を何に使うのかは知らないが、悪用の可能性もあるからやはり気をつけた方がいいのは変わりない。
「盗撮やハラスメント対策も考えた方が良さそうですねぇ」
「私としても来てくれたみんなにとっても楽しい出稼ぎ期間にしてあげたいですからね」
来場者だけでなくスタッフさん達にとっても楽しい万博である為、開幕後もやることは山積みのようだ。




