第18話
俺が仕事に追われている間にも万博の本番は着実に近づいていく。
金羊国のナショナルデーについての打ち合わせも終わった頃には年が明け、本番に向けた準備が最終段階に入ると残業に次ぐ残業でボロボロになっていく。
昼飯にあんパンをかじりながらぬるいコーヒーで流し込み、終電間際に家路に着くと従兄弟から貰った店のあまりものピロシキとシチー(ロシアのキャベツスープ)をレンチンして食って寝る日々だ。
ただでさえ忙しいのに、ここに年度末特有の業務も重なって着実に精神が削られていく感じがする。
「今日はちょっと顔色悪くないですか?」
ついには久しぶりに会ったヘルカさんに心配される始末だ。
出来立てほやほやの夢洲駅で合流したので、真新しくピカピカの駅に顔色悪そうな男がちょっと悪目立ちしてしまうのだろう。
「あと一か月で開幕ですからね、皆忙しいですよ」
それでも俺はマシな方だ。
パビリオン建設が開幕に間に合わない事が確定した国の担当者のひとりは現在胃に穴が開いて入院したし、万博の人員募集担当者はスタッフ教育に忙殺されて泊まり込みが続き、交通系担当は市バスの採用担当と輸送用バスの人員確保に奔走している。
「無理なさらないでくださいね」
「ええ、無理はしませんよ」
駅を出ると目の前には出来立てほやほやの万博西ゲート。
今日は金羊国の展示物搬入日で、俺たちはその展示物設置の指揮を執るため万博会場にやって来た。
万博会場入って目的のコモンズ館までの間ヘルカさんは会場内で時折すれ違う関係者から注目を浴びていたが、本人はお構いなしに周囲をきょろきょろ見渡しては時折感嘆の声を上げた。
コモンズF館に到着すると、さっそく金羊国ブースへ小走りで向かう。
他の国よりも大きめのブースを割り当てられ、事前の希望通りに作られたそれを一つ一つ確認するとヘルカさんは満足げにうんうんと頷いた。
「金羊国ブース担当スタッフさんも搬入のお手伝いするんですよね?」
「はい、もうすぐ来るはずですよ」
金羊国からの派遣スタッフと日本国内で採用したスタッフの初顔合わせは前日のうちに済ませており、現在はこちらに向けて移動中とのことだった。
ほどなくして個性豊かなビジュアルの獣人たちと日本人スタッフ集団が現れ、展示物設置の準備が始まっていく。
ヘルカさん指揮の元、設置のための土台準備や機材の取り付けが勧められていく。
7割がた終わった頃に届いたのは金羊国の展示物だ。
「じゃあ展示物の取り付け行きますね。機材班は機材設置優先で、終わったらこちらをお願いします」
箱から一番に出てきたのは金羊国出張の折に見せられた、異世界の年表だった
あの時とは少し異なる仕様になった年表は丁寧さと美しさを感じられるクオリティの高いものとなっている。
「……あの後も本当に頑張ってくれてたんだ」
金羊国で出会ったシメオンさんの顔を思い出し、あの時よりも綺麗で読みやすくなった日英表記や整えられたデザインの美しさはシメオンさんの努力の成果だ。
金羊国ブースは一時間ほどで完成した。
「テストランは来月頭でしたっけ」
「ええ、4月の4・5・6がテストランで10日がメディアデー。で、12日が開幕です」
「楽しみです」




